神奈川県SDGsモデル事業最終報告会「SDGs達成に向けた、これからの自治体・企業・金融の連携のあり方とは」を開催しました
※神奈川県SDGsモデル事業についての詳細や報告書等はこちら
はじめに
神奈川県は2018年6月に「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定されて以来、県をあげてSDGs(持続可能な開発目標)の推進に取り組んでいます。過去3年間は、そのモデル事業として、社会的インパクト・マネジメント(※)という手法を使い、企業や金融機関によるSDGsへの取組みを加速させる実証事業を進めてきました。
この記事では、その3年間の取組みの総括として、2021年3月18日に開催したオンライン報告会の内容をお伝えします。
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※社会的インパクト・マネジメントとは、事業活動が社会に与える影響を可視化・測定し、社会・環境への影響を改善していく手法のこと。
第1部:神奈川県SDGsモデル事業のご紹介
冒頭では、神奈川県政策局SDGs推進課 船山竜宏課長から神奈川県がSDGsモデル事業に取り組む背景が話されました。
神奈川県 船山課長:神奈川県はいのち輝く神奈川を総合計画に掲げて取り組みを進めてきました。そして、SDGsも様々な課題を統合的に解決することが強調されています。そのため、いのち輝く神奈川とSDGsの理念が同じ方向を向いていると考えています。
また、国の方でもSDGsを通じた地方創生を掲げており、地方自治体のSDGs推進を後押ししています。それを形にしたものが「SDGs未来都市」や「SDGsモデル事業」であり、神奈川県は「SDGs未来都市」と「SDGsモデル事業」の両方に選定されています。
そして、経済・社会・環境の三側面をつなぐ統合的な取り組みが「SDGs社会的インパクト評価実証プロジェクト」ということになります。
《SDGs社会的インパクト評価実証事業の前提となる基本的な考え方》
ケイスリー 今尾:「なぜ、SDGsに取り組むのか?」ということに関しては、SDGsに取り組む企業の環境が変わってきていることが理由の一つとして挙げられるかと思います。
SDGsに取り組む企業が増えている一方で、「どのように、SDGsに取り組むか」が課題になってきています。多くの企業がSDGsのゴールの関連付けをしていますが、事業活動とSDGsとの繋がり、SDGs達成への貢献度が不明な場合もあるということです。
そこで、事業活動とSDGsを結び付けて成果の見える化をすることで、事業がSDGsに貢献できるように改善していくことが重要となります。
つまり、事業活動のSDGs貢献の整理、見える化、活用という社会的インパクト・マネジメントのサイクルをまわすことで、SDGsへの取り組みが本格化すると考えており、この社会的インパクト・マネジメントを推進していくことが「SDGs社会的インパクト評価実証事業」の大きな目的です。
《SDGs社会的インパクト評価によるエコシステム形成》
神奈川県 船山課長:民間セクターの事業活動のSDGsへの貢献を見える化して、社会的投資につなげることで、事業者の取り組みを持続可能にしていこうと考え、事業者や資金提供者の協力のもと、SDGs社会的インパクト評価実証事業に取り組むことになりました。
企業・NPO等の事業の社会的インパクトを開示、サービスを改善することで、市場が評価し、資金提供者が事業者に資金を提供するというSDGs達成につながる循環をつくっていくために、SDGs社会的インパクト評価を軸としたエコシステム形成を狙いとしています。
第2部:神奈川県のSDGsへの取り組みに関するテーマトーク
ケイスリー 幸地:この3年間はエコシステム形成に向けて主に5つのアプローチをしてきました。
具体的には、SDGsインパクト・マネジメントの優良事例の形成や担い手の育成、普及へのヒントの抽出、実践者が活用できるガイドライン作成、イベントや資料公開等の情報発信をしてきました。
これらの取り組みを複合的に組み合わせネットワークを構築しつつ、走りながら考えてきた3年間でした。
実証事業では年度を経るごとに金融との接続の色が強くなり、2018年度は事業者のみで実証事業を実施していましたが、2020年度には金融機関が主体となる取り組みを行うことができました。
研修では事業活動のSDGs達成貢献のストーリーを話すことで、SDGsインパクト・マネジメントと金融との接続の可能性が見えてきました。
