![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/40334714/rectangle_large_type_2_0c2330dee4517c93c325b76e2d0f837b.png?width=1200)
神奈川県SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修 【第2回】開催レポート
はじめに:「SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修」第2回が開催されました!
11月20日(金)、SDGs社会的インパクト・マネジメント実践研修第2回が開催されました。第1回研修では、社会的インパクト・マネジメントの概要、その実践の要となるツール「ロジックモデル」について学びました。今回の研修では、そのロジックモデルにSDGsを紐づけること、そして、ロジックモデルにおいて設定したアウトカムを測るためのデータ収集計画について知ること、この2つをゴールとしています。
今回のレポートでは、以下のような疑問にお答えします:
1. SDGs経営を考えるためのSDGsの本質とは?
2. なぜSDGsを紐づけることが大事なのか?-SDGs経営の第一歩-
3. SDGsの紐づけにあたって大切なことは何か?
4. データ収集計画はどのように策定するのか?
5. 指標の設定に使えるリソースはどのようなものか?
1. SDGs経営を考えるためのSDGsの本質とは?
株式会社ブルーマーブルジャパン代表取締役/一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)代表理事の今田克司氏から、自組織の活動やアウトカムとSDGsを紐づけることが大事なのか、お話をいただきました。
2015年のSDGs策定に至るプロセスは、2010年頃から開始されました。策定にあたっては、各国政府や国際機関だけではなく、市民社会や企業なども関わるマルチステークホルダー形式がとられ、当時国際NGOに勤務されていた今田氏ご自身も、市民社会の立場からSDGs策定に関わっていました。
SDGsの策定開始にあたり、当時の現状認識に基づく二つの重要な前提がありました。一つは、2010年頃にすでに、このままの発展の仕方では世界は持続不能であるということ。当時から2015年に至るまで、国際社会ではテロ、気候変動、食糧危機、エネルギー危機、エボラ出血熱のアウトブレイク、といった問題が表出していましたが、日本国内でも原発問題や人口動態の観点から地域社会維持の厳しさ、といった社会課題が認識されていました。そういった時代状況に応じる形ででてきたのがSDGsです。
もう一つの前提は、必要なのは「変革(トランスフォーメーション)」であるということ。SDGsが規定されている文書「持続可能な開発のための2030アジェンダ」には、「我々の世界を変革する」というタイトルがついています。危機的な現状に対して、必要なことはつぎはぎの修繕や改革ではなく、我々の政治経済社会の土台から問い直す「変革」です。この変革の必要性は、SDGs採択の2015年から5年経った現在、ますます強まっていることを感じます。
ここで、SDGsの基本的特徴をおさらいしましょう。いくつかの整理の仕方がありますが、ここでは、①三層構造&バックキャスティング、②包摂性、③統合性、④普遍性かつ多様性、⑤つながり、の5点を提示したいと思います。
①三層構造&バックキャスティング
SDGsの前身となるMDGsと同様、ゴール/ターゲット/指標の三層構造で構成されています。また、2030年の世界を構想し、そこから現在に戻って必要なアクションを考える、つまりバックキャスティングのアプローチが求められています。
②包摂性
SDGsの達成に向けて、そのプロセスにおいても「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」ことが非常に重要です。最近では、SDGsをラベリングするだけで実質的な活動をしていない「SDGsウォッシュ」が危惧されています。このSDGsウォッシュにおいて最も懸念されているのがLeave No One Behindです。コロナ禍において、この観点は世界中であらためて強調されています。どのSDGsゴールに取り組むとしても、「一番取り残されている人々を最優先に(Reach the Furthest Behind First)」する意識が重要です。
