ピアノとソナタ 第11話
〇〇:〜♪
久保:あ、ストップ!
〇〇:え?何か違いました?
久保:音は合ってるんだけどもう少し軽やかに楽しく弾いたらどうかな?
〇〇:え?でも…
久保:テクニックを見せる曲ではあるかもしれないけどやっぱ感情をもっと見せて明るく楽しく弾いてみたらいいんじゃない?そうすれば曲全体としても良くなると思うよ?
〇〇:わかりました
ハイドン ピアノソナタ第50番 第一楽章
重めな曲が多いハイドンの中では明るく軽快な曲でテクニックも必要とされる
僕自身がこの曲を選んだわけではなく久保先生が選んでくれた
〜〜〜
久保:今の君ならこの曲がいいんじゃないかな〜って思ってね!弾いたことある?
〇〇:無いわけではないですけど…
久保:じゃあこれにしよう!
〜〜〜
コンクールは6日間の間に一次・二次予選となりその5日後のファイナルは予選からの3名と推薦組の4名を合わせた7名で争われる
必然的に僕の場合練習出来る時間はあと1ヶ月も無く、3月のコンクールまで時間との闘いだった
〇〇:ダーン♪
久保:うん、いいんじゃない?
〇〇:ありがとうございます。ところで…美空さ?
美空:なに?
〇〇:なんで動画撮ってるの?
美空:瑛紗に見せるためだよ?ほら!本番だけじゃ瑛紗も不安だろうから練習から見せてあげれば少しは良いかな?って
久保:池田さんだって応援してくれてるんだからそれくらい許してあげなさい?それに本番はホールに何百人とお客さん入るんだから動画のひとつやふたつ気にしないの!
〇〇:確かにそうですけど…どうせなら本番でちゃんとしたのを聴いてほしいような…
美空:ほら!時間無いんでしょ?どんどん弾くの!
〇〇:は、はい!〜♪
久保:一ノ瀬さんと池田さんには逆らえないかな笑
美空:逆らえないんじゃなくて…多分…本当に集中してるから気にもしてないんだと思います
久保:確かに弾いてる時の迫力は凄いもんね
美空:大丈夫ですかね〇〇…
久保:一次は一発勝負の一曲のみ。でもそれなら…新田くんなら大丈夫。彼は元々持ってるものがあるから。嫌な子供時代に何度も何度も弾いてきた蓄積を呼び覚ませばいい。ただし…今の彼の気持ちを殺さずにね
美空:先生…
久保:大丈夫、信じましょう
ーーー
瑛紗:……
総馬:すげーな…
美空:私もやっぱり〇〇のピアノは凄いと思っちゃうよ…
総馬:なにしてても引き込まれる…
美空:どう瑛紗?
瑛紗:…なんか、こういうの聞くと元気にならなきゃなぁって思うよね
総馬:だよな…一次は非公開だけど二次は見れるから行かないか?
瑛紗:それはもちろん!1日だけなら外出許可貰えると思う!
美空:みんなで行こう!
瑛紗:それとさ…美空、さっきの動画送ってくれない?
美空:いいよ!もちろん!このピアノは何回でも聴きたくなるもんね!
総馬:やっぱ…〇〇はピアノしかねぇよな…笑
瑛紗:そうだよ笑
ーーー
コンクール前日
久保:よーし、もう大丈夫そうね
〇〇:今はいい自信があります笑
久保:もうファイナルまで行く気満々ね笑
〇〇:そのために色々やりましたから…
久保:本当の気持ちは?
〇〇:…え?
久保:不安とあとは恐怖感?
〇〇:…まだ少しあります
久保:うーん…それならあそこ行ってきなさい?
〇〇:あそこって?
久保:ピアノを弾かせた人のところ?
〇〇:……
久保:技術の自信はあるなら、心の自信も付けてきなさい。あなたは自分が思ってるよりも彼女からたくさんのことを貰えるのよ?
〇〇:わかりました…行ってきます
久保:あとで明日の時間連絡するね
〇〇:はい
ーーー
病院
〇〇:コンコン
……
〇〇:あれ?コンコン
ガラガラ
彼女は窓を開けて夕陽を感じながら絵を描いていた、耳にイヤホンを付けて1人のその時間を楽しんでいた
僕は静かに近くの椅子に座りその姿を眺めていた
何を描いているのかは夕陽の逆光でよくわからなかった
でも肖像画なのだろう
鉛筆で再現されてるその人の絵は…
瑛紗:ん?バッ!え!?いつからいたの!?
