スカイジェッター疾風 Ep.1

【兵庫県 神戸市 摂津本山駅近く岡本南公園】

照りつける太陽、遊具がならぶ南公園。
今日も子供達が楽しく遊んでいる。

「いい気持ち…。いつものように寝れるな〜。」

一人の男は今日も岡本南公園に来ていた。
名は、冴島鷹之。
彼もまた子供達のように神戸市民であり、神戸市を愛している者である。
スポーティーに刈り上げた髪が太陽に照らされている。
背後に1人の女性が立ちはだかった。
髪が長く、サラサラで風にすぐ靡かれる。
徐ろにピンヒールを脱ぎ、右手に持ち直す。
そして思い切り振りきるように投げる。

「痛えっ!」

「コラ!サボるな鷹之!」

声と共にピンヒールが頭に刺さるように当たる。
後頭部に激痛が走り、その場に蹲って動けなくなってしまう。
頭をさすり投げた張本人に歩み寄る。
彼女は容姿端麗という言葉が似合う女性だ。
唯一欠点があるとすれば、男勝りな性格であること。
夏の課題を忘れていたことを告げに来たようだ。

「京香…、お前またかよ…。」

「鷹之がサボるからやん。ええ加減にしいや。」

「サボったって…。いつも通りにやったやろ?」

彼女は幼なじみの志島京香。
彼のお目付け役でもあり、ブレーキ役でもある。
京香は鷹之の耳を引っ張ってスタスタと歩く。
周りの目もくれずに歩けるのは、ドラマだけかと思っていたのだが。
ここまで気が強いと鷹之が不憫に思えてくる。

「イタタッ…、酷いて京香…。」

「みんな見てるかもしれへんけど、今日という今日は許さへん!」

前述したが、男勝りな京香に頭が上がらない。
可憐、可愛い、大人しい…(以下略)、全てをそこに置いてきたような性格だ。
数mほど歩いた所で要件を思い出す。

「…今日は弓弦羽神社の掃除するんやろ?」

「あー、しまった…。忘れとったわ…。」

苦笑いの鷹之、溜息が漏れる京香。
耳から手を離し、結弦羽神社に向かうように促す。
鷹之が歩を進め出したその瞬間(とき)、京香もその後を追って歩き出した。
無言が続いた事からか耐えきれなくなり、話しかける。

「…ホンマにやるか分からへんから付いて行くわ。

    (心配やわ…、いやいや、心配なんかやない!
       
      これも鷹之の為や!)」

「やるて、付いてこんでも…。

   (付いてくるんかよ…、鬱陶しいぞ…。)」

「いーや、忘れとった奴の言葉なんか信じれるかいな!

   (前もやらんかったやん!信じれるかいな!)」

喧嘩するほど仲がいい…、とは言うがこれでは…。
摂津本山駅まで無言で歩くこと5分、駅に着くなり改札にICカードをタッチする。
横をドヤ顔で入る鷹之、睨みつける彼女。

〈ピッ、ピッ〉

ICカードが虚しく鳴り響き、喧騒の中でも大きく聞こえていた。
3番ホームに足を運ぶ2人。
無言である事が耐え切れなかったのか、ついに口を開いて話し出した。

「なあ、ホンマに神戸市の観光大使になろうとしと        んの?
    嘘ちゃうやんな?」

「それはマジ。ありえへんかもやけどな笑」

フッと溢れる笑みに安堵が訪れる。
急に手首を掴み、走り出す京香。
遅れて走り出す鷹之とうちに秘めた気持ち、さっきまでの雰囲気が改札に置いてあった。

〈…黄色い点字ブロックまでお下がりください…〉

ホームのアナウンスを聞いて電車が来るのを待つ。
住吉とここまでなら車のが早い…、たが、使い慣れた交通機関の方がいい。
香水や車内の古びた匂い、サラリーマンの話し声や学生の恋バナ…。
何から何まで聞いてきた物は中々に捨てがたいものであり、地元から離れたいとは思えない。

〈次は住吉駅〜、住吉駅〜、優先座席は…〉

2分と経たない時間で着くとあって車よりいい。
鷹之は住吉駅の改札を出るなり、駐輪場へ向かった。
ポケットから鍵を取り出し、ロックを解除する。

「え!?アンタ自転車で行くん?ズルいわ〜。」

「お前も乗るか?サツなら怖ないで〜。」

警察が怖くない、怖いでは無くて、学生のノリと観光大使になろうとする者の行為でないのだが。
とりあえずニケツに頷いて後ろに乗る。
とはいえ、ゆっくり漕いでいた。

(最初からニケツするって言うから身構えたやん。)