③統合性
SDGsゴールの達成にむけたプロセスにおいて、「持続可能な社会」の3つの側面(経済、社会、環境)に統合的に対応することが求められます。SDGsという単語が最初に公に出てきたのは、環境を主テーマとした2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)ですが、その会議を契機に、環境と社会を一緒に考えることが主流化しています。②のLeave No One Behindと合わせて考えると、気候変動のマイナスの影響を最も受けるのは脆弱層であり、社会と環境は統合的に考える必要があります。気候正義という言い方も聞かれます。もちろん経済も、現在のように貧困や格差が深刻度を増している社会においては、不可分で考えなければならないものです。
④普遍性かつ多様性
基本的に途上国向けに策定された前身のMDGsに対して、SDGsは普遍的なものと言われています。しかし、内容をみていくとやはり途上国や新興国向けの仕様となっていることは否めません。SDGsは、日本など先進国も含めすべての国に適用可能ですが、様々な国別の状況、能力、開発レベルや政策及びその優先順位を考慮して、ゴールやターゲットを補足していく必要があります。
⑤つながり
自分たちの活動に対応する特定のSDGsゴールを取り上げるだけでは、真のSDGsの実践とは言えません。SDGsの実践においては、長期的目標をたて、それに必要な活動を考えるバックキャスティングのアプローチが求められていることは先に話した通りです。しかし同時に、自分たちが実施している活動を、あらかじめ設定された指標でもって、目標達成に向けた進捗状況をモニタリングするフォアキャスティングのアプローチも求められ、なによりその往復運動が大事になるのです。それによって、前後の因果関係をよりクリアに整理することもできます。
また、自分たちの活動が、考えていなかったようなSDGsの課題につながる可能性が十分にあります。自分たちの活動がどの課題につながり、そこで生み出し得るポジティブ・ネガティブ両方のインパクトも洗い出し、ネガティブなインパクトも認知、可視化することが重要です。それにより自分たちの活動を軸にみたときの、SDGsの課題間のつながりも見出されます。
SDGsを見るとき、その普遍性・多様性という観点では、日本国政府としてどのように取り組んでいるかという点にも注目してみてください。日本国政府はSDGs実施指針ならびにそれにもとづく年次アクションプランを策定しています。SDGs実施指針においては8つの優先課題が、最新の2019年12月に策定された2020アクションプランでは、I. ビジネスとイノベーション、II. 地方創生、III. 次世代・女性のエンパワーメントが日本のSDGsモデルの3本柱として設定されています。
2. なぜSDGsを紐づけることが大事なのか?-SDGs経営の第一歩-
これらSDGsの理解の仕方を踏まえたうえで、ここからは、SDGsを社会的インパクト・マネジメントで活用するための必要事項を見ていきましょう。
SDGsを社会的インパクト・マネジメントで活用するための第一歩は、自らの組織の事業をSDGsと紐づけることです。しかしそれは、企業にとってSDGsを考えるのに必要条件ではあるが、十分条件ではありません。
必要条件であるのは、組織が、ESG投資、インパクト投資の時代に生き抜くことができるように、自社の取り組みにとってのマテリアリティ(重要な社会課題)を意識することができるからです。また、組織の取り組みが、グローバルまたは国内・地域などのゴール&ターゲットのまとまりのどこに位置づくのか、ゴール&ターゲット間のつながりがどうあるのかを確認することができるからです。
十分条件ではないのは、SDGsに関連して目標と指標を掲げたあとに、そこを目指して歩みを進め、測って報告しない限りは、SDGsとロジックモデルを紐づけたことの真価を発揮できないからです。そしてここに、社会的インパクト・マネジメントの視点が必要となってきます。加えて、SDGsウォッシュとみなされるリスクを回避するためにも、企業単位の取り組みだけではなく、業界として、セクターとして、というようなより高次の取り組みを関連させて分析・統合することも必要になってきます。ここには仲介役としての、国や自治体の役割も求められるところです。
