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ピアノとソナタ 第8話


学園祭の余韻もどこへか行き
それぞれのやるべきことに戻った
あれから美空は生徒会に入り
総馬は冬休み中に行われる高校生バンド選手権に参加することになった

僕はあれからなにも変わらない
ただ久保先生に頼まれて弾くことはあったとしても人前で弾くのではない

久保:うーん…


〇〇:何か違いました?


久保:もう少しここは明るく弾いて欲しいな〜


〇〇:わかりました


なにをやっているかというと合唱部の練習用の曲を録音している
ただ量がなぜか多い
無茶振りに近いのは予想外だった


久保:ありがとう〜あと4曲ばかり…


〇〇:今日は無理です!


久保:あはは笑冗談よ笑


〇〇:先生人使い荒いです…


久保:はい、お茶飲んで!


〇〇:ありがとうございます…美味しい…


久保:そういえば池田さんは?最近見てないけど?

彼女はここ最近学校に来てない
いたとしても午前中だけとか午後に来るとかが増えた
ただいる時はいつも元気だ

〇〇:元気です、大丈夫ですよ


久保:彼女は無理するところあるからね〜特に新田くんといる時はね?


〇〇:そうですか?


久保:彼女は尽くすタイプじゃない?


〇〇:そこはよくわかりませんが…


久保:ふふふ笑そこは新田くん気づいてあげないと、いい旦那になれないよ??笑


〇〇:ゴッフ‼︎え!!?だ、だ、旦那!!?

ガチャッ

久保:ほーら噂をすれば笑


〇〇:あ


瑛紗:あ、とはなによ!?来ちゃいけないわけ?…まさか久保先生と…


久保:世間話してただけよ〜彼氏返してあげるから大丈夫よ笑


〇〇:か、か、か、彼氏…


瑛紗:ほーら早く帰るよ!帰りにカフェ寄ろう?


〇〇:え?あ、うん?


久保:新田くん?


〇〇:はい


久保:君はもっと自分に素直になりなさい、絶対大丈夫だから


〇〇:え?どういうことですか?


久保:まぁデート行ってらっしゃい!お疲れ様!

ガチャ…バタン

久保:素直になりなさい…か…

ーーーーー

瑛紗:美味しい〜このパンケーキ♪


〇〇:こういうところは美空と行けばいいのに…


瑛紗:美空は忙しいでしょ?それに総馬と行くとヤキモチ妬かれるし、総馬も惚気しか言わないから腹立っちゃう…


〇〇:うん…そうか…


瑛紗:なに?このピアノを弾かせた恩人に対して迷惑とか言いたいの??


〇〇:違うよ、僕なんかでいいのかなって…


瑛紗:あのね〜誘ったのは私!だからいいに決まってるでしょ?だからはい!


〇〇:え?


瑛紗:あーん❤️


〇〇:…恥ずかしいよ


瑛紗:ほら早く!あーん…


〇〇:あーん…パクッ…美味しい…///


瑛紗:照れすぎだって笑


〇〇:だって…


瑛紗:そういえばあれから久保先生のところでよくピアノ弾いてるよね?なにかあった?


〇〇:う、うん…久保先生に頼まれて合唱部の練習のための曲弾いてるんだよ、パート別とか色んなのあるから


瑛紗:…弾く気になったんだ


〇〇:ううん…でも…前よりは怖くなくなったかな…

ワシャワシャワシャ


〇〇:うわ!え!?


瑛紗:そっかそっか!弾く気になったか〜うん…嬉しい…

その時の顔はどこか嬉しさと悲しさ両方だった気がする
僕たちがどれだけお互いを理解しようとしても過去や未来ではなく今の自分達を知るだけで精一杯なのだ

瑛紗:はー美味しかった〜


〇〇:もうお腹いっぱい…


瑛紗:また食べに来ようね!


〇〇:う、うん!


瑛紗:そうだ!ねぇ…


〇〇:なに?え…


瑛紗:このまま歩かない?


