1-2. 特性論(OCEANモデルとHEXACOモデル)
今回は特性論の歴史と現在をお伝えします。
前回のおさらい
特性論を用いた性格検査は、
いくつかの物差しを使って個人の性格をできるだけ正確に表す
ことを目標にしていましたね。
そして特性論の課題の一つに
必要な「物差し」の数に一致した見解が得られていない
ことがありました。
今回の内容を少し詳しく書くと、
・その「物差し」を見つけた方法と
・必要な数に関して異なる見解がある理由
についてです。
専門的な内容を少しだけ含みますが、できるだけ平易な表現で書くように頑張ります。
それでは〜、行ってみよう!
因子分析の基礎の「キ」
これから「ビッグファイブの発展」年表を見ていきますが、その前にこれだけ把握しておきましょう。
あなたは中学校のあるクラスの担任です。
期末試験の採点が終わり、進路を相談する三者面談のために生徒の5教科のテスト点を把握しておきます。生徒のテスト点を見ていると、こんな傾向に気付きます。
「理科」の得意な人は「数学」も得意
「社会」の得意な人は「国語」も得意
こんな風に「一方が高いともう一方も高い」傾向のことを相関と言いましたね。
そして「一方が高いともう一方は低い」傾向のことは逆相関と言いました。
2つの変数に相関か逆相関があるとき「関連がある」と言うことにします。
(普通はまとめて「相関がある」というのですが逆相関の時にややこしいので、私の記事では「関連がある」に統一します)
因子分析の考え方はこうです↓
複数の変数が関連するとき、それらに影響を及ぼす変数がある!
そして、
「表面に見えている変数」を観測変数
「背後で影響を及ぼす変数」を潜在変数
と言います。
今回は「5教科のテスト点」が観測変数なので観測変数は5つで、背後にあるのは「文系」「理系」なので潜在変数は2つです。
この潜在変数のことを「因子」と言って、
普通は解釈できる因子に名前をつけます。
5教科なら文系因子と理系因子ですね。
このように、観測変数の背後に因子構造を見つけて、その因子(潜在変数)を解釈することを因子分析と言います。
ま、共通してる変数をまとめるってことです。
(本当は「どの程度の相関があったら因子を仮定して良いのか」とか「文系因子は数学や理科には影響しないのか」とかは統計的に「検定」する)
ビッグファイブの発展
重要事項をザックリまとめた年表を記します。
1936年
オルポートとオズベルトは、辞書から性格を表現していそうな単語約18,000語を拾い集めました。日本語でいうなら前回の「明るい」とか「明朗な」とかです。
この時点では、単語の系統的な分類には踏み込めず、ほぼピックアップしただけでした。
1943年
キャッテルは、これらの単語を因子分析して12個の因子を見つけました。
(性格を表す単語全体を、特徴ごとに12個のグループに分けた)
この時点では、因子分析の手法が未発展で後に12個は多すぎだと分かりました。
1960年代前半
キャッテルが使用したデータ(単語)を、他者評定をベースに因子分析した研究が複数あります。これに携わった一人がノーマンで、彼は後に再登場します。
これらの研究の結果、安定して5因子が抽出されました。
1967年
ノーマンは、難しすぎたり意味が分かりにくかったりする単語を減らし、最終的に1431語にしました。
(分析に使う単語はみんなが分かるものじゃないと困るんですね)
後にも何度か「単語をピックアップする」研究は行われるのですが、この研究の1431語を参照したことが多かったようです。
1982年
ゴールドバーグはノーマンの1431語を含む1710語を、更に複数の観点から整理し566語に減らし、複数の研究者が更に整理し339語に減らしました。
1992年
ゴールドバーグは5因子のそれぞれから20単語を集め、計100語を用いて3桁の被験者を集めて自己評定や他者評定をさせました。
現代のような性格検査の始まりはここら辺で、更にここから明確に5因子構造を目指すようになります。
ビッグファイブ年表ですが、大きく分けて2つのステップがあります。
1. 単語そのものの分析
2. 単語を使った人の分析
1982年までは「単語の分析」でした。
