何がいいかをシンプルに考える
最近、設備のIoT化についてたまに相談を受けるのですが、正直
「そもそも IoT って必要なの?」
っていう内容も多いです。
AI にしてもクラウドにしてもそうですが、新たなテクノロジーが台頭してくると、「猫も杓子も」その技術を取り入れようとする傾向があります。
しかし、その利点を発揮できる使い方でなければ、投資が無駄になるどころか、よく知らない人から見ると
「そんなことにしか使えないの?」
というような印象を持たれて、逆に普及の妨げになることもあります。
●「コネクテッド」にする意味
そもそも、インターネットに接続する利点とは何でしょうか。
一つは、「遠隔化」ですよね。
例えば、従来は何か装置にトラブルがあった時、まず状況確認のために技術者が高い移動費と、貴重な時間を何時間もかけて現地まで移動します。そして、「状況を見るだけ」で帰って来て、後日修繕などの対応をするのが当たり前でした。
それが遠隔化するだけでも、対応のスピードと生産性が格段に上がります。だから、ただ遠隔化しても
「やっぱり直接見ないと」
という「考え方」を切り替えない限り、このメリットは得られません。
もう一つは、「クラウドサービスとの連携」です。これは単に、
データの蓄積にクラウドストレージを使う
だけではありません。それこそ機械学習による分析を行い、傾向や異変の予兆を予測したりすることもできます。また、情報配信システム等との連携で、情報共有もスムーズに行うことが出来ます。
ここまでできて、初めてコネクテッドの意味があると言えるでしょう。
●インターネットの導入時とよく似ている
日本でインターネットが一般に普及したのは、Windows95のパソコンが発売された時でした。実は、現在IoTが普及している様子も、その時と様相が似ています。
Windows95の発売当時、「インターネット」という言葉が先走りし、パソコンすら触った事が無い人が電気屋さんに行って、
「インターネットください」
と言ったという笑い話がありました。
つまり、インターネットで何が出来るかわからずに、「インターネットをする」事が目的で買う人が多かったということです。
ちなみに、私が大学でコンピュータを教わった時は、OSはWindowsではなくSolarisというUNIX系のOSでした。当時、TCP/IP 通信プロトコルをサポートしている OS としては、UNIX 系が成熟していたからだと思います。
それまで私は、コンピュータというと MSX というゲームパソコンで、BASIC のプログラムを写経していた記憶しかありませんでした。なので、コマンド入力と言われても全く分からず。
とりあえず言われた通りに操作をしたら、Netscape Navigator というブラウザが立ち上がり、カラフルなテキストのページが出てきました。英語なので、訳が分かりませんでしたが、とりあえずそれで感動したた覚えがあります。
コンピュータの授業と言っても、特に何をするわけでもなく、
とりあえずホームページを作ってみよう
ということで、これまた訳も分からずコマンドを入力して、学籍番号と名前だけのテキストページを作って、
他のコンピュータから Netscape Navigator で、URL を入力したら無事表示されたね
みたいなことで終わった記憶しかありません。
大学の授業ですらそんな感じでしたから、一般では
とりあえずパソコン買ってみたけどインターネットってどうするの?