フォローアップ・事例調査としては、過去の実証事業者や研修参加者のような多くの関係者が社会的インパクト・マネジメントの実践を継続しているのか、どのような成果を出されているのかということを調査しました。
ガイドに関しては、昨年の3つのガイド「SDGs社会的インパクト・マネジメント」(導入編/実践編/事例編)のエッセンスを抽出し、はじめての方にもわかりやすいガイドを作りました。
トークテーマ①
ブルー・マーブル・ジャパン 今田氏:神奈川県SDGs社会的インパクト評価実証事業は時機を得た取り組みであったと考えています。SDGsに関する取り組み方に迷っている事業者も多く、企業戦略・企業価値などを先進的に考えている人たちにとって、喉から手が出るくらい(SDGsに取り組むための)ヒントが詰まっている事業だったと思います。
はじめてのSDGsインパクト・マネジメントガイドに「整理・見える化・活用」とあるように、能動的に事業戦略を組み立て、実践し、振り返るというサイクルを回すことで、事業活動がSDGs達成に貢献することを体感することができると考えています。
そういった意味で、SDGsに取り組む関係者が戦略的に物事を考え、実践することができるツールとしてSDGsインパクト・マネジメントが普及していく予感があります。
トークテーマ②
ケイスリー 幸地:SDGsインパクト・マネジメントに取り組んだ結果、中長期的に企業価値向上につながることが見えれば事業者や金融機関に普及していくと思いますが、そこに至るにはまだ少し時間がかかると感じています。
一方で、欧米ではインパクト会計という、会計基準の中に財務情報だけではなく社会・環境への影響を盛り込んだ形で企業価値を測っていこうという動きが強まっています。
今後、ルールが大きく変わっていくと思うので、攻めのアプローチとしてSDGsインパクト・マネジメントに取り組むことも良いのではないかと思います。
ブルー・マーブル・ジャパン今田氏:企業がなぜSDGsに取り組むのかを考えることは、企業のパーパスを考えることと同じだと思います。企業に内在化されたパーパスを可視化・言語化し、生み出したい成果は何か、何を測るかを表明すること、そういった戦略性の部分が脚光を浴びていると思いますので、それを先進事例として世の中に見せることによってSDGsに取り組む他の事業者がヒントを得て、SDGsインパクト・マネジメントが普及していくのではないかと考えています。
クロージング
神奈川県 船山課長:エコシステム形成の観点でいえば、主体となる関係者が生み出す価値を認め合うということが重要だと考えています。エコシステム形成のためには企業・NPO、県民、個々の皆様の協力をいただかないといけませんし、何よりSDGsのためのアクションを取っていかないといけないと考えています。神奈川県としても皆様にSDGsのためのアクションを取っていただけるよう、サポートを引き続き行っていきたいと思います。
視聴者とのQ&A
―― Q1:金融機関に期待する行動を出来れば具体的に少し掘り下げて、聞かせてください。「誰が何を」のレベルで具体的な例を伺いたいです。(地方金融機関所属者より)
―― A1:まだ具体的な事例はありませんが、今後も金融機関と連携・協力できる体制づくりを続けていきます。
――Q2:ロジックモデルの有用性が最後までわからなかったです。この部分が最後までわからないということが、この実証事業の本質的な価値がわからなかった理由でもあります。せめて、ベストのロジックモデル事例がみたかったです。
――A2:有用性の一つとして挙げられるのは、(SDGs貢献の)道のりが示せるということです。
一般的には、事業活動が大きく向かっている方向としてSDGsと関連付けることまではできても、直接の結果が生み出す成果(アウトカム)を通じて、SDGsまでの繋がりを整理することは難しいと思います。そうした繋がりについて、組織内外での共通認識を持てることが有用性の一つと言えると思います。
――Q3:「SDGインパクト(UNDP)」を企業が活用する可能性について、ご意見をお聞かせください。
――A3:SDGインパクトの認証制度を企業や金融機関、自治体等の公的機関も活用することは大いにあり得ると思います。
――Q4:インパクト評価では(SDGsの)232の指標は使いますか?
――A4:もちろん使いますが、232の指標は、途上国の状況を背景にしたものも多く、そのまま使えるのは決して多くありません。その他の指標セットも含めて参考にしつつ、重要なのは、SDGsの大枠の中で企業が表現したい価値を表す指標を設定することだと思います。
(文責:栗野泰成)