これは「単語のニュアンスを数値化して分類する」という方法です。「明るい」という単語から「明朗さ」をどれだけ感じるか、「活発さ」をどれだけ感じるか、などいろんなニュアンス(はじめは35属性で分類したっぽい)を数値にして因子分析します。
その結果、キャッテルは12個の因子を抽出したんですね。
その後の1960年代前半では、複数の研究者がキャッテルの35個のニュアンス属性から更に絞って同様の分析をした結果、5つの因子が抽出されたという訳です。
一方、1982年以降は「人の分析」です。
ある人を想定して、複数の単語(多くても数百語)にその人がどの程度当てはまるのかを数値化します。想定する人が自分なら自己評定、他人なら他者評定です。この結果を因子分析して
人の性格を表すには「5つの因子」が必要みたいだ、となったのです。
5因子か6因子か
年表で気づいたかもしれませんが、途中から5因子構造を目指して分析をしています。特にゴールドバーグは、人の評価に使う単語自体を5因子のそれぞれから選んだので5因子構造が得られることは自然なことです。更にその後の研究は、ゴールドバーグの選んだ単語からスタートしているものが多いのです。
と言っても
5因子って具体的に何よ?
状態だと思うので、前回の復習も兼ねながら、対になる6因子モデルも合わせて解説します。
5因子モデルとは
その名の通り、性格特性を5つ仮定するモデルです。
以下の5つです↓
1. 開放性 Openness
2. 勤勉性 Conscientiousness
3. 外向性 Extraversion
4. 調和性 Agreeableness
5. 神経症傾向 Neuroticism
頭文字をとってOCEANモデルとも呼ばれます。
それぞれを順に解説しましょう↓
1. 開放性 Openness
いきなり最も分かりにくい性格特性です。
これは「経験への開放性」とも呼ばれていて、新しい体験を求める性格特性です。研究によっては「新奇性」とも言われます。実際の検査での項目を見たほうが理解できますね↓
多才の
進歩的
独創的な
頭の回転の速い
興味の広い
(BigFive尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討より引用)
新しいことが好きで、変わった考えを持つと思う
発想力に欠けた、平凡な人間だと思う(逆転項目)
(日本語版TenItemPersonalityInventory作成の試みより引用)
開放性の高い人は、これらの項目にYesと答えやすいです。
逆転項目には、Noと答えやすいです。
あとは「芸術・創作活動を重視するか」や「多様性の許容」とも相関します。
(「ホモ・ルーデンス」の概念が最もしっくりくると思います)
そして気づいた方もいると思いますが、これは「頭の良い人」のイメージと近いです。項目の選び方にもよりますが、大体の研究でビッグファイブの性格特性の中で最も知能(IQ)と相関するのは開放性です。
実際、村上さんの作成した「主要5因子性格検査」では、開放性に該当する項目は「知性」です。
(まあ、これはちょっと知性に寄せすぎたのか、他の日本語版ビッグファイブ質問紙の「開放性」と同一のもの、と言えるほどは相関が高くないらしいです)
つまり、知能と相関はあるが「別のもの」であるということです。
「新しいもの好き」な人は、まず間違いなく開放性が高いです。
(移り気=浮気性だったりするのかな、、、)
2. 勤勉性 Conscientiousness
これは分かりやすいと思います。
いわゆる「真面目さ」の指標です。計画性の高さとも相関します。
検査項目はこんな感じです↓
いい加減な(逆転項目)
ルーズな(逆転項目)
成り行きまかせ(逆転項目)
怠惰な(逆転項目)
計画性のある
(BigFive尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討より引用)
しっかりしていて、自分に厳しいと思う
だらしなく、うっかりしていると思う(逆転項目)
(日本語版TenItemPersonalityInventory作成の試みより引用)
勤勉性の高い人は、これらの項目にYesと答えやすいです。
逆転項目には、Noと答えやすいです。
