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「SDGsのラベル貼り」を超えて、持続可能な世界をつくるために

ここのところ、企業のSDGsへの取組みについて「ラベル貼り」という言葉を見かけることが増えました。昨年、経済産業省が公開した「SDGs経営ガイド」の冒頭にも、こんな記述があります。

SDGsに係る企業の取組については、「既存の取組にSDGsの各ゴールのラベルを貼るにとどまっている」との評価が存在するのもまた事実である。

ここで「ラベル貼り」とは、いまある活動を棚卸して、SDGsゴールと関連するものを拾い上げ、該当するゴールのアイコンをつけ、SDGsへの取組みとして対外的な発信を行うこと、としておきます。では、なぜそれが問題なのか。そして「ラベル貼り」を超えるには、どうすればよいのでしょうか。

SDGsのカギは「変革」にある

SDGs合意の背景には、現在の状況がこのまま続けば持続可能な世界はやってこない、というリスク認識があります。だから193ヵ国は「Transforming our World(私たちの世界を変革する)」という文書に合意して、SDGsを世界共通の目標として掲げたのです。

もちろん、既にある事業にもSDGsにつながっているものがあることは否定できません。でも、現状を変えることがSDGs達成の前提となっている以上、多くの場合、いまやっていることにラベル付けするだけでは、SDGsへの取組みと言いにくいのも事実です。

コメント 2020-01-22 230003

社会的インパクト・マネジメントで「ラベル貼り」を超える

私たちは、企業が「ラベル貼り」を超えて、SDGsに向かって変革・前進するために、社会的インパクト・マネジメントを経営に取り入れることの有効性を検証しています。

社会的インパクト・マネジメントとは、企業活動の財務的な価値だけでなく、非財務の、社会的な価値(社会的インパクト)についても質的・量的に捉え、その情報に基づいて、価値を向上させていく意思決定をする経営のあり方です。

社会的インパクト・マネジメントが、「ラベル貼り」を超えた取組みに有効ではないかと考える理由は、それによって次の4つが可能になるからです。

1.企業活動とSDGsとの関連性が「見える化」される

コメント 2020-01-22 233742

社会的インパクト・マネジメントは、PDCAの段階に分けることができ、そのP段階で「ロジックモデル」を描きます。ロジックモデルは、活動と目標をロジカルに「変化」で繋いでいくもので、これによって、いまの活動がどのようにSDGs(課題解決)につながっていくのか、または反対に、なぜSDGs(課題解決)のためにいまの活動が必要なのか、が見えるようになります。

コメント 2020-01-23 235941

つまり、単に「ヘルスケア事業だからゴール3」「エネルギー事業だからゴール7」というだけではなく、なぜこの事業がゴール3に貢献すると言えるのか、その道筋やシナリオを見える化することができるのです。

2.SDGs達成貢献のための改善ポイントがわかる

コメント 2020-01-23 235942

次のD段階では、実際にそのロジックが正しいのか、実際にその変化が起きているのかを見るため、途中の変化を捉える指標を立ててデータをとります。

そしてC段階でデータを分析します。もし変化が起きていなければ「現在の事業はゴール達成につながっている」という仮説が違っていたと考えられ、その結果を、A段階で事業やロジックの修正に活かします。反対に、変化が起きていれば、「さらに変化を大きくする方法はないか」を考えて、やはり事業改善に反映します。このように、データに基づいて改善ポイントを見つけながら、社会的価値のマネジメントが可能になります。

3.事業のもたらす影響を全方位で把握できる

どんな事業活動も、ある分野にしか影響を与えない、ということはなく、複数の分野とつながり、正の、あるいは負の影響を与えています。たとえば、ある製品の環境性能は改善される裏側で、その製造工程での労働環境が悪化する、といったような状況です。実際はもっと複雑です。

「ラベル貼り」では、17ゴールの中でも、正の影響が意識される、一部分のゴールだけが取り上げられがちです。でも実際は、「負の影響」を生んでいる可能性も、意識せずに影響を生んでいる可能性もあります。

コメント 2020-01-23 001633

SDGsは、17ゴール(目標)をもって、あらゆる分野を内包していることが特徴の一つです。この特徴が、「ラベル貼り」のしやすさになっている一方で、ある事業がもたらす影響を全方位的に捉えることに役立ちます。その特徴を活用して、ビジネスが社会に与える影響の全体像を把握し、正のインパクトをより大きく、負のインパクトをより小さくするような改善を進めることが、達成に貢献するのに必要な視点といえます。

4.新たな事業を生み出すことができる

社会的インパクト・マネジメントは、既存事業への活用だけでなく、新たな事業の創出にも有効と考えています。

SDGsのもう一つの特徴に、2030年ありたい姿を示し、そこから逆算して現在を変えていく、バックキャスティング発想があります。この発想で、未来のありたい姿や解決すべき課題から逆算して、そのためにいま必要な事業を考えていく。こうしたアプローチは、現在の延長線から離れてた視点を持ち込み、新規事業開発やイノベーション促進を後押しする可能性があります。そして何より、自らの組織やビジネスの本来の価値を見つめ直し、再定義する機会は、新たな事業を生むモチベーションにつながっていくと考えています。

コメント 2020-01-23 165346


ノーベル化学賞・吉野彰さんの言葉が示唆していること

昨年ノーベル化学賞を受賞された吉野彰さんは、「優れた研究をするために大切なことは何だとお考えですか?」と聞かれ、次のように答えています。

基本的には極めて単純な話です。自分が持っている知識、あるいは技術といったシーズ(種)と、世の中で必要とされているニーズ、この2つを線で結びつければいいだけのことなんです。ところが厄介なことにシーズもニーズも日々変化していく。ーー(中略)ーー 動いている物同士をどうやって線で繋ぐかという、非常に難しい問題なんです。ーー(中略)ーー5年、10年先のことを先読みできるかが大事になってくるんです。目の前のニーズをいくら追いかけても、時間の経過とともにいずれそこからいなくなる。
(出所:致知出版社のインタビューなど)

SDGsは、2030年(10年後)までに解決したい世界の課題、裏返せば世界のニーズ。この10年後のニーズと、自らの強み(シーズ)を結びつけることができれば、社会を変えるような事業を生み出せる。その可能性を、吉野さんの言葉は示唆しているのではないかと思います。

「ラベル貼り」を超えて、SDGsと自分の強みを結び、自らを変えることで社会を変えていく。そんな企業に、社会的インパクト・マネジメントがどこまで力になれるか、どうしたら力になれるか。その可能性を探求しています。

(ケイスリー株式会社 今尾江美子)

#SDGs

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