日本のエネルギー問題とは何か
自分の今後の仕事のために、日本や世界が抱えているエネルギー問題を整理してみます。今回は完全な個人的メモですが、同じく学ぶ必要がある方のご参考になれば幸いです。
●日本のエネルギー問題(「エネルギー白書」より)
日本のエネルギー事情を把握する上で参照すべき資料として、資源エネルギー庁から毎年出されている「エネルギー白書」があります。
PDF版とHTML版があり、いろいろな省庁から白書が出されていますが、エネルギー白書はその中でもかなり見やすいように工夫されていると思います。
エネルギー白書は例年3部構成となっていて、主に以下のような内容に分かれています。
第1部 日本のエネルギーの現状と対策
第2部 国内外のエネルギー需給状況
第3部 日本で年度内に実施したエネルギーに関する施策
つまり、第1部を見ると、現在の日本のエネルギー問題が把握できるわけです。ここで、10年以上前から毎年必ずと言っていい程取り上げられていたテーマは、
①エネルギー資源の安全保障
②地球温暖化対策
です。
①は、国産の安定したエネルギー資源が開発されない限りは、付きまとう問題でしょう。日々のニュースでは、原子力がどうとか石炭がどうとか、太陽光発電がどうなっているとか、個々の問題が取り上げられがちですが、まず大前提として、
「日本のエネルギーをどう安定して確保するか」
という、大きな問題を考える必要があるのです。
②も、最近大きな問題として認識されたような感じはありますが、国連で「気候変動枠組条約」が発効されたのは1992年です。日本では、1997年に京都で行われた第3回の条約国会議(COP3)で、いわゆる「京都議定書」が採択されてから、一般に認知されるようになりました。ただ地球温暖化が、最近頻発しているような、大災害を引き起こすものとは考えられていなかったのです。
そして、最近上がるようになったテーマは、
③原発事故の処理と福島の復興
④パリ協定への対応
⑤エネルギーシステムの強靭化
③は、震災の年以降必ず取り上げられています。これは、今後何年にも渡って、日本の負の遺産として直視していく必要がある問題です。
④は地球温暖化の関連ですが、国際社会の要請として具体的な対応が求められている事と、最近の技術革新により、内容が変化してきています。
⑤は、エネルギー資源確保だけでなく、供給インフラを含めた包括的な内容になっています。特に、最近起こった地震や台風などの災害による、大規模停電への対応なども盛り込まれています。
他にも細々した、エネルギー事業(電力・ガス)の自由化をめぐる動きなど単発的なテーマはありますが、それはエネルギーそのものというよりも政治的な側面の話です。
「日本全体として考えるべきエネルギー問題」
としては、この5つを最低押さえておけば、今後の政策の大きな流れが理解できると思います、
●日本のエネルギー効率は、現状は健闘しているが今後は?
最近のパリ協定をめぐるニュースで、日本は国際社会から批判ばかりされているような印象を受けますが、日本のエネルギー消費効率は先進国の中でも高い水準を保っています。
エネルギー白書の中で出されている、「実質GDPとエネルギー効率」のグラフを見ると、GDP自体が伸び悩んでいる傾向もありますが、効率は上昇傾向が続いています。
海外と比較しても、地域別に見ると、日本はイギリスに次いで2番目に高いエネルギー効率となっています。2005年頃までは、日本が断トツで高い効率でした。
日本がこれだけ高いエネルギー効率を誇っていたのは、日本のエネルギー自給率がわずか6%と低い事があります。また、不安定な中東情勢により、2度のオイルショックを経験しているからです。
日本の海外からの輸入品総額は約80兆円で、そのうちの約2割がエネルギー資源です。さらにエネルギー資源のうち約半分の8兆円ほどが原油となっています。
そして、その原油の輸入先の8~9割が中東です。いかに中東情勢が日本に影響するかがわかるでしょう。はるか遠くのホルムズ海峡の話題がニュースになるのも、そのためです。