あと、別の尺度(物差し)では「自己コントロール力」と最も強く相関します。
英語のConscientiousnessを直訳すると「誠実性」なのですが、これは日本語だと「人に対する」部分が強調されてしまうため、だんだんと「勤勉性」という言葉が使われるようになりました。質問項目を見てもその方が自然だと思います。
3. 外向性 Extraversion
これも分かりやすいですね。文字通りです。
「外交性」という文字は間違い、というのが注意点ですかね。
(心理学専攻の学生でも、よく書き間違えるらしいです)
検査項目です↓
無口な(逆転項目)
社交的
話好き
外向的
陽気な
(BigFive尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討より引用)
活発で、外向的だと思う
ひかえめで、大人しいと思う(逆転項目)
(日本語版TenItemPersonalityInventory作成の試みより引用)
外向性の高い人は、これらの項目にYesと答えやすいです。
逆転項目には、Noと答えやすいです。
あと、これは「開放性」と相関があります。
(古典的にはビッグファイブは互いの因子は無相関にする(直交回転を使う)のが普通なのですが、この処理を行わないと相関が出ることもあります)
あとは、そんなに説明することはないです笑
4. 調和性 Agreeableness
直訳すると「同調性」ですが、これはイエスマンなイメージがあるので「協調性」とか「調和性」とか訳されることが多いです。一言で表すと「人の輪の中で上手くやる指標」です。
検査項目です↓
短気(逆転項目)
怒りっぽい(逆転項目)
温和な
寛大な
自己中心的(逆転項目)
親切な
(BigFive尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討より引用)
人に気をつかう、やさしい人間だと思う
他人に不満を持ち、揉め事を起こしやすいと思う(逆転項目)
(日本語版TenItemPersonalityInventory作成の試みより引用)
調和性の高い人は、これらの項目にYesと答えやすいです。
逆転項目には、Noと答えやすいです。
質問項目から明らかですが「親切さ」とも相関があります。
(汚いジャイアンはどうなったのだろうか?)
この「調和性」はけっこう曲者で、
「衝動的な気質に関する」指標と「親切で悪意がないか」指標が混在しています。
大半が前者の項目ですが、後者の「親切な」は調和性との相関が低いです。
これらを分離しようとすると、6因子モデルが必要になります。
5. 神経症傾向 Neuroticism
一言で表すと「不安になりやすい」傾向です。集団の神経症傾向の高さは多様な精神疾患の率と正の相関があります。
検査項目を見るとよく分かると思います↓
不安になりやすい
心配性
弱気になる
緊張しやすい
憂鬱な
(BigFive尺度短縮版の開発と信頼性と妥当性の検討より引用)
心配性で、うろたえやすいと思う
冷静で、気分が安定していると思う(逆転項目)
(日本語版TenItemPersonalityInventory作成の試みより引用)
神経症傾向の高い人は、これらの項目にYesと答えやすいです。
逆転項目には、Noと答えやすいです。
ビッグファイブの他の4つは(単体で見れば)高い方がよいのですが、神経症傾向だけは低い方がよいです。ややこしいので最近は、この性格特性を逆転(各項目の逆転項目を順項目とする)させて「情緒安定性 Stability」と言うことも増えました。
(普通レーダーチャートは面積がデカイ方がよいが、神経症傾向のままだとそうならない)
神経症傾向は「幸福の感じやすさ」と逆相関(安定性は正の相関)があります。
日本人は神経症傾向が高い(国際標準化された検査紙は存在しないので諸説ある)ので、幸福度調査でOECD諸国に比べて日本が下位なのも納得ですね。
(指図したがる傾向やヒステリー傾向とも相関します)
あと、神経症傾向は調和性と弱い相関があります。(気を遣いすぎなんですかね笑)
余談ですが、神経症傾向Nを逆転させ安定性Oにした5因子モデルOCASEに、一般知能gを加えて知能を含めた特性を表(そうと)したモデルをGOCASEと言います。
