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8/12(水)
テレビを見ながらへそでアクエリアスを沸かしていると、「勉強カーナビプラザで僕と握手!」というCMが流れた。
画面には骨付き肉を垂らした一輪の大きなバラがジャージを着た中東系の男と握手をしていた。
その奇怪さにぼくの眼は釘付けになってしまった。
急いで釘抜きを探して抜く。
勉強カーナビプラザは台風の前日しか営業していないらしく、天気予報を見てみたら明日は台風だった。
明日のことは知らないと吹っ切って向かう。
タクシーで行く。
さすがに吹っ切りすぎたか。と車中不安になって汗をかいたので、服を脱ごうとしたら運転手に怒られた。
到着した時、メーターは28000円を表示していた。
中学時代の生徒手帳に挟んで渡した。
閑静な住宅地の真ん中に真っ黒な高層ビルがそびえていて、それが勉強カーナビプラザだった。
入り辛さを感じて様子を見ていると、ビルの真ん中からカラスの大群が出てきた。
よく見たら建物に窓ガラスが一枚もはまっていない。
カラスがビルと同化していまるで生きているようで気味が悪い。
帰ろうかとも思ったがタクシー代がもったいない。
よし、と臍下丹田力を入れて入り口に向かう。
受付にCMでバラと握手していた中東系の男がいた。
職員だったのか。
「握手ですか?」と思いのほか流暢に話しかけられる。
「あ、はい」と返事すると、
「今、見た目より流暢だって思っただろ 日本人のバッテンバツバツ風習だよ 気をつけろ 盗人」と言われ、顔が真っ赤になる。
男についていきエレベーターで12階に行く。
普通に仕事しているオフィスを通り抜ける。
ガラスがないため案の定風がびゅうびゅう吹いて来ており、社員たちは風で舞う資料を追いかけては飛ばされ追いかけては飛ばされを延々繰り返していた。
さらに歩くと広い電気の点いていない部屋に着いた。
よく見るとそこはトレーニングルームにのようで、ダンベルや汚れたタッパーやシェイカーが転がっている。
「お待たせしました」
男がそう言ってぼくを促すとそこにはCMで見た通りの大きなバラがあった。
ぼくはゆっくりとバラに近づき、骨付き肉と握手する。
熱い!
咄嗟に手を引く。
男は肩をすくめると、「生きてますから」とだけ言った。
ぼくはもう一度握手した。
熱いが、慣れたらいける。
友好を示すつもりで手を上下に揺らす。
すると、パシャッ、とシャッター音がした。
男が写真を撮った。
「よかったーーーーーーーー!」
男がへなへなと両膝を床につきながら叫び出した。
男から聞いた話を要約すると、次に握手をした人間の写真を撮らないとここ永遠に出られないらしい。
男は高笑いをする。
それに鼓動するようにバラが震え出す。
あぁ。
視界がぼやけてくる。
「次の台風は長いらしい」
耳元でそう言われた気がしたが、ぼくは振り向くことができなかった。