その石油依存度を下げるために、石炭や天然ガス、原子力への燃料転換、再生可能エネルギーの普及、そして省エネや省資源の推進を図ってきたのです。逆に言えば、原油やその他の化石燃料が潤沢に入手できる環境であったら、日本はこれほど省エネや再生可能エネルギーに関する技術開発は行っていなかったと思います。
それに対してイギリスは、1996年から原子力分野の民営化を行い、2000年にECグリーンペーパーで、エネルギーの需給抑制と再生可能エネルギーの推進を発表。気候変動対策を念頭に置いたエネルギー改革に、一早く取り組みました。
その結果も、「実質GDPあたりのエネルギー消費」の曲線に、明確に表れています。また、世界1位となった現在も、その効率の上昇率は変わっていないように見えます。
日本は省エネ政策に関し、特に産業部門に関して「乾いた雑巾」という表現がされます。しかし、そんなことはありません。
鉄鋼や石油化学プラントを始めとした、大規模な事業所は、これまで大幅にその原単位を低減させてきました。しかし、そういったところほど、新しい技術を取り入れて、さらに省エネを推進しようとしています。
そして、日本はそれと同時に、生産拠点の海外移転や、現場の業務のアウトソーシング化を進めてきました。そのため、業務のマニュアル化が進み、省エネのための改善が進めにくくなっている現状があります。
さらに、実際に装置の省エネ化や省エネ管理の肝となる運用のノウハウを蓄積しているのは、最終製品を製造している企業ではなく、装置メーカなどの中小企業がほとんどです。そこがいくら努力しても、実際に装置を使用する側が、省エネのための投資を進めない限り、数字に表れて来ません。
本当に回るべきところに予算が回れば、まだまだできる事は山ほどあるはずです。さらに、スマートモビリティやMaaSによる運輸部門の省エネ、スマートハウス及びBEMSによる、家庭部門及び業務部門の省エネ化も期待されます。
●日本のエネルギー需要は既に減少傾向だが、これはいい事か?
意外に思うかも知れませんが、日本のエネルギー消費量は、2004年以降、減少傾向となっています。特に、2009年のリーマンショック後、次の年に経済回復に伴い一度は上昇したものの、それ以降はさらに減少傾向が強くなっています。
これは、ちょうど日本の総人口の推移と傾向が重なっています。
GDPの増加に伴い、1人あたりのエネルギー消費量が増加するため、単純に比例するとは考えませんが、減少傾向は続くでしょう。資源エネルギー庁も、「徹底した省エネ」と断りを入れた上で、減少の見通しを示しています。
もちろん、徹底した省エネの推進も含まれると思いますが、人口減少と、産業構造の変化(製造業からコンテンツ産業への移行)の影響も大きいと考えられます。さらに、このコロナ禍でGDPの伸び率が減少すれば、その見通しはより下方修正されることになります。
「だったら、日本のエネルギー問題も改善に向かうのでは?」
と思う人もいるかも知れません。消費量だけ見れば、確かに削減はされます。
しかし、世界を見てみると、人口は今後も増加し続けます。先日その見通しに修正が入ったようですが、現在の78億人から、今後88億人まで増加すると予測されています。
そして、さらに問題なのは、都市で生活する人口が増加する事です。
都市部での生活の方が、照明や空調を使用するようになり、エネルギー消費量が大きくなります。つまり、海外でエネルギー需要が増加する事が予測できます。
その中で、日本のエネルギー需要が減少するとどうなるでしょうか。日本はエネルギーの大半を輸入に頼っていますが、その量が減少すれば、海外での需要が増加する分、輸入単価が極端に高くなることが懸念されます。
資源の無い日本は、加工品や情報コンテンツ輸出等で外貨を得て、その資金で資源を輸入する事でしか、生活水準を維持する術がありません。しかしGDPが減少すれば、その収支が赤字に転じていきます。
もしかすると、目の前のエネルギー安全保障の問題よりも、その方が懸念すべき問題かもしれません。
だからこそ、日本にはエネルギー問題の解決に向かう技術開発が必要なのです。そして、日本がどのようにエネルギー資源を選択していくかで、今後も豊かな生活が維持できるかどうかが決まると言えます。
次回は、再生可能エネルギーについて、まとめてみたいと思います。