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数字から物語へ:データ分析とストーリーテリングが生み出すビジネス価値

「データ分析×人×ビジネス」の軸で記事を書いています。

どんなにすごい分析をしても、伝え方を間違えると相手には「で?」という疑問だけが残ってしまいます。純粋な自然科学論文に記載(説明)するときとの、最も大きな違いは「儲かるのか?」と「それは自分の聞きたい話なのか?」という点です。ビジネスとは金儲けが全てではありませんが、金儲けという目をそらせない事実も確実に存在しています。したがって、儲けにつながらない話はあまり意味がありません。また、優秀な経営者・マネージャほど常にどうしたら儲かるかを考えているため、自分なりの考えというのが必ずあります。

ここで「自分なりの考え」と書きましたが、これは「自分なりの仮説」といってもよいでしょう。ビジネスにおける仮説というのは、これまた言い換えると「実現したい姿に行き着くまでのストーリー」ともいえそうです。


古典的な話題を例に挙げて、1つ考えてみましょう:

【テーマ】広告出稿先の予算采配を最適化する
【分析の目的】どの広告が最も効果が高いかを定量可視化する(とりあえず予算采配まではスコープ外とする)


文字通り分析すると以下のようなアウトプットが得られるでしょう。ここでは感覚をつかむ意味で、シンプルな例をあげています。出稿している広告媒体ごとに、100点満点でスコア化して降順ソートしたものです。要するに上から順に効果の高い広告だということですね。

TVCM 98.5
・リスティング広告 87.3YouTube 74.2
・交通広告 50.1
・業界紙広告欄 39.9
・ディスプレイ広告 22.7

残念ながら「TVCMが最も効果が高いので、TVCMへ予算を集中させることを検討すべきです」なんてことを言っても、やはり冒頭で述べたように「で?」となってしまいます。データ分析をした立場からすれば、困った反応です。恥ずかしながら、実際のところ私もこういう経験がたくさんあります。

相手はなぜ分析なんかしたいのか?

当たり前のことですが、意外と見落としがちです。マーケターからすれば分析など面倒な作業の1つで、できることならやりたくないものです。しかも多くのケースにおいて、真面目に分析なんかするより売上につなげられる施策を感覚的に試した方が速いです(もちろん長期的に再現性は乏しいかもしれませんが、、、)。だから、分析者は「なぜ、わざわざ分析なんかしたいんだろう。しなければならないのだろう。」と考えなくてはいけません。

こういう話をすると「広告効果の可視化をしたいからでしょ」と思うかもしれません。もちろんそれもあると思いますが、一般的なマーケーターであれば「この広告は、実は頑張ってやってるけどあんま効果ない=無駄な努力してるのでは?」と自分自身を疑っています。もう少し前向きにいえば「もっと、こういう媒体・こういうクリエイティブの方がささるのでは?」というモチベーションで、色々と試したがっているはずなのです。

やりたいこと/やめたいことがあるから分析が必要

先ほどの分析結果(の例)でTVCMが最も効果が高いと出ていました。これを受けた相手はどういう人なのでしょう?きっと、いくつかのパタンがあると思います。

  • TVCMをやめたい/つづけたい【前提】

    • やめたい理由: TVCMはリーチ幅があっても、その後のアクションにつながりにくい気がする。スマホでweb流入を狙うなら、YouTubeやインスタのリール動画とかの方がスマートなのでは?

    • つづけたい理由: やはり体感的にTVCM放送の後は来客が多いのは間違いない。ただ、それが数値的に示せないので、どうしたら継続する価値をしめせるだろうか?

必ず分析者から「聞きたい」メッセージがある

例えば前者の意見を持っている人が、分析者から分析レポートを受ける際に最も聞きたい結論=メッセージは何でしょうか?たぶんそれは「TVCMはやめた方がいいです」という一言です。なぜなら、やめる理由を自分なりに持っているからです。 ※相手に合わせて事実を曲げろということではありません!

当然ながら、分析結果は「ある一定の条件の下で出された客観的な事実の一側面」でありますから、これは事実として正確に伝える必要があります。ただし、この「一定の条件下」というところが重要です。分析のためのデータ取得やデータ加工によって、結果は変わりうるため、やはりどのような分析でも不変の真実というより「一定の条件下で得られた事実の一側面」にすぎないということです。

だからこそ、相手の聞きたいメッセージを想像したうえで、事実を曲げないレベルで「そのメッセージを指示できる部分を最大限表現する」ということが必要なのです。

ストーリー作りはCoreメッセージを決めれば自ずと決まる

これも頭では分かっていても、意外と見落とすというか、見ないフリをしてしまいます。前述してきたように、相手の聞きたいメッセージに対して、最大限自分が分析結果から言えるCoreメッセージをつくるということが重要です。例えば、以下のようなものになるかもしれません。

