電気の豊洲市場?
築地市場が豊洲に移転してから、早2年が経とうとしています。
移転当初、やれ土壌汚染だの、やれ設計が悪いだのと大騒ぎしていましたが、その話題も開業して数か月もしない間にフェードアウトしましたね。しかし結局は、何の結論も出ないまま。
反省が無いというか、忘れっぽいというか、実に日本人らしいと思います。
さて、今回のテーマの「市場」は、食品ではなく「電力」です。
●電気の流通の仕組みと自由化
電気は公共インフラのため、皆さんはあまり
「商品を買っている」
という意識は無いと思います。しかし、
発電所で電気エネルギが生産され
送電線や配電線を通じて供給され
使用した分の料金か請求される
という仕組みは、一般に流通する商品と変わりはありません。(電力供給の仕組みについては、以下のリンクも参照して下さい。)
2016年に、電気を消費者に売る「小売」が自由化され、「小売電気事業者」として登録を受ければ、どの会社も電気を売っていい事になりました。
それまではどうだったかというと、「〇〇電力」(関東であれば「東京電力」)などの、いわゆる電力会社が、
電気を作る「発電」
電気を送る「送電・配電」
電気を売る「小売」
まで全て1社で行っていました。イメージ的には、
生産工場から、
品物をトラックで運ぶ輸送から、
品物を販売するお店
まで全て1つの会社で一貫して行っている感じです(下図)。
多くの流通している品物は、輸送は「運送会社」、販売は「スーパー」などに委託しますよね。こういう形で、生産から販売までカバーしている例としては、「山崎製パン」などがよい例になると思います。
この
生産から小売りまで一貫したサービス
のメリットは、以下の点になるでしょうか。
①届け先や商品、数量の変更などフレキシブルに対応できる。
②事故などのトラブルに迅速に対応できる。
③どこに何をどれくらい届けたか、トレースしやすい。
特に、電気という商品は、生産と消費がほぼ同時に行われ、その需要と供給のバランスが重要になります(「同時同量の原則」と言います。以下の記事も参照下さい)。
また、輸送のインフラとして、物流の場合は倉庫などの拠点だけあれば、道路という公共のインフラを利用してサービスを提供できるわけてすが、電気の輸送に関しては、道路にあたる「送電線」まで一緒に用意するイメージになります。
なので、①のメリットは重要と言えるでしょう。
②に関しても、電気は公共性が高い点と、「同時同量」の観点からも、迅速な対応のメリットが重要です。
③は、料金の精算に重要です。特に電気の場合、商品そのものはどこで生産されたか区別がつきません。
一旦発電されて、送電網に供給された電気は、水槽に入れた水のようなものです。よく、
「電気は色がない」
なんて言い方をしますが、太陽電池で発電された電気も、原発で発電された電気も、使う時は同じ電気です。
今は「スマートメータ」が普及して、
「どこからどれくらい電気を買ったか」
という「計算」は、契約条件からできますが、
「実際にどこで発電されて、どの電線を通ってきたのか」
というのは、各消費者に専用に電線を引かない限り、区別かできません。
従来のアナログ式メーターでは③の事ができないため、地域ごとに1社で管理するしか無かったのです。だから、
「電気の小売自由化は、スマートメータとICTの技術か実現させた」
とも言えるのです。
しかし、1社一貫システムにはデメリットもあります。それは、
①コストダウンに意識が向かない
②技術革新のマインドが育たない
①は、トータルコストとして全体で均されてしまい、それぞれの部門でどんなコストがあるのかが見えにくくなることがあります。
特に電気のような公共性の高い事業は、料金が規制されている一方で、事業が安定して継続出来るよう「統括原価方式」が適用されていました。なので、そもそもコストダウンの必然性が無かったと言えます。
②についても、これだけ多岐にわたる事業を一手に引き受けるには、業務をいかにマニュアル化・ルーティン化するかが重要です。特に、公共インフラは「安定」が求められるため、何か大きな課題や社会的要請が無い限り、スピード感のある技術開発を行おうという事にはならないのです。
●電気事業の分業と電力の調達
現在は小売自由化して、電気を売る会社も沢山出てきました。電力会社の切替を勧めるCMや広告も、毎日のように目にするようになりました。
しかし、それだけ沢山の会社が、いきなり発電所や送電線を作れるわけではありません。では、それらの会社は商材である電気をどうやって調達しているのでしょうか。
まず自由化の前に、上の電気の流通の仕組みの説明で出てきた「発電」「送電・配電」「小売」というそれぞれの役割ごとに、会社が分けられ、その事業を行う条件が決められました(以下のリンクを参照下さい)。
これは言ってしまえば、
自由化により普通の物流と同じような仕組みになった
事になります。
しかし、電気エネルギを産み出しているのは「発電事業者」です。
電気は発電したと同時に消費される
ため、小売事業者は倉庫や店舗を持っている訳ではありません。なので、仮想的な電気の市場で取引をし、売る予定の電力量を「予め調達」します。
そして、その調達した電力量を顧客に売って、利益を得ています。つまり、小売業者が生産者である発電事業者と、ユーザである顧客を仲介しているイメージです。
もちろん「仮想的」とは言っても、実際に発電所では見込まれる需要の分を計画として発電しています。そして、それが家庭やオフィス、工場などで、実際に消費される訳です。
だから、発電事業者はちゃんと「発電した分だけ」、小売事業者に売らなければなりませんし、小売事業者も発電事業者から「調達した分だけ」しか顧客に売ることは出来ません。そして、例えば火力発電であれば、できるだけ仕入れコストを抑えるため、
将来の消費電力量予測から、燃料を確保する量を決める
必要があります。
しかし発電事業者は、直接顧客の使用状況や、その予測を把握できるルートを持っていません。そこを、小売業者が仲介しているというイメージです。
そして、小売事業者がどこから電力を調達するかというと、「日本電力卸取引所(JPEX)」というところになります。
●電気の取引は株やマグロと同じ?
