人間はデジタルだから難しい

 最近のエレベータの制御技術は格段に進化していて、インバータによるディジタル可変速ドライブが主流です。

●ディジタルとアナログ

 大学で研究室の人と出かけた際、とあるビルの4解まで行くのに、階段で上がるかエレベータで上がるかという話になりました。私は、5階くらいまでだったら階段を使うのが普通だったので、その時も、私を含めて2、3人が階段で上りました。

 すると、エレベータ派の人が、

「こんなディジタル制御の時代に、階段で行くなんてアナログだなぁ。」

と言ったんです。その時、一緒に階段で上った人がすかさず返した一言。

「階段こそディジタルなんだよ!」

 理系ならではの会話ですね。

●シャノンのサンプリング定理の示唆する事

 我々が生きている実世界も「アナログ」と言われますが、本当にそうでしょうか。

 「実際」の事を物理学的に言うと、エネルギ自体が、

「プランク定数 "h"」と「ド・ブロイ波の振動数 "ν"」の積

ε = hν

で定義される「エネルギ量子 "ε"」の整数倍

なので、実は「離散的」であり、

実世界は「デジタル」

なのです。しかし、人間のスケールではその量子の「粗さ」を感じる事は無いので、連続的なものとしてとらえているだけの話です。

 そうでなくても人間は、一つの物事について、連続的にずっと観察する事は困難です。言い換えると、ある事象に対する人間の把握は、

時間的にとびとび

であることが普通です。すると、以下の図のような事になります。

画像1

 例えば上の図のように、

正弦波の振幅がだんだん増してくる変化

を考えてみます。

 図 A のように観測していれば、変化の様子がすぐにわかります。しかし、図 B のような間隔で観測していると、

単なる単調増加の現象

にしか見えません。

 さらに、図 C のような観測では,、

全く現象が見て取れない

事になります。

 信号処理の世界ではこれを「エイリアシング」と言って、エイリアシングを避けるために、

変動周期の2倍以上の頻度でサンプリングを行う

という「シャノンの標本化定理」に従う事になっています。

 こういう事ってよくありませんか?

 例えば、

上り調子だと思っていたのに、注目するとやたら成果にバラツキがあった

とか、

全然問題が起きていないように見えたが、ある時突然、複数の問題が顕在化した

とか。これってまさに、

観察頻度が少なすぎることによる「エイリアシング」

が起きていると思うんです。

 その意味で、人間の感覚は本来連続したアナログではなく、

デジタル的な感覚を持っている事を自覚する必要がある

のです。

 これを、「アナログである」と信じ込んでしまうと、見るタイミングが悪ければ、誤った判断を招く事になるわけです。

 この「シャノンのサンプリング定理」は、「物事を良く見なさい」ということを教えてくれているんだと思います。「物事を多面的に見る」というのも大事ですが、

同じ物事を、いろいろタイミングを変えて見てみる

と、思わぬ変化の仕方をしていることもあるのです。

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