幻の(だった)マンガ家・岩泉舞
1989年、就職してからしばらく、週刊少年ジャンプを買っていた。
お目当てだった『ジョジョの奇妙な冒険』は第三部が始まったくらい。『ドラゴンボール』『聖闘士星矢』などの人気も高く、発行部数が600万部とかいっていたあたりの時期だ。
年が明けて1990年、そのジャンプ本誌に絵柄がちょっと高橋留美子っぽい、印象的な短編が掲載された。岩泉舞「たとえ火の中…」だ。
鎌倉時代を背景に、高貴な生まれだったが政争を避けて尼僧になっていたヒロインと、超常の力を持つ鬼の生まれであることを隠して暮らしていた少年をめぐって、短いページ数の中に生きることの業まで描き出した印象的な短編だった。
そして翌年には、さらに印象的な「七つの海」。絵柄はやや変わって、鳥山明的な雰囲気に寄せてきている感じだった。
ゲーム好きで内向的な少年が、ゲーム仲間だった祖父とともにゲームの世界に入りこみ、現実世界とゲーム世界を行き来しながら、少しだけ成長していく、という、「武闘会で友情、努力、勝利」な連載が量産される誌面にあっては地味すぎるほどに地味な、ただじんわりと心に刻まれる掌編だった。
その後、描き継がれた短編を集めて『岩泉舞短編集1・七つの海』が出版された。
「1」の巻数は、週刊の長期連載は無理にしても、この後も味のある短編集が巻を重ねていく、という期待をさせるものだったが、残念ながら、コミックスはこの一冊に留まった(リンク先のマンガ図書館Zのおかげで、読める状態にはなっていたが)。
それが、2021年になってTwitterでバズったことから、復刊の運びとなった。
(詳細な経緯はリンク先のインタビューに。ある意味、『鬼滅の刃』さまさまである)
こちらの作品集タイトルの『MY LITTLE PLANET』はなんと新作短編で、長年待ったファンの期待を裏切らないちょっと不思議なSF短編だった。
そうして、ファンにとってはうれしいことに、これをきっかけに、配信媒体での活動も再開された。
そうして2024年の2月、配信での連載をまとめた完全新作コミックス『ミレンさんの壺』が出た。
オムニバス形式で、それぞれの未練を抱えたために三途の川を渡りきれない魂の未練をひとつひとつ解いていくミレンさんの物語と、独立した短編「ロボットを捨てに行く」。
デビュー当初からの、キャラクターの心の問題に真剣に向き合っていくスタンスは健在で、あと、紆余曲折あったと思われる作者が30年分の経験もスパイスとして加味されているようにも感じる。
数年に一回でも、また新作がコミックスになって、ジャンプコミックス時代には続かなかった「2」「3」「4」……それ以上に続いていくといいと思う。