京香は怖くなっていた自分が恥ずかしくなった。

(こういう時に女子が出るんだよ…、わたし…、とも思いたい。
ってか、穴があったら入りたい…。ってか普段から女子やがな。)

心で勝手に会話を繰り広げていた私。
気持ち良さそうに漕いでいる鷹之には悪いが、少しばかりカッコ良い方が様になる気がする。
何処へ行っても学生時代から目が離せないし、幼なじみというよりかはカップルに近い。
住宅街からおばちゃんが手を振ってきていた。

「鷹之か!いつもの!」

と、ビニール袋が投げ込まれる。

「ナイスキャッチ!」

「ありがと!ユキさんナイスや!」

ニッコリと笑うユキと呼ばれる人物。
中身はどうやら今日の掃除道具のようだが…。
風が気持ちいい、こういうの学生時代にしたかったなと京香は思っていた。

〈キキーッ!〉

ブレーキがかかり京香が前にめり込む形で鷹之を抱きしめる。
気まずくなり、自転車に乗っている時以上に無言が訪れ、空気がよりひんやりと感じていた。

「いつまでそないしておるんや。」

澤島瑛介ーーーー。
ここの神主を務めている40歳(仮)の中年(?)男性である。
慌てながら2人は自転車を降り、そそくさと用意を始めていた。

「着替えんと始まらんやろ?用意してな〜。」

鼻歌を歌いながら神主は竹箒で掃除をし始める。
と言っても更衣室は簡易的、男女なんて到底分けられている訳もなく、少し広めの檜の部屋に押し込められていた。

〈カチャカチャ…、バサッ…。〉

服を脱ぎきする音が響き渡る。

「振り向かんといてや!見たら殺す!」

「なんでお前の下着姿や裸なんか見たいねん!」

いつものように喧嘩がまた始まる。
着替え終わった鷹之が振り返ると、そこにはランジェリー姿の京香がいた。
少し大きめの胸に、引き締まったウェスト、いい感じのお尻が太陽に照らされていた。
慌てて服をまとめる鷹之、そそくさと退散しようとしていた。
気がついた京香は大声で

「アホー!!」

物凄い豪速球で服を投げつけた、避けれずモロに喰らう。
慌てて拭う鷹之、申し訳なさと気まずさ、そしてあんな幼なじみのプロポーションを見てしまったという恥ずかしさが込み上げてきた。
神主・巫女の姿になり、澤田神主から説明をいつものように受け、作業に入る。
掃き掃除、神水の入れ替え、花や木々の手入れ、その他諸々をするだけ。

「お前また京香怒らせたんか…。」

「だって仕方ないやろ…、見たくて見たわけやない…。」

「だってもラジオゾンデもないぞ。とりあえず謝っとけ。」

神主が鷹之を叱っていた。
小耳に挟んだ京香はざまーみろと同時に「恥ずかしさ」以外の何かがモヤモヤとして残っている。
掃除を渋々始め、ブツブツ言いながら溜まった枯葉を掃いて集めていく。
1時間ほど掃除をした辺りだろうか、神社の周りを掃いていた鷹之が何かを見つける。
幼少期を思い出す、京香や同級生と遊んだ日々を。
 
「懐かしいな〜。京香のスカートとかズラして怒られたっけな…。」

何を思い出してもエロい話ばかり、まともな思い出など彼にはないのか…というツッコミがある。
懐かしさに浸っているのも数分後に見慣れぬ物を神社の横に見つける。

「ん?なんだこれ?子供の頃からある銅像じゃん。」

ここの神主には死ぬほど怒られた記憶がある。
触るな、触るなと地元民も、畏れる鷹が甲冑を着た銅像がそこには鎮座していた。
そこには、当時見えなかった文字があった。

〈怨嗟ノ闇 此処二靜 封印セシ疾風 此処眠ラン〉

二宮金次郎像のようにそびえ立つ鷹の姿…、いや…、甲冑を着た鷹は侍の様な姿はまるで漫画のようだ。
注連縄や白色の紙垂が銅像に巻きついていた。
京香もそれに気が付き、こちらに走って寄ってくる。

「それ、触って大丈夫なん?」

「子供の頃からあるよな…、掃除やし、ええやん?」

「せやかて、そこは言われてへんやん!」

そう静止した京香を尻目に注連縄を解いていく。
紙垂がパサパサと同時に落ちていき、風に乗って飛んで行った。
風がつむじ風に変わり、あたりも妖しい光や雲が立ち込め、2人を包み込むように煙が舞っている。
 
「ほら言