〇〇:ご!ごめん!あまりにも集中して描いてるから…
瑛紗:その前に女の子の部屋に勝手に入ってくるなんて!私が脱いでたらどうすんの!?
〇〇:ちょっ!え!?ぬ、脱ぐ!?
瑛紗:そんなに見たいなら〜見せてあげてもいいよ??笑
〇〇:か、勘弁してぇ!!
瑛紗:勘弁って台詞もおかしい!!
彼女は…本当に僕の…心の中を読んでいるかのようだった
今僕に欲しいもの、それは何も意味のない会話から出る心の落ち着き
そして、彼女の声だった
瑛紗:で?どうしたの?明日の一次予選に向けて瑛紗ちゃんがいないから不安なのかな??
〇〇:……
瑛紗:…私いなくても〇〇は大丈夫だよ?それに、二次予選は見に行くから?
〇〇:本当に?
瑛紗:私は嘘つかないよ笑それにもう外出許可貰ったから来るなって言われても行くからね笑
〇〇:これは…明日負けられないな…笑
瑛紗:いいんだよ負けても
〇〇:え…
瑛紗:私は〇〇のピアノを聴きたいだけなの。優勝とかよりも〇〇が楽しそうに好きなようにピアノ弾いてる姿が見たいの…それに…
〇〇:それに?
瑛紗:もし負けても、私の携帯にピアノ弾いてる〇〇の動画あるもんね!
〇〇:あ!美空が撮ってたやつ!練習のだから消して消して!
瑛紗:嫌だねー!笑消して欲しかったら二次まで残ってよ!というか優勝したら消してあげるね!
〇〇:…そんなの結局勝てって言ってるようなもんじゃん…
瑛紗:てへ❤️明日頑張ってね…応援してるね
〇〇:ありがとう…頑張る
ーーー
学校
総馬:おはよう美空
美空:おはよう総馬、いよいよだね…
総馬:〇〇なら大丈夫だろ?それに…瑛紗の熱いゲキが飛んでるしな笑
美空:なになに?
瑛紗📱:〇〇頑張ってね!負けたら一生話さない
美空:うわお笑これは…〇〇やるしかないね笑
総馬:あいつなら大丈夫だよ笑それか…案外久保先生に抱きついてたりして笑
ーーー
久保:……16歳に抱きつかれてもドキドキしないんだけど…
〇〇:周りのみんなが僕を見てる…
久保:そりゃあ、あなた有名人なんだから笑
おいあれ…
新田だ…ザワザワ
神童と呼ばれた男…
〇〇:周りはみんなじゃがいも…周りはみんなじゃがいも…
久保:いつの時代のおまじないなのよ笑
〇〇:助けて久保先生!
久保:自分でなんとかしなさい!笑プルルルはい、あーはいはい笑ほら!新田くん電話!
〇〇:え?あ、はい…あ、もしも…
なーに緊張してんの!
〇〇:え?い、池田さん??
瑛紗📱:やっぱり緊張してるね笑声がいつもより震えてる笑そんなんじゃ二次で聴けないじゃない笑
〇〇:だって…周りがみんな敵に見えて…
瑛紗📱:当たり前じゃない笑コンクールだよ?みんな敵でしょ笑
〇〇:あ、そうか…
瑛紗📱:どう?そう考えたら少しは気が楽?
〇〇:…多少…
瑛紗📱:何度も聞くけど…誰のためにピアノ弾くの?
〇〇:え…
瑛紗📱:それを思い出したらいいんじゃない?だってそもそも君はそこにいる人じゃないんだから笑
〇〇:ひ、酷い…
瑛紗📱:あははは笑じゃあ頑張ってね笑負けたら会いに来るなよ?笑ブツッ
久保:どう?…あ、落ち着いた…
〇〇:自分のピアノを弾くだけで良いんですよね?
久保:新田くんが自分のピアノを弾いたら周りの人びっくりすると思うけどね〜笑
〇〇:わかりました…全力で頑張ります!
久保:よし!行ってこい!
