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10/1(木)「鬼風呂」

近所の銭湯で猿が見られるというので行ってみた。

パンの勝ち湯という名前の銭湯。
不思議な名前だが、昔隣に米の負け湯という銭湯があって対になっていたらしい。
パン好きな兄弟がそれぞれ開業する時に名前を揃えたそうだ。
米の負け湯は、隕石が直撃して天井に穴が開いてつぶれてしまったという。

中に入ると常連ぽいおじさんが鼻の下を伸ばしながら番頭のおばさんに、「ウキ?」と言った。
おばさんは男風呂の方を親指で指しながら「んもぅ」と言った。

たぶん猿がいるかどうかの合図なのだろう。
ぼくもやってみると、口の前に指を立てながら   「シーッ!」っと言われた。
びっくりして小銭を床に撒いてしまった。

ともかく猿がいることはわかったので、急いで着替えて浴場に入り浴槽を見に行くと、猿ではなく、見たことのないツルツルとして凹凸のない真っ赤な大きないきものがいた。

そのいきものはぼくの視線を感じると、会釈した。
ぼくも会釈した。
そのまま浴槽に入ろうとすると、
「いや、体洗って」
と注意された。

体を洗って、浴槽に入ろうとするとお湯がめちゃくちゃ熱くて
「ラッ!」と叫んで跳び跳ねてしまった。
それを見たいきものは
「プフゥーーー」と吹き出して笑いだした。

話を聞くと、そのいきものは鬼らしく、鬼の中でも体温がかなり高い暖鬼らしい。
銭湯を回って浴槽を激アツにして人間のリアクションを見るのが趣味だという。

一応鬼なので失礼ないように
「すごいすね」とか言って愛想笑いした。
すると、それが気に入ったのか
「ちょっと来い」と言って水風呂に一緒に入ることになった。

肩まで浸かるように言われる。
ガタガタ震えていると
「ふん…」と退屈そうだった。
人が困ってる姿じゃなくて、熱がってるのだけが好きなんだなと思った。

暖鬼は
「いくぜ」と言うと、水面にぽこぽこ泡が出てきた。
「屁出ちゃった笑 鬼っぺ笑」
「つひひっ」と合わせて笑った。

そんなことをしていたら、水風呂がぬるくなってきた。
暖鬼の方に手をやってみるとじわじわと熱が出ているのがわかった。
最後はちょうどいい温度の風呂になった。

暖鬼に「まるでゆでたまご気分?」と聞かれた。
「あはーーー」とまた合わせて笑った。

暖鬼と一緒に上がって着替えていると、番頭のおばさんが来て暖鬼に説教し始めた。

湯冷めしないうちに帰った。

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