独り勝ちの世界は続かない

 「パレートの法則」

と言われるものがあります。よくビジネスの世界で、

「売上の8割は2割の顧客による」

とか、

「利益の8割は2割の商品から生み出されている」

という説です。

 もともとは、イタリアの経済学者であるパレートが、欧州の経済統計から、

全所得額の8割を得ている人は、全人口の2割の人々である

事を見出し、

ある数値を項目毎に分類けると、全体の8割は2割の項目で構成される

という理論を提唱したものです。

 これは、現在でも「パレート図」という形で、品質管理の手法である「QC七つ道具」の一つとして活用されています。

●拡大解釈された8:2の法則

 ただし、こんな誤解をもたらす事もあるようです。

 「8割の利益は2割の社員が生み出している」

 「8割の成果は2割の仕事が生み出している」

などです。

 目に見える部分で言えばそうかもしれません。例えば、開発や営業の仕事をしている人は、生み出した利益を直接的に数値化できますから、すぐ分かります。

 しかし、品質管理や人事など、間接的な仕事をしている人が、全く利益に貢献していないという事はありません。もっと言えば、職場の清掃や消耗品の補充など、協力会社で仕事をしている人も、その会社の業務に貢献しています。

 最初に挙げた、

「売り上げを生む顧客」

という考え方も、

「もし残りの8割の顧客がいなくても、2割の顧客だけで8割の利益が上げられるのか」

と言えば、そうではありません。

 「多くの顧客がいる」

という信頼があって、その2割の顧客による8割の売り上げがあるからです。

 これは、

「統計の結果を拡大解釈すると、誤った結論に至る」

といういい例かも知れません。

●"MDGs" 以前は慈善活動の側面があった

 さて、前回少しだけ "SDGs" について触れましたが、

今回はこれについて、もう少し詳しく見ていきたいと思います。

 SDGs は日本語では、

「持続可能な開発目標」

と言われる、2015年に国連で採択された、大きくは17の項目で構成された目標です。実は、これ以前に "MDGs" という、日本語では、

「ミレニアム開発目標」

というものが,

2000年に国連で採択されていました。そして SDGs はその後継という位置づけでした。

 しかし、MDGs は、主に

「開発途上国の貧困削減」

にフォーカスしたものでした。そして、先進国が途上国に対して支援するという考え方がベースでした。

 日本ではこの MDGs は、国民へはほとんど浸透しなかったようですが、政府はODAを積極的に行うなどして、取り組んでいました。そして、2015年までに、世界の貧困が大きく改善しています。

 実際に、「最貧困層」と言われる、1日当たりの生活費1.25ドル未満で暮らす人々が、世界で約2/3に減少しています。

 ちなみに、日本ではつい最近まで、アフリカは全土が飢餓や貧困に苦しんでいるイメージが一般的でした。しかし、未だ貧困が残るのは「サブサハラ・アフリカ」と呼ばれる、サハラ砂漠以南の地域です。

●新たな問題にフォーカスした SDGs

MDGs の期限を迎えた2015年、世界では新たな問題が顕在化してきました。すなわち、経済のグローバル化が進んだ事による、各国国内の格差の拡大です。

 また、地球温暖化に起因すると考えられる、気候変動による自然災害の増加も、地域格差を拡大させてきました。そして、その格差が内戦やテロリズムの引き金にもなっていきました。

 これらの問題を包括的に捉え、開発途上国や先進国は関係なく、国連に加盟する全ての国が同じ目標に向かうこととしたのが、この SDGs です。

 SDGs は、以下の外務省のWebページに示される17の目標と、それをブレークダウンした169のターゲット、さらにそのターゲットの到達を定量的に判定するための232の指標が示されています。

 何故このような目標が、世界中で必要だと考えられたのでしょうか。

 一つは先ほど挙げた、テロリズムの拡大です。日本では、中東のテロリズムが「民族や宗教間の争い」として取り上げられていますが、根源は迫害された人々が強いられている貧困生活です。

 貧困は暴力を生みます。何故なら、彼らは「貧しさで命を落とす」可能性があるからです。

 彼らには、貧しさから抜け出すための仕事も満足にありません。そこでよく行われるのは、麻薬の密輸や密造です。

 そして、その収入で手に入れるのは、現状を打破するための「武器」です。

 実際に、このコロナ危機の中で、ISILなどのテロ組織の活動が、水面下で活発化している動きがあるそうです。世界的なパンデミックにより、仕事を失って貧困層となった人々が、テロに向かっているとも言われています。

 もう一つは、気候変動です。2015年、欧州やインドが熱波に襲われ、アラスカでは森林火災、カナダでは大規模な干ばつが起きました。昨年の夏、フランスで45℃を超える熱波が記録されたのは、記憶に新しいと思います。

 そして、今年の豪雨です。今年は毎年の梅雨の時期とは異なる気圧配置にも関わらず、記録的な豪雨となっているそうです。これは、インド洋の海水温が例年より温かく、その水蒸気が日本や中国に流れ込んで来ているものと言われています。

●「持続可能性」で試される人間の知恵

 つまり、SDGs で掲げられている目標は、単なる慈善活動ではなく、むしろ

「これからの人間の生活をどう守っていくか」

という行動目標を掲げていると言えます。

 これら17の目標は、それぞれが独立しているわけではく、複合的に関係しています。

 例えば、1の「貧困をなくす」を根本的に解決しようとすれば、4の「質の高い教育」を普及させる必要があります。しかし、教育を受けさせるには、2の「飢餓をゼロに」する事も必要ですし、3の「健康と福祉」を確保する必要もあります。

 今までのように、

「これが足りないから与える」

という単純な考え方では達成できません。そして、それが持続していくには、無理があってもいけません。

 ビジネスモデルとして、これらの目標達成に向かう中で、経済も回していかないといけないのです。与える一方、我慢する一方では、何れ破綻します。

 それには冒頭で述べた、「パレートの法則」のように、目に付く2割だけに注目するのではなく、

「残りの8割と思われていたものがどう影響しているのか」

という事まで正しく分析して、その情報を活用していく事が必要になります。従来のように、

「正義と悪」「勝ち負け」「ゼロ・サム」

という2分化された価値観からは、良い発想は生まれてきません。

 そもそも、正解というものもありません。周りと同じようにやっていたのでは、共倒れするだけです。

 これから本当の意味で、人間の知恵と根気が試される時代になるのだと思います。

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