3. SDGsの紐づけにあたって大切なことは何か?
以上の今田氏の整理を受けて、グループワークを行いました。
グループワーク①:ロジックモデルとSDGsを紐づけ
今回の研修までに、各参加組織は宿題としてロジックモデルを作成してきています。このワークでは、これに対してSDGsを紐づける作業を行います。まず、自らの組織の事業と関連すると考えたSDGsターゲットが、作成してきたロジックモデルの各アウトカムとも関連があるかを確認します。各アウトカムとSDGsターゲットを照らし合わせて、もし違和感があれば、別のSDGsターゲットで適切なものがあるか調べます。自分に都合のよいものだけを選び取る、いわゆるチェリーピッキングではなく、なぜこれらのターゲットが事業に紐づけられていると言えるのか、という観点で考えることが大事です。
各グループを見て回ると、ロジックモデルにおいてインプット(事業活動)から発現するアウトカムの設定の仕方、またその表現の仕方、に悩んでいる参加組織が多くみられました。それに対するメンターからのアドバイスを、いくつかご紹介したいと思います。
・一般論として、活動をした結果として、アウトカムが直接的に発現するものかという点をしっかり整理するとよいでしょう。活動の直接アウトカムとして設定されているのに、実はそのアウトカムは対象の活動から遠いところにあるケースが見られます。その場合、活動に直接関連していないがために、成果測定をする際に「成果が出ていない」と判断される可能性もあることに注意です。
・設定したアウトカムが、確かにロジックとしてはインプットから繋がっているものであっても、成果として測定しうる性質のものかどうか、という観点も忘れずに持ちましょう。
・主語を意識して活動やアウトカムを考えてみると、整理がすすむことがあります。
さらに、1回目のグループワークの最後には、各グループをまわっていた今田氏から総評がありました。
各グループを回っていて、参加組織の皆さんがSDGsの使い勝手の悪さに直面していることが見て取れました。SDGsのターゲットレベルになると、途上国仕様になっているものが多いのは事実です。それに対し、自らの組織の事業分野やカバーする領域と言う点で読み替えて理解することに問題はありません。
SDGsの特徴の一つである普遍性と多様性について、必ずしもグローバルな17のゴールやターゲットだけを見るのではなく、先に見た日本国政府のSDGs実施方針や年次アクションプランのような国や地域レベルで策定されているSDGs方針を参照してみましょう。自分たちの組織の事業が、そこに書かれている社会課題のどこに紐づくのか、より具体的な文脈の中で俯瞰してみる、というのはSDGsの紐づけにあたって有用な頭の体操になるでしょう。
社会課題の分析はよりしっかり深堀すると、中間や最終アウトカムを考える際に生きてくるはずです。例えば、地域の健康寿命を延ばすというゴールを目指す時、対象は誰か、取り残されている人はいないか、といった点に留意しながら事業をしましょうというのがSDGsです。事業のターゲットとして、地域にいるお年寄り、というより詳細に、その中のセグメントを考えてみましょう。顧客のセグメンテーションは、企業でマーケティングをする際にも良く行われていることです。社会的インパクト・マネジメントにおいても構造は同じで、企業マーケティングで誰が購買層なのか?という点を、誰が事業の裨益者になるのか?と言い換えてセグメンテーションして言語化してみると、社会的課題の解決と言う観点ではまずは対象者を深堀できるはずです。
4. データ収集計画はどのように策定するのか?
ケイスリー株式会社の高橋より、社会的インパクト・マネジメントに必要な、データ収集計画について説明しました。
SDGs経営への取り組みは、SDGsの各ゴールと自社事業との関連付け(レベル1)からはじまり、測定結果の活用(レベル5)に分けられることは、実践研修第1回で説明しました。このうち測定(レベル4)では、アウトカムの達成状況を判断するデータの収集と分析を行います。そのために、アウトカムを測るための指標を設定し、それを誰、そしてどこから、どうやって、いつ集めるのか、データ収集計画を立てる必要があります。
データの種類には、定量データと定性データの大きく2種類があります。定量データは、数値で出せるので比較がしやすいものです。一方で、なぜそうなったのか、因果関係を把握することは難しいという弱点もあります。定量データと並んで定性データもあると、問題の所在がわかるので、より事業改善につなげやすくなります。
データ収集方法には、様々なやり方があります。定量データを把握するためのものとして、計測といった方法に加えて、定性データを集めるには観察という方法もあります。さらに、自治体や自社等の既存データなど二次データを使うことも可能です。これはコストがかからないのがメリットである一方、自治体等の既存のデータの場合、自社事業の影響でそうなったのかという因果関係がわからないケースもある点には注意が必要です。
指標を設定し測定するにはお金がかかります。そのため、必ずしも全てのアウトカムについて測定する必要はありません。事業成果を測るために最も大切なアウトカムを選びだし、まずはそれを測定するという進め方が現実的といえます。また、最終アウトカムは外部要因の影響も受けやすいので、測らない、という選択をしても構いません。
指標の測定にあたっての注意点としては、前後、時系列などの観点で比較対象も考えましょう。実際の測定において、既存のデータとして一般的に利用できるものとして、社会的インパクト・マネジメントイニシアティブ(SIMI)が出しているアウトカム指標データベース(脚注1)や、Global Impact Investing Network(GIIN)が出している投資家向けインパクト測定ツールIRIS+(脚注2)の活用も考えることができます。
調査する際には、調査倫理に配慮することも求められます。不要な調査の濫発は「調査暴力」と呼ばれます。知りたい内容について、類似の先行調査や二次データがないか、十分に事前の確認が行われるべきです。また、個人情報についても、管理の仕方や、破棄の時期と仕方に注意しましょう。
脚注1. SIMIアウトカム指標データベース https://simi.or.jp/tool/outcome_indicators_db
脚注2. GIIN IRIS+ https://iris.thegiin.org/
5. 指標の設定に使えるリソースはどのようなものか?