〇〇:いいの?


瑛紗:うん…ちょっと寒いし…

甘えた時の彼女はお世辞無しで可愛い
この冬も近づく秋の風に僕達の手は
包まれて温かく感じる…


居た…
タッタッタッ…

ガツッ!


〇〇:え?

パアーン!

瑛紗:え?

はぁはぁはぁ…
今までなにしてたの…


〇〇:…え


あんな曲を弾いて…
忘れたとは言わせない…
あなたが居ないコンクールで優勝したって面白くない…


〇〇:い、生田…さん?


生田:あなたは学園祭みたいなところで弾くような人間じゃない…ドイツから帰ってきたらなに?コンクールどころかあんな学園祭で全く違う曲弾いて…あなたはクラシックに生きる人なのよ!?


瑛紗:あなたいきなりなに!?


〇〇:やめて…生田さん…僕はもうコンクールでピアノは弾かないんだ


瑛紗:え…


生田:なにそれ?私がコンクールに出て勝てなかったのはあなただけ、ドイツで優勝してオーケストラとも共演した!なのにあなたはなにやってるの!?


〇〇:行こう…


瑛紗:え…


生田:待ちなさい…

バッ

〇〇:これは…


生田:私は来年このコンクールに出る…逃げないで勝負しなさい…


〇〇:……


生田:絶対に勝つんだから…タッタッ


瑛紗:大丈夫?これって…テュラム国際コンクールって…


〇〇:池田さん…ちょっと話さないかな…


瑛紗:う、うん…


〇〇:そこの浜辺で…

ザァーン…ザァー…

〇〇:ごめんね、びっくりさせて


瑛紗:私は大丈夫だけど…あの人は?


〇〇:生田絵梨花さん、僕がコンクール出てた時によく一緒に出てた人だよ


瑛紗:そうなんだ…


〇〇:僕がピアノ弾いてたのは知ってるよね?


瑛紗:美空からだいたいは聞いてる、やめたことも


〇〇:僕はコンクールで失敗した…そしてそれからピアノを辞めた…もう2年出てないけど失敗したコンクールで優勝したのが生田さんでそのままドイツに留学した…僕はそのままコンクールに出なくなった


瑛紗:生田さんは〇〇に勝ちたい…そのために帰ってきた…


〇〇:全く…わがままだよね…僕はあの学園祭の時だって…池田さんの一言が無かったら弾かなかったのに…笑


瑛紗:でも…実際弾けて、それを生田さんは聞いてたってこと…


〇〇:うん…僕は…どうすればいいんだろうね

優しくも迫ってくる波の音が
今の僕には耐えがたいくらい痛く
何も言わずただ優しく抱きしめてくれた彼女に
身を委ねて思うことは
僕は本当に弾きたいのか
弾くというのは人前に出ることなのか
人に聴かせなきゃピアノじゃないのか
ただ出てくる疑問が不安や得体の知れない恐怖にしかならなかった

ーーー

総馬:今年の期末も地獄だった…


美空:勉強会も虚しく…


〇〇:補習逃れただけありがたいと思わないと…


瑛紗:総馬はいい人だけど…これは悲惨…


総馬:しょうがないだろ!冬休みの高校生バンド選手権の練習しかしてなかったんだから!!


〇〇:ほぼ一夜漬けで詰め込み教育した甲斐はあったけど…このままだと3年の時卒業出来るかな…


総馬:やる時はやる男だ!


〇〇:それでももう少し頑張らないと…


総馬:これで冬休み全部練習出来るぜ!


美空:…クリスマスは??


総馬:もちろん!デートしようね!


美空:うん❤️


〇〇:クリスマスか…


瑛紗:どうしたの?


〇〇:ううん…なんでもない…

ーーー

クリスマスが近づくにつれどんどん寒くなる
音も夏とは違う

〇〇:〜♪

ガチャ

瑛紗:どうしたのその曲?