JPEX は、発電事業者と小売事業者の取引の場を提供する、豊洲市場や東証のような会社です。つまり、発電事業者が JPEX に売値を提示し、小売事業者が買値を提示して、その折り合いがついた価格で取引されるわけです。
その取引価格は、実は結構変動しています(以下リンク参照下さい)。
一番の変動要因は、季節や時間帯による電力需要の変化です。例えば1日の時間帯で見ると、朝9時頃から上がり、16時頃にピークが来ます。
また一週間では、地域にもよりますが、週末に低くなる傾向が見られます。そして年間では、2月と8月にピークが見られます。
さらに、燃料の取引価格によっても変わります。実際東日本大震災の後、燃料費と共に電力価格が高騰しました。
もちろんその要因は、原発が止まって電力需給が逼迫したこともありますが、一番の要因は円安と燃料価格自体の高騰です。
これだけ変動しているにも関わらず、私たちが支払う電力量料金は、それほど大きくは変わりません。変動するのは「燃料サーチャージ」分くらいです。
それは、もともと自由化される前は、国で定めた「規制料金」の計算に従っており、それが今でも適用されるケースが多いからです。電力のような生活に必須のエネルギは、そんなに価格が上下するのは望ましくないのです。
しかし自由化に伴い、色々な料金プランが出てきました。一般家庭向けでは無いと思いますが、法人向けに
「JPEX の価格に連動する電気料金プラン」
なんかもあるそうです。
(電気料金の決まり方については、また別の記事で解説したいと思います。)
●JPEX のもう一つの重要な役割
JPEX の役割は、ただ電力の取引価格を決めるだけではありません。
まずは、大原則である「同時同量」を実現するため、取引の総量を管理しています。
マグロは競り落とされれば無くなるだけですし、競り残りがあっても、ある程度は冷凍保存できます。しかし、電気の場合は、
生産した以上に使われてしまう場合もあるし、余っても送らざるを得ない
ところが違います。
そして、そのバランスが崩れると、周波数や電圧が変動して、みんなが使えなくなります。
また、実際に電気を送るには、送配電事業者の送電線などのインフラが必要です。そして、送電線や配電線は、流せる電気の量が決まっています。
自由化後は、例えば小売事業者が、単価の安い北陸の発電事業者から調達して、単価の高い関東の顧客に売ることも可能です。しかし、みんながそれをやってしまうと、実際に送電線が流せる以上の電気を、流している計算になってしまう可能性もあるわけです(下図)。
さらに、「同時同量の原則」とは言うものの、予測が外れる事はもちろんあります。そんな時も、電気を安定して供給できるよう、調整用の発電設備が必要になります。
しかし、発電事業者が利益を上げるために、なるべく少ない設備コストで多く発電しようとしますし、小売事業者も利益を上げるため、なるべく安い電気を調達しようとします。その結果、調整に寄与する設備を持つ事業者が少なくなり、需給予測が外れたときに調整が利かなくなります。
そうならないように、JPEXでは色々な形で電力の取引が行われています。
次は、電気料金の仕組みや、JPEXで取引されている内容などを見ていきたいと思います。
※資源エネルギー庁から「電気の需給調整」について学べる、おもしろいゲームが提供されています。子供向けですが、大人も楽しめると思います。