指標の設定の仕方については、ケイスリー株式会社の落合から自社の経験を踏まえた話をしました。
指標の設定にあたり、効率性や有効性の観点から、まずは自らの組織が持っているデータの中に使えるものがないか、というところから始めることが多いです。次に、二次データについては、分野によって非常に有用なものもあるのでご紹介します。環境系であれば、米国の非営利組織Sustainability Accounting Standards Board(SASB)が作る情報開示ルール(脚注3)や、オランダに本部を置く非営利団体Global Reporting Initiative(GRI)がサステナビリティ・レポーティング・ガイドライン(脚注4)などにおいて、産業セクターごとに適当とされる指標が一定のスタンダードとして提示されています。
中央省庁が整備を進めているオープンデータも活用が可能です。現在、各省が持っているデータのウェブ上保管先が一元化されつつあり、データ自体もエクセルでダウンロードして一覧できるようになってきています。
他にも、組織の活動分野に関連する学術論文のレファレンスとして出している文献なども当たってみると、参考になる可能性があります。論文や文献の中で、組織の活動分野において今まで使われているデータの種類や、比較的良く用いられる指標の存在などを洗い出すことができます。このように、意外とデスクトップ上でできることもあります。また、同じ分野の他の研究や調査内容に触れることで、自らの組織が用いようとする指標やデータが独りよがりになるリスクも低減できます。
脚注3. SASB情報開示ルール https://www.sasb.org/standards-overview/download-current-standards/
脚注4. GRIサステナビリティ・レポーティング・ガイドライン https://www.globalreporting.org/how-to-use-the-gri-standards/resource-center/
グループワーク②:データ収集と計画
この日2回目のワークとして、実際にデータ収集計画策定に取り組みました。とはいえ、計画を立てていくのはとても時間がかかるので宿題とし、このワークでは宿題を進めるための土台作りを行いました。
土台部分として押さえておくべき理解として、メンターからいくつかアドバイスがありましたのでご紹介します。
・社会的インパクト・マネジメントにおいては、社会的価値のデータが必要となりますが、今の状況を測ることも求められます。現在地を把握することが目的です。それにより、目標地を精査し、活動後の達成度を把握することが可能となります。
・アウトカムの表現については、まずは作成した人たちの間で同じ理解を持っているかを確実にすることが重要です。
・一つのアウトカムに対して指標が複数あることもあります。
指標を考えながらあらためてロジックモデルを見渡し、精査していくことができます。
・アウトカムに含まれる具体的な内容を一度洗い出し、それぞれのアウトカムの間をつなぐストーリーを明らかにすることで、ロジックが明確になります。
おわりに:次回にむけて
2回の実践研修において、社会的インパクト・マネジメントとロジックモデルの概要を理解し、実践するためのワークも行ってきました。次回12月4日(金)開催の実践研修第3回では、社会的インパクト・マネジメントとロジックモデルが金融との接続の面でどのように活用されうるのか、という新たな内容に入っていきます。実践研修第3回のレポートもお楽しみに!