〇〇:…子供の頃さ、クリスマスっていう日を過ごしたこと無かったんだよ


瑛紗:どうして?


〇〇:いつもピアノしか弾いてなくて学校行くとみんなクリスマスプレゼントとかの話してるのに僕にはそんなの関係なくて、それで母親にプレゼント欲しいって言ったらめちゃくちゃ怒られてね…


瑛紗:うん


〇〇:だからクリスマスっていい思い出無いんだよね…そもそもクリスマスという何かをやった事がなくて…


瑛紗:私もそうだよ?


〇〇:え?池田さんも?


瑛紗:私もクリスマスはなぜかタイミング合わなくてね笑プレゼントは貰ったけどクリスマスパーティーとかお出かけとかしたことなくていつかしたいな〜って思ってた


〇〇:僕らそこは似てるんだね笑


瑛紗:クリスマス一緒にいようよ?


〇〇:え?


瑛紗:クリスマス未経験者同士でデートしようよ笑


〇〇:で、で、で、デート!!?


瑛紗:別にそう言うくらいいいでしょ笑


〇〇:いや…それでもね…


瑛紗:行くの?行かないの?行くよね?ね?


〇〇:い、いきます…


瑛紗:ふふふ笑じゃあもう一回さっきの弾いて?


〇〇:え?


瑛紗:少しくらいいいでしょ?


〇〇:え?あ、うん

僕らは時々妙にシンパシーを感じる時がある
性格は似てないし彼女のような美貌を持ってる人は世界を探してもいない…と思う
ただ僕にとって彼女はなんなんだろうと思うこともある
むしろ疑問しかない
彼女は僕といる理由はなんなのか
何度も問いかけているが答えはない
ただし彼女から感じる何かに僕は妙な引っ掛かりを感じる


坂本龍一/戦場のメリークリスマス

ーーー

キーンコーンカーンコーン

担任:よーしこれで2学期は終わりなー明日からの冬休みもしっかり過ごせよ


美空:明後日のクリスマスイブはどうするの〇〇?


〇〇:イブは何もないかな?


総馬:イブは?


〇〇:クリスマスは池田さんと…


総馬:へぇ…ニヤッ


美空:へぇ…ニヤッ


〇〇:な、なに?


総馬:あの〇〇がねぇ〜ニヤニヤ


美空:瑛紗と一緒にクリスマスね〜ニヤニヤ


〇〇:さ、誘われたから!


美空:そんなのわかってるよ笑だって〇〇が誘えるわけないもん笑


〇〇:う、そ、それは…


総馬:事実だろ笑


瑛紗:なになに?どうしたの?


美空:〇〇とクリスマスデートするの?


〇〇:で、で、で、デート…


瑛紗:うん!そうだよ!


クラスメイト:なに!!?池田さんと〇〇がクリスマスデート!!?


瑛紗:そうよ?なにか文句ある??


総馬:うひゃひゃひゃ!笑そうだよな!信じられないけど本当のことだもんな!!笑


〇〇:僕晒し者じゃん…


瑛紗:ほら!クリスマスの日は彼氏なんだから堂々としてなさい!!


クラスメイト:え!?彼氏!?


〇〇:か、か、か、彼氏!!?


総馬:おーおー!!笑ついにそこまでになってたか!!瑛紗と〇〇が付き合ってるのか!!


〇〇:総馬!ち、違うんだ!!これはそのーあのーえーっと…

ポン

〇〇:え?なんで肩叩かれるの??


クラスメイト:ちょっと話聞こうか?


〇〇:池田さんのばかーーーー!!!!


総馬:うひゃひゃひゃ!!笑生きて帰ってこいよ!!笑それはそうと瑛紗も大胆だなぁ笑


瑛紗:いつまでもウジウジしてるから…


総馬:焦るかそりゃあ…


瑛紗:焦ってるというか…なんか…


美空:確かにここ最近〇〇って変わったよね


総馬:瑛紗のおかげだけどな笑


瑛紗:あれだけやってるのに何一つ無いのおかしくない??


