6/5(金)
高級割烹で長年使い古された土鍋を模したクッションを枕にうたた寝していると、
「ワンワン!!!」
という犬の吠え声で目が覚めた。
驚かせやがって、とうっとうしく思って、眠りに戻ろうとするが、犬は一向に鳴きやまず、それどころか、徐々に鳴き声が大きくなっていき、玄関のドアの真ん前にでもいるのかというくらいうるさくなったので、これはおかしいと思い体を起こして玄関を見つめる。
どうしようと軽くパニックになるが、犬の鳴き声をよく聞いてみると、確かに犬の鳴き声なのだが、どの鳴き声も同じであることに気付いた。
「ワワッワーウ!!!」
「ワワッワーウ!!!」
「ワワッワーウ!!!」
と機械的に繰り返している。
これはただの犬の鳴き声じゃないと思い、さらに耳を澄ましていると、
「ワゴンアール!!!」と完全に聞き取ることができた。
しかし、ワゴンRと聞き取れたところでなんなんだ。
困惑していると、突然玄関がスーッと開いて、スーツを着たぴっちり七三分けのメガネ男がにこにこしながら、会釈をしてきた。
とりあえず会釈を返す。
すると、メガネ男が、
「というわけででですね、新しいワゴンR、出たんですけども、いかがでしょうか~」とやや訛りのある細い声で言った。
「免許、ないです」とぼくもなぜか訛って返事をすると、
「そうですかぁ、失礼します~」と言って、そぉっとドアを閉めた。
どんな営業だ、と思って再び布団に戻ると、外から、
「パォンオーン!!!」と聞こえてきた。
その後も日が沈むまで、
「ヒヒンヒーン!!!」
「メメェメエ~!!!」
「モモゥモ~ウ!!!」
と色んな動物の鳴き声が響き渡り、一睡もできなかった。