7/27(月)
近所にプロ野球選手を目指す専門学校ができたので、冷やかしでオープンキャンパスに行ってみることにした。
校舎はいかにも専門学校然とした長方形の白っぽい建物で、横にはグラウンドが隣接している。
資料が入ったクリアファイルをもらうと、遊戯王カードの<ハーピィ・レディ>みたいな奇妙なエロいキャラが印刷されていた。
すぐに、体育館みたいなところに案内されて説明会になった。
ぼく以外の参加者は、ごついリュックを背負った丸刈りの汗くさい高校生ばかりで、皆不安と期待でアンニュイな顔を浮かべてそわそわしてる。
すると、元プロっぽいスーツを着た長身の男が入ってきて、説明を始めた。
男は「水丸」と名乗った。
水丸いわく、誰でもプロ野球選手になれるメソッドがあるらしく、「それじゃあひとつやってみましょう」と言うと、半信半疑なぼくたちに一本ずつちくわを配り始めた。
水丸は「それを使って野球の練習をしてみてください」とだけ言うと試すような目をして黙った。
みんなどうしていいかわからず、固まっている。
ぼくはとりあえずちくわをグリップとして素振りしてみた。
それを見た高校生たちがハッ、として皆素振りを始めた。
10回くらい素振りしたところで、水丸がパチパチパチ、と拍手した。
「素晴らしい!わかりましたか?今あなたたちはちくわで素振りをしました。食べ物であるちくわで野球の練習ができたんですよ!つまり、どんな場所でも、どんな道具でも、野球の練習として落とし込めるのです!これが水丸メソッドです!」
その後も紙コップとか、ヘアピンとか、ドアノブとかで野球の練習をさせられた。
もちろん、こんなのでプロになれるわけない。
バカでも気付く。
ぼくは元々冷やかしだからいいが、高校生たちはみるみる元気がなくなっていった。
夢を叶えるために未練たらしくこんなものにすがろうとしていた自分を恥じているような感じ。
まったく残酷なものだな、と練習で使ったちくわを持ち帰り、天ぷらにして食べた。
握った時の手汗のせいか、塩がいらなかった。