美空:〇〇は…しょうがないよ…笑


総馬:あいつに積極性とか恋心ってものを教えても理解しねえよ笑それでも瑛紗次第だよこの先も笑

ガラガラガラ


〇〇:ハァハァハァ…


総馬:よっ!!終わったか尋問は?笑


〇〇:久々に追い込まれた気がするよ…


美空:汗だく笑


瑛紗:あら〜大丈夫?


〇〇:そもそも池田さんのせいだからね…


瑛紗:なに?文句?


〇〇:いえ…すみません…


総馬:明後日のクリスマスイブは〇〇の家だなこれは笑


美空:クリスマスの日にデートしようね総馬!じゃないとこの2人…大変そうだもん笑

ーーーーー

祖父:クリスマスイブから翌日まで家使っていいぞ?


〇〇:え?嘘?


祖父:わしらはホワイトクリスマスに行くんじゃ


〇〇:どういうこと?


祖母:北海道でクリスマスデートするんだよ


〇〇:…聞いてない


祖父:だから好きなように使いなさい

ーーー
〇〇📱:というわけで、家使えます


総馬📱:じゃあみんなで泊まろうか!


美空📱:賛成!


瑛紗📱:クリスマスデートは別々でね!


〇〇:ちょっ!…やっぱ2人か…でも…

📱プルルル

〇〇:ん?総馬?


総馬📱:4人で遊ぶなんて甘い考えしてそうだったからな笑


〇〇📱:……


総馬📱:まぁ〇〇は瑛紗のこと何と思おうとも楽しませなきゃダメだからな?それはお前が少しずつ変わっていけるきっかけを作った人への恩返しだからな


〇〇📱:わかった…


総馬📱:明日から楽しみだな笑


〇〇📱:笑いが不気味だよ…

冬の寒さによる海からの風が痛くそして強く吹くのに慣れたのも僕がずっとここにいるからだろう
時に風は心地良さを時に自分を生かさないような厳しさを伝え通り過ぎていく
僕はここに来てから自由でありながらも祖父母に見守られているからこそ感じることがある

僕はここにいる理由を探している
そして生きる理由も

ーーーーー

ピンポーン

〇〇:はーい

ガラガラ

美空:メリークリスマス!!


総馬:早く来すぎたか?


〇〇:まだ掃除以外準備出来てないんだよねー


美空:手伝うよ?飾りつけと買い物は総馬とやるよ?


総馬:瑛紗は?


〇〇:もう少しで来ると思うよ?


総馬:ニヤニヤ


〇〇:なんだよその笑い顔は…


総馬:明日デート行くから瑛紗がどんなオシャレするんだろうなって思ってな笑きっと可愛いくて美空よりもオシャレなんだろうな〜笑


〇〇:……


総馬:なに?


〇〇:総馬…後ろ…


総馬:後ろって…さ、仕事仕事


美空:瑛紗の私服がそんなに気になるんだ〜へぇ〜


総馬:違う違う!〇〇の心の声を代弁しただけだから!美空の方が俺はいい!え?美空の方がってなんだ?な!〇〇!


〇〇:…僕は何も言ってない


総馬:てめぇ〇〇!裏切るのか!!


〇〇:なにも思ってないしなにも言ってない


美空:ちょっとこっち来てねー総馬、〇〇、どこか部屋空いてる?


〇〇:あ、上の部屋なら大丈夫


美空:ありがとう!じゃあ行こうか?


総馬:お、おい!美空!違うぞ!俺は本当に〇〇の…バタン

ピンポーン

〇〇:あ、来た

ガラガラガラ

瑛紗:ごめん遅くな…

ギヤアアアアア!!!!

〇〇:…いらっしゃい!


瑛紗:…とりあえず入っていい?


〇〇:うん、だいじょ…

ウワアアアアアア‼︎‼︎許してくれええええ!!!!

瑛紗:お茶…飲んでていい?


〇〇:僕も…いいかな?



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