島暮らしを思う
瀬戸内の凪いだ海が好きでした。
以前の仕事で、中国・四国地方の出張が続いたことがありました。出張先で休みを跨ぐ時には大抵、とびしま海道の島々で、散歩をしたり、海を眺めながら勉強をしたり、穏やかな時を過ごしていました。
しまなみ海道は有名なので、行った事がある人もいると思います。広島県の尾道から、愛媛県の今治まで、6つの島を経由して繋ぐ道です。
一方、とびしま海道は、広島の呉から途中の岡村島までは道が続いていますが、その先はフェリーで今治まで渡るか、しまなみ海道の途中の大三島まで渡るしかありません。(写真参照)
また、呉に行くにも、電車では広島または三原から呉線に乗り換える必要があり、本数が少ないため、車でないと訪れにくい場所です。
そのためか、しまなみ海道ほど訪れる人は多くないようです。途中の島も、それほど観光地化しておらず、生活感漂う島が多い感じがしました。
カバー写真は、岡村島の観音崎からの写真です。瀬戸内海は外海とは違い、波は非常に穏やかな日が多く、眺めているだけで穏やかな気持ちになれる、そんな場所でした。
●ゆったりと流れる島時間
瀬戸内海には他にも沢山の島々があり、フェリーが主な交通手段となっている島も多くあります。そして、通勤・通学の時間帯になると、フェリーいっぱいに人や車が乗っている感じになります。
本州と近い島ならいいのですが、少し離れた、例えば大崎上島などになると、1日の便数がそれほど多くなく、渡れる時間というのがだいたい決まってしまいます。
そのため、一度渡ったら、次のフェリーの時間まではそこで過ごす事になります。一周観て回ったら、気が逸らされるものもないので、良い勉強時間になったわけです。
そんなゆったりした島時間を感じながら、
「島暮らしも悪くないかな」
なんて思ったこともありました。
●閉じた社会の中で
ある時、島の中の一つ町でこんな放送がありました。よく、災害があったときとか、選挙の投票を呼び掛けたりする時の、地域の放送です。
「本日、午後6時より、○○家におきまして、△△様のお通夜が行われます。宜しくお願いします。」
町村の長か、有力者の方なのでしょうか。私が地方で生活したことが無いから知らないだけなのかもしれませんが、葬儀などのお知らせを公的な放送で呼び掛けるというのは、それまで聞いたことがありませんでした。
ちょっと想像してみると、島に居る町の人は参列しないわけにはいかないと思います。まず、島の人口自体、大きなところでも数千人です。
さらに、その中の町の人口など数百人規模です。誰が来ていないかすぐわかりますよね。フェリーの時間も決まっていますし、その時間島に居たかどうかもだいたいわかってしまいます。
地域の結びつきが強い中での生活に慣れていれば、そういった行事に参加するのは当たり前なのかも知れません。しかし、東京から移住するとなると、かなり生き辛い感じがすると思います。
地方選挙など観ていると、投票者数千人の規模の選曲で、候補者が二人しかいない中で、片方が二桁しか入らないなんていう事がありますがよね。考えすぎかも知れませんが、だいたい誰が投票したか、わかってしまうのではないかと心配になったりします。
村八分ではないですけど、島八分にされて、出ていかざるを得なくなるという事もあるのではないかと思います。そうした閉じた社会の中での生活が、想像出来るような出来事でした。
●汚水処理の難しさ
島について、もう一つ気になったことがありました。それは、汚水処理です。
ある島に行ったとき、なんとなく漂う汚水臭が気になったことがありました。水処理関係の仕事をしたこともあったので、そうした匂いに気がついてしまうんです。
「島の汚水処理はどうなっているんだろう」
と気になって聞いてみたのですが、大きな家や会社では浄化槽を設置しているところもあるようですが、殆どの家は汲み取りだそうです。まあ、島の中で下水などは、簡単に整備できるものではありませんよね。
では、汲み取ったし尿はどうするかと言うと、大きな島では終末処理場が設けられているところもありますが、殆どは本州にタンカー船で運ぶそうです。しかし、海を渡るため、天候によっては船を出せず、その間は島に溜め置くことになるそうです。
他の離島に行ったときも、公衆トイレが無かったり、あってもとても使える状態ではなかったりと、島のトイレ事情は汚水処理やメンテナンスも含めて、かなり問題がありそうです。
田舎暮らしの不便さといえば、
「コンビニが近くにない」
とか
「バスや電車があまり来ない」
などはすぐに思いつき、これは慣れれば大丈夫だろうと思うんです。しかし、都会から移り住むことを考えると、こうした生活インフラの違いは、一番耐えがたいものかも知れません。
●ある意味日本の縮図かも知れない
世界から見ると、日本も島国です。
島国だからこそ、海外から守られている部分もあると思います。一方で海外の人から見たら、これだけ日本という島のインフラがしっかりと整備されているのは、驚きのことなのかも知れません。
しかし、これは日本が経済的に発展を遂げて、人口も増えたからなのです。
今後、日本は百万人規模で人口が減少していくと言われています。そんな中、東京の人口は逆に増加しています。つまり、東京に一極集中しています。
これは、従来の生活や仕事では、もう地方経済が回して行けず、発展も望めないという事の現れであり、人口減少の影響です。そして、東京の生活コストは増加し続けます。
人口集中が益々進む東京は、インフラを高度化していく必要があります。しかし、それを支える人口が減っていくのです。そのためには、生産性を向上させる必要があります。
果たしてこのまま維持していくことは可能でしょうか。
私が訪れた島々は、かつては人口も多く、発展していたことが伺えるところもありました。しかし、現在は空き家や廃墟となったところも多く、寂れているように見えました。
いずれ日本も、このまま変わらなければ、そのようになっていくと思います。そうならないためには、日本の中の島で、どう暮らしやすく、人が定着するように変えていくか。
それを考えることが、これからの日本が経験する変化を乗り切る、大きなヒントになると思うのです。
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