ーーー
次25番…新田さんお願いします
〇〇:…ふぅ…はい
審査員:来たか
審査員:神童新田〇〇
審査員:2年前このコンクールで失敗してから全てのコンクールから消えたあの
審査員:2年の間にどう変わったかな
〇〇:……
ハイドン ピアノソナタ第50番 第一楽章
入りもいい
タッチも滑らか
練習よりも気分がいい
審査員の視線は感じる
でも気にならない
今聞かせてるのは…
これが今の神童…
凄い…こんな風に弾く人じゃなかった
テクニックと音のバランスが良い
感情をこんなに表現出来るようになったのか
きちんと作曲家の気持ちと自分の表現したい音楽を作り上げて完成度が高い
一体どうなってるんだ…
〜〜〜
瑛紗:絵も自由なように音楽も自由なんだよ?
〜〜〜
そう、音楽は自由なんだ
言われたことをやるのではなく
自分の思った通りに
どうせなら…
え?跳ねた?
あんな楽しそうに…
前に失敗したコンクールってことわかってるのか?
楽しく、後悔なく
僕は自由なんだ
〇〇:タターン♪
恐ろしい…
これは今年のコンクールは凄いぞ
〇〇:ふぅ…ペコッ
ーーー
久保:お疲れ様〜どうだった?
〇〇:自分のやりたいピアノが弾けました
久保:ふふ
〇〇:なんですか?ダメですか?
久保:ううん笑君が自分のやりたいピアノ弾き始めたらもうほとんどの参加者が勝てなくなるなぁって思って笑
〇〇:え?
久保:さ!結果出るまで時間あるからご飯食べよ!
ーーー
総馬:そろそろ終わったか?
美空:かな?でも久保先生からも連絡来ないし…〇〇にLINEしたけど…
総馬:まさか…ん?あれって
美空:あー!!
ダッダッダダ!!
美空:2人とも!
〇〇:あ、お疲れ〜
久保:もう放課後だもんね笑
総馬:連絡くらいよこせ!
〇〇:ご、ごめん…
美空:それで…結果は??
〇〇:うん…
総馬:は?
美空:まさか…
久保:とりあえず…一次で落ちるわけ無いじゃない笑
美空:あー!!びっくりした!!
総馬:頼むぜ…マジで心臓に悪い!!
〇〇:あ、池田さんに連絡してない
総馬:あーもしもし瑛紗?今変わるわ…ほら、〇〇、自分で報告しろよ
〇〇:も、もしもし
瑛紗📱:報告遅すぎ!なにしてたの!?久保先生とイチャイチャしてた!?で!どうだったの!?
〇〇:う、うん…一次通ったよ?
瑛紗📱:よかったー!おめでとう!
〇〇:ありがとう
瑛紗📱:二次のためにも私も準備しないと!
〇〇:本当に聴きに来てくれる?
瑛紗📱:もちろん!私のためにあんな大きな会場で弾いてくれるんだから贅沢すぎる〜
〇〇:いや…コンクールだから…
瑛紗📱:いいから、楽しみにしてるね?
〇〇:うん、ありがとう
瑛紗📱:じゃあ…二次の時に会おうね
〇〇:うん…
瑛紗📱:練習頑張ってね!じゃあね!ブツッ
総馬:なんだよ?俺らはイチャイチャを聞かされたのか?
美空:いいなぁいいなぁ!
久保:さて、イチャイチャ終わったから練習しようか?今日は帰さないよ?
〇〇:…え?
ーーー
瑛紗:よし!出来た!ねぇお母さん
瑛母:なに?
瑛紗:お願いがあるんだけど…
ーーー
久保:この2曲は…凄いね笑
〇〇:ダメですか?
久保:間に合うの?
〇〇:家に帰れないなら練習出来るので…笑
久保:ふふふ笑じゃあ教員の仮眠室使えるようにしてくるわね笑
発表曲
シューベルト ピアノソナタ イ短調 16番
ドヴュッシー 喜びの島
演奏者 新田 〇〇
ーーー
もしかしたら
自分のやりたいことはピアノじゃなくて誰かを勇気づけ、誰かに楽しんでもらいたかったからじゃないか?
その1つがピアノというただの手段にしかすぎないのじゃないか
それでもそれで誰かが…彼女が幸せになるなら…
〇〇:う、うーん…
ガチャ
久保:起きた?
〇〇:おはようございます…
久保:さすがに夜中3時はやりすぎ笑
〇〇:いや…集中してたから…
久保:公欠取れたから知り合いのピアノ教室のピアノ使えるようにお願いしたよ?行ってらっしゃい
〇〇:ありがとうございます…その前に…
久保:その前に?
〇〇:お腹空きました…
久保:朝ごはん食べに行こうか笑
〇〇:はい!
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