(創作物語)『明日への貴方へ』 その4

前回までのあらすじ。
ナディアの家で、ルシードの隠された力を発見した。ナディアは、お世話になっている博士の元へルシードを連れていく事にする。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 3時間後、博士宅に着くナディアとルシード。

 ルシード「?どこにも家みたいなのはないよ?」

 確かに周りは森に囲まれている。

 ナディア「博士、今到着しました」

 博士「わかった。いま入り口を開ける」

 森の一部が歪みを伴って四角く口を開ける。二人が乗った車も自動で入り口の中に吸い込まれていく。

 入り口の中には、信じられないくらいの巨大空間が広がっていた。そこには実験設備や研究機関、そして製作工場など、ありとあらゆる最新技術が目白押しであった。

 ルシードは、見るもの全て初めての物ばかり。

 あれは何?これは何?の質問にナディアが答えながら施設内を歩いてゆく。

 しばらく歩いてゆくと、ゆったりとできる落ち着いた部屋に来た。

 ナディア「ここで博士に、あなたのことを紹介するわ」

 少し緊張するルシードを優しい言葉で解きほぐすナディア。

 しばらく待っていると奥から背筋がピンと張った若々しい青年?が近づいてきた。

 アレン博士「はじめまして。といったほうがいいのか?」

 ナディア「アレン博士、こちらはルシード君です。古びた施設の中で見つけました。両親を探したいと言っています。ほら、あいさつして。」

 ルシード「おはよう」小声でルシードが挨拶をする。

 アレン博士「ははっ。まだ慣れていないみたいだね。まあ、そのソファーに座ってゆっくり話を聞こうじゃないか」

 アレン博士「それはそうと、ナディア、あの栄養はどうだ?調子はいいかな?」

 ナディア「ええ!頭がスッキリというか、疲れが少なくなった気がします。」

 アレン博士「まだ内養分を調整段階なんだけどね」

 アレン博士「おおっと、ゴメン。早速彼の話を聞こうじゃないか。」

 今までの経緯をナディアがアレン博士に伝えた。

 アレン博士「ほほう。生まれた時代も、なぜあの古びた施設にいたのかも、更には記憶も無いと。そして全力を出すと、とんでもない力が出ると。ルシード君だったね。こちらへ来なさい」

 アレン博士は、巨大な研究室の中の一室にルシードとナディアを招き入れる。

 アレン博士「さて、ルシード君。ここのベットに寝てくれるかな?」

 そのベットには沢山の電極が、各種機器に繋がれていた。そこに寝そべるルシード。

 アレン博士「まずは、ルシード君の潜在意識に潜ってみる必要がある。ナディアは、こちらのモニターを見ていて。では、ルシード君、肩の力を抜き、目を閉じて・・・・・、ゆっくりと落ち着こう・・・・・・」

 ルシードは、電源が切れたかのように微動だにしなくなっていった。

 映し出されたモニターには、まだ何も映らない。

 
 「・・・・・・ピッ・・・・・・ピッ・・・・・・カっ・・・・・」

 ルシードは真っ暗闇の中で目覚める。ルシードは恐怖のあまり、すぐにナディアの名を呼ぶ。

 ルシード「ナディア姉さん!どこにいるの?どこなの?」

 誰もいない事を悟ると、ルシードは歩き出す。

 

 やがて歩いてゆくと、自分とそっくりな男児に出会う。

 男児「君は僕、僕は君。僕が生まれ、一生を終えて死に、そして君が生まれた」

 ルシード「君は、誰?一体、何を言っているの?」

 アムル「僕の名は・・・・アムル。ほんのわずかだけど、この世に存在したんだよ。ねぇ、僕の事覚えている?」

 ルシード「ごめん、僕は、君の事知らないんだ」

 アムル「でも、助けてくれるよね。もう、こんな暗い所に居たくないんだ」


 アレン博士「ルシード君は一体誰と話しているんだ?よく表情が見えない」

 ナディア「この声、過去に聞いたことがあります、確か、、、、アムル」

 
 アムル「僕は、あの時、完全に亡くなるはずだった。なのに・・・・・、なのに無理やり、生かされたんだよ。ねぇわかる、この苦しみと切なさが」

 ルシード「わからないよ、僕にはわからない。でも、一緒に、ここから出よう?」

 アムル「・・・・・それは、出来ない。僕は、『ここ』に捕らわれているんだ」

 ルシード「どういうこと?」

 アムルはルシードに見えるように、自分に光を当てる。

 ルシード「あ、、、、そんな、、、、」

 アムルの体からは沢山のバラのような棘が突き出ており、非常に痛々しい。

 アムル「このバラの針が僕を苦しめるんだ。『まだ、ここにいろ』って」

 ルシードがアムルの体に張り巡らされているバラの針を抜いてはみたが、すぐに新しいバラの針が突き出てくる。

 アムル「僕をここに閉じ込めている悪い奴らをやっつけてほしいんだ。助けてくれたら、君の両親を探す手伝いをするよ。僕はもうこの電脳空間でしか生きられない存在なんだ。お願い、、、、僕を『ここ』から出して、、、」

 事態をモニター越しに見ていたアレン博士。ナディアにも電極をつなぎ、ルシードのところへと送る。ルシードを見つけたナディアは、アムルのところへ駆け寄る。

 ルシード「あっ、ナディア姉さん。このアムルを助けたいのだけど、バラの針が邪魔するんだ、、、」

 アムル「あなたがナディア、、、」

 ナディアもこの惨状を見て、ルシードと共にアムルを助けることを決意する。

 ナディア「その悪いやつは、どこにいるの?」

 アムル「この電脳空間と、現実世界のそれぞれに1体ずついるよ。そいつの名は、、、、魔女ドリナ。体の不自由な人間に乗り移り、捕縛し、電脳世界で永久的にエネルギーを吸い続ける悪魔だよ」

 

 

登場人物

 ナディア:体は機械、脳は人間のアンドロイド。

 ルシード:正体不明の少年

 アレン博士:脳科学者で、偏屈者。

 アムル:アレン博士の所で電脳世界に入った時、ルシードが出会った少年。200年前、脳移植時に事故が起こり、電脳空間に閉じ込められた少年。

 魔女ドリナ:アムルを電脳空間に閉じ込めた魔女。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?