イギリスのトラス新首相の就任演説
イギリスのトラス新首相の就任演説です。
(15) 【全訳】 イギリスのトラス新首相、官邸前で就任演説 「イギリスの人たちは嵐より強い」 - YouTube
印象的なのは、歴代の首相に比べると「格調高さ」の中にも「親しみやすさ」を感じさせるスピーチだということです。
Prime Minister Liz Truss’s statement: 6 September 2022 - GOV.UK (www.gov.uk)
冒頭部分では女王陛下への謁見の報告と前任者へのねぎらいの言葉が述べられることが一般的です。今回もそのパターンに沿っています。pay tribute to「~に敬意を払う」も就任演説ではよく出てくる表現です。tributeは由来が「与えるもの」の意味です。僕の専門分野だと、ルネッサンスの絵画のタイトルにも出てきます。
contribute to「貢献する」、distribute「配布する」やattribute A to B「AはBに原因がある」などでもtributeは語幹として使われています。全部共通して「与える」の意味があると考えると、かなりわかりやすいです。
このpay tribute toは以前スティービー・ワンダーが追悼歌を歌ったときに、Stevie Wonder paid tribute to the late Michael Jackson.「スティービー・ワンダーが故マイケル・ジャクソンに追悼歌を捧げた」という意味でニュースで使われたこともありました。pay tribute toが「敬意を払う」の意味から、歌手が「追悼歌を捧げた」の意味に転じています。the late+人名は「故~」の意味で使われ、これも英字新聞ではよく見かけます。
少し脱線しましたが、もちろん、就任演説の場合にはpay tribute toは「敬意を払う」という意味でOKです。
predecessor「前任者」という単語も就任演説でほぼ100%登場します。前任者の功績を称えつつ、どのように改善していくのかも述べて行くのが典型的な就任演説の展開です。
※British accentなのはpredecessorからよくわかります。アメリカ英語だと、[プレディセサー]に近く、イギリス英語だと[プリーディセサー]のような発音です。イギリス英語だと少しpreの部分を伸ばして発音している感じがします。
この展開や単語は就任演説頻出なので、特徴を知っておくとグッと聞き取りやすくなります。
さらに、複雑な構文や難しい語彙を多用する傾向のあるイギリスの首相の中では、トラス新首相は庶民派と称されることもあり、かなりシンプルな英語を使っている印象です。特に、"I will take action this day, and action every day, to make it happen."という部分は聞き手の層を問わず、グッと心をつかまれる部分です。make it happenは「実現する/ うまく行かせる」くらいの意味で、基本動詞をうまく使った表現の仕方になっています。基本動詞のうまい活用は心に響くもので、発音も心地よい響きです。
人を鼓舞するのが上手な人のスピーチによくみられるのがI am confident ~の言い方です。強いリーダーシップを発揮する意志をうまく表現しています。トラス新首相の英語の中ではopportunities「(絶好の)機会」やchallenges「(乗り越えたらいいことが待っているという含みのある)課題」という単語もプラスの響きがする単語として「リーダーの英語」に頻出します。マイナスの響きがするproblems「問題」や神頼みなchances「機会」ではなく、積極性を感じさせる英語です。
スピーチの英語を聴く限りだと、歴代の首相に比べて「格調高さ」だけではなく、強いリーダーシップをしなやかな強さで実現させる「シンプルな志」のようなものを体現しようとするスピーチの展開です。
最近の首相のスピーチについて分析したので、良ければ拙著『ビジネスに効く!英語の教養』(ビジネス社)もご覧ください。特に第2章を読んでみると、冒頭部分で使われている語彙や話の展開がわかります。典型的な就任演説の型が使われています。
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