6因子モデルとは
結論を言うと5因子モデルとほとんど変わりません。6因子モデルは5因子に「正直さH」を加えたものとほぼ同じです。これは
正直さ Honest-Humility
※情緒安定性 Emotional Stability
外向性 eXtraversion
※調和性 Agreeableness
勤勉性 Conscientiousness
開放性 Openness
この太字の部分を取ってHEXACOモデルと呼ばれます。
(これはヘキサゴン)
Hの質問項目を見ましょう↓
卑怯な(逆転)
意地が悪い(逆転)
あくどい(逆転)
ずるい(逆転)
私は平均的な人間よりも尊重される権利があると思う(逆転)
もし絶対に捕まらないなら、偽札を使ってみたい(逆転)
私に酷いことをした人に対する私の態度は「許して忘れる」ことである
(人格記述語の6因子モデル(1)より引用)
正直さHは「悪意を持って人と接する」傾向の逆転です。
詳しくは別の記事で扱いますが、正直さHはダークトライアドの逆方向です。
(ダークトライアド:サイコパシー、ナルシシズム、マキャベリアニズムの3つの心理特性のこと)
ダークトライアドは、人に対する「誠実さ」とは逆方向です。
正直さHと殆ど関連しない勤勉性Cを「誠実性」と訳す弊害はここにも現れます。
一方で、調和性Aの自己中心的や情緒安定性Sのイライラしやすいなどは関連があるため、6因子モデルでのそれらは、完全に対応はしません(項目が部分的にHに吸収されている)
むしろ5因子モデルで複数の意味を持っていた特性を分離できた、と考えるのが自然です。
5因子モデルと6因子モデルは対立しない
ようやく本題です。
「必要な因子の数に異なる見解がある理由」です。
6因子目の「正直さ」はどの分析でも、他の因子より影響力が小さいので、因子として検出されにくいものです。このような因子をマイナー因子と言います。
(マイナーポケモン)
加えて昔はコンピュータが未発達で、今ほど複雑な計算ができませんでした。
なので因子分析の途中で行う「回転」や因子の検出基準も今ほどの種類はなく、影響力の大きい他の5因子が注目され、しかもそれが解釈しやすいものだったので、ゴールドバーグ以降から5因子との関連が薄い語彙は質問紙から消されていきました。
※因子分析の手法が間違っていたという話ではありません。
解釈できる構造を見つけたら、次は明確にその構造を目指して質問紙を作るのが普通です。むしろ、そうしないと構造を見出した意味がありません。
(構造を解明することで、単純で分かりやすい質問群から複雑な全体の分散を説明できるようにするのが因子分析の目的です)
以下の段落は事実ではなく私の推測です↓
研究を行う上で必然的に過去の研究結果を参照します。研究の意義を与えるためや、できた質問紙の調査結果と既存の質問紙とのそれを比較・検討して様々な信頼性や妥当性などの指標をチェックするためです。つまり、全く新しい理論は検証が難しいんです。なので分析の結果から「なんか怪しい因子(?)がある」程度はみんな気付いてたと思いますが、解釈しにくいので放置されてたんだと思います。
そんな中、語彙の研究からやり直したカナダの研究者たちが6因子目にHonest-Humilityという名前を付け、解釈しました。
(受け入れやすい名前がついたことは大変重要なことです)
更にそれがダークトライアドと逆相関があるということで、「6因子目は何の指標か」の解釈がし易くなりました。ダークトライアドの研究が進むにつれ「正直さ」が関連するHEXACOモデルも注目されていきました。
それで今日では、既に広まってる5因子モデルと共存しているのです。
元々6因子目はマイナーな(他の因子に部分的に内包される)ので、なくてもそんなに困りません。ビッグファイブの5つを説明されて「確かに性格表せそうだわー」となった後に「正直さ」を説明されて「あーそういえば」となる程度だと思います。
(誠実性Cがなかったら流石に違和感を感じる)
結論↓
性格を網羅的に表すなら6因子が必要だが、5つで大体事足りる
こんな感じで片方が駆逐されることはなく、併存しています。
けっこう長くなってしまいましたが、読んでくれてありがとうございます。