10/7(木)「決められている」
アメリカに住んでる親戚の叔父さんの麦畑が何者かに燃やされたらしく、めそめそしているという電話がかかってきた。
それはぼくにも伝染して、「めそめそ」と言いながら散歩していると、軽自動車2台分くらい広さの、ビルとビルとの間にある公園で、背中を顕わにした長髪の女性が後ろを向きながら、白いタオルで体を擦っていた。
ぼくは、乾布摩擦をするにはこの女は柔肌すぎる、と思った。
きめ細かすぎる、と思った。
不思議と下心は湧いてこなかった。
とにかく、乾布摩擦を止めさせたいと思った。
すると、いきなり目の前に何か飛んできた。
咄嗟にキャッチすると、透明のフリスビーだった。
透明だから全く気付かなかった。
飛んできたであろう正面を見ると、乾布摩擦をしてた女が後ろを向いたまま手だけがこちらにだらっと伸びていた。
手からタオルは消えている。
乾布摩擦は止めてくれたみたいでホッとした。
すると、女がなおも後ろを向いたままぼくに、ちょいちょい、と指で合図してきた。
投げ返せということだろう。
でもぼくは、透明のフリスビー、超カッケー!!!と思っていた。
あの女後ろを向いているし、このまま持ち逃げしようかな、とも思っていた。
ちょいちょいちょい、と女が急かしてくる。
なんか、その感じがうざいなと思った。
女に急かされるの、なんかやだな、と思って萎えてきた。
萎えたままぼーっとしていたら、女の手の動きがどんどん激しくなって、ぶるぶる震え出した。
その震えは身体全体に広がって、ミシンがランダムに動いている、みたいな感じでがくがくしていた。
ぼくは、もしかして後ろ向いたまま走り出したりとかするのかな、と思った。
それも、すごいスピードで。
なんかそういうシチュエーションだよな、と思った。
今日のこの光景も、叔父の麦畑が焼けたのも、全て決められているのかな、と思った。
誰か狡猾で残忍なやつの術中なのかな、と思った。
目尻のたるんだ唇の皮の分厚いもさもさヘアの男の顔が浮かんできた。
すると、女がピタっと蠕動を止めた。
ゆっくり振り返ると、ぼくがイメージした男の顔をしていた。
あぁ、やっぱり決められている、と思った。