  • 私の主張は「TVCMはやめた方がいい」ということです。=相手の聞きたい結論

  • 理由は御社のビジネス上の重要ポイントは、キャンペーンページに流入して資料申込をする(増やす)ことだからです。これに向けて、確かにTVCMは効果が高いと出ていますが、同様にYouTubeも高い効果が認められているようです。=Coreメッセージ

  • データの中身としてTVCMに対してYouTubeの方が出稿量が明らかに少ない(YouTubeは最近はじめた)ので、TVCM投下のデータ量が多い(偏っている)ことが分析結果にも影響でているようです。=Coreメッセージを支持する根拠

  • もし私が御社の担当なら、費用の低いYouTubeでの投下量を増やし、その効果増分を改めて確認したうえで判断します。もし増加量が多ければ、YouTubeで担保できる部分も大きいので、一時的にTVCMを減らしても流入減を最小に抑えられるのではないでしょうか?=自分がやれと言われたときにどう振舞うかをリスク低減の観点で補足

これは持論ですが、最終的に「じゃ、お前やれよ」と言われも「はい、やります」といえるレベルになっていないものは分析者として提案してはいけないと考えています。その意味で最後の「どう振舞うか」というのを相手の立場で言えることと、そうはいっても不安なので「こうやればリスクは少ないよ」という安心感を持たせる工夫も大切だと思います。

対手の立場に立つとは、自分も自ら責任を負う気概をもつということ

よくデータ分析は意思決定のツールだ、みたいなことが言われます。しかしながら、意思決定するのは「その人自身」なので、もし儲からなかったら「その人が責任をとる」必要があるのです。そうなると、単に分析結果がこうだからという理由で決定しにくいのが実態です。

とはいえ、外部ベンダーの立場で責任などとることはできません。だから(あくまでも気持ちの問題ではあるのですが)もしうまくいかなかったら、請求書は出しませんくらいの気概をもつべきなのでしょう。実際に責任をとる/とらないといいうことよりも、クライアントの解像度を高めるというスイッチが人によってあるということです。私の場合はこのように考えることで、できる限り相手の考えていることを想像できるようになるという一例です。

ストーリーを組み立てるというのは、ある種の技術なのですが定石というものが世の中にはたくさんあります。だから、これそのものは本を読みながらたくさん練習すればできるようになると思うのです。しかし、相手の聞きたいことを想像するとか、そこからCoreメッセージをつくるというのは「方法論」というより、「気概」なのだと思うのです。

つまり「こうやったらCoreメッセージをつくれる」という類のものではなく、当たり前なのですが「相手の立場に立って考える」ことができなければいけない。でも、これがそう簡単ではないので、自分自身が相手の立場に立てるようなスイッチを見つける方法が必要なのだと感じることが多いです。最後に私なりに色々な方と接してきて「こういうところにスイッチがあるな」と見つけるポイントを列挙して締めさせていただきます。

相手の立場に立てる「自分自身のスイッチ」

  • 相手を好きになる。人間的にこの人のことが好きという印象をもてると、それだけで「この人の役に立ちたい」と思うようになり、相手の立場を理解しようと努められるようになる。

  • 過剰なペナルティを課す。物理的に追い詰められることが、スイッチになる人も多いです(ただ継続性の観点で、これをやり続けられる人は極稀)。例えば、プロジェクトが失敗したら降格・減給、そこまでいかなくても何かしらの罰符を払うようなこと。

  • 業務自体の興味を高める。対峙する業務のことに興味が持てると、色々なことを調べ、自分でもやってみたいという意思が出てくる。こうなると、自分だったらこうするかも?という疑問を相手にぶつけられ、相手の考えがより鮮明にとらえやすくなる。

  • 自意識過剰になる、自信を持つ。言葉だけみると「イヤな」印象かもしれませんが、自分はこの領域の専門家だとか、多くの経験を積んでいるから誰にも負けない、といった感覚をもてると相手の思考解像度をあげられる。おそらく、自分が嘘つきにならないよう、失敗を維持でも回避したいという想いがそうさせるのかと思っています。

  • 社会貢献精神を持つ。個人的には理解できないのですが(苦笑)、社会的な意義を紐づけることで、これは私がやらねばならない(正確にはクライアントを通じて自分が実現させたんだと思いたいのかもしれない)という正義感と義務感のようなものが突き動かすケースもあるようです。

  • 洗脳タイプ。繰り返し本記事で書いたようなことをシャワーのように上司から強制的にやらされ続けると、自分の意志とは別にこういうことを「するように」なる。そこに自分の意思がないレベルで行動できる。

色々なタイプがありますので、もし皆さん自身が「こんなスイッチもあるよ」というのがあれば、ぜひ教えてください。

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