みたいな人が大半だったと思います。
●「とりあえずIoT」「とりあえずAI」になっていないか
今の IoT の導入事例を見てみると、大半は
「IoTください」
になっていないだろうかという疑問があります。
確かに一部では、飛躍的に生産性や付加価値を向上させる活用の仕方がされています。しかし、それらの業界は
そもそも技術革新が進められる土台があった
または、
コネクテッドにより出来ることが見えていた
ところが多いと思います。
IoT を本当に活用するには、「第四次産業革命」の全容を理解することが不可欠です。巷では、「IoT」や「AI」、「ビッグデータ」という見出しが躍り、まるで
「バスに乗り遅れるな」
と言わんばかりに啓発が行われ、いささか胡散臭さも感じる人もいると思いますが、こういう背景があります。
従来でも実現可能な機能をただ、
IoTのシステムで実現しました
では、
開発費ばかりかかってその効果が見られない
従来通りのシステムでいいじゃないか
ということになり、本来導入すべきところが後回しにされかねません。
●「代替品」の恐怖感
従来、業界での競争というのは、競合他社より
「いかに価格が安いか」
「いかに質が高いか」
「いかにブランドを確立しているか」
ということだったと思います。
しかし、「自動運転」に代表されるように、
「モノからコンテンツ」
への価値観のシフトにより、
全く違うアプローチで参入してくる第三者
が、シェアを広げていく可能性が出てきました。つまり、新しい技術への置き換わりです。
よく例えとして出されるのは、「ポケベル」です。
今の30代くらいの方からは、もう知らないかもしれませんが、携帯電話(今はスマートフォンになってしまいましたが)が普及する前は、「ポケットベル」と言われる、無線の呼び出し機が普及していました。
ポケベルは、最初は本当に、電話でベルを鳴らして呼び出すだけのものでしたが、そのうち電話番号などの数字をメッセージとして送る機能が追加されました。
しかし、ポケベルが普及した割とすぐ(4~5年?)、まず PHS が普及しました。PHS は、携帯電話よりもサービス範囲は限られていましたので、「鉄の着信」と言われるポケベルも、まだ重宝されていました。
ポケベルの衰退が決定的になったのは、第2世代の通信サービスが出てからでしょうか。電波がディジタル化して、データ通信サービスも充実してきてきてから、携帯電話の優位性がどんどん高まっていきます。
そして、3G になってから PHS も駆逐され始めます。キャリアも増え、競争が激しくなり、価格も低下していきました。ポケベルもその間に、文字コードを打ち込むことで文字メッセージを受信できるようになったり、電子メールとの連携機能が付加されたりと進化していましたが、携帯電話には到底かないません。
とうとう昨年、1社だけ残っていた東京テレメッセージがサービスの提供を終了し、ポケベルはその役目を終えました。PHSも来年、ワイモバイルがサービスを終了することを発表しました。
ポケベルも PHS も、価格低減やサービス内容の充実など、企業努力により進化してきました。しかし、携帯電話、そしてスマートフォンという
全く別のものが同じ機能をカバー
し、または
それを超える機能を実現した「代替品」が登場
して、役目を終えることになったわけです。
そういった恐怖感から、新技術の導入を進めている節があるケースも多く見られます。
●続いていく従来技術もある
ところで、IoTで一番の肝は、無線環境と電源の問題です。民生品や趣味の範囲であれば、通信が多少不安定でも許容幅は広いですが、特に工業や医療用途では、そうもいきません。
システム停止によるロスが何千万、何億という損害になったり、生命に関わったりするからです。だから、制御のソフトウェア化や、クラウドとの連携に対してもとても慎重です。
ましてや、無線化というのはなかなか受け入れられないケースが多いのが現状です。また、機器の堅牢性の観点からも、市販されているIoT機器というのは、なかなか適用し難いという事情もあります。
そういう場合は、素直に有線のアナログ伝送方式にして、既存のネットワークの中ででデータを蓄積し、必要な部分だけ転送をする方が、ずっと確実でコストもかからず、いい方法となることもしばしばあります。
最近では、電源線を利用した有線IoTというのも、注目を集めています。これは、15年ほど前に、
コンセントに差すとインターネットができる
という事で注目されたがあまり普及しなかった、「PLC通信」という技術です。
IoT向けにという事で、また新たに仕様が策定し直され、再注目されたものです。
今後も様々なモノやサービスの「代替品」が、どんどん出てくることと思います。そんな中では確かに、
「より安く」とか「よりいいものを」
という
従来の「日本のモノづくり」の視点
だけでは、いつか全く予想もしていなかった、
新たなモノやサービスによって駆逐されてしまう
可能性があります。
だからこそ、IoT などの新技術を導入するにあたっては、その価値を明確にする必要があるのです。
そして、ある面の評価ばかりにこだわらず、もっとシンプルに、
全体的にどうすればもっと良くなるか
という視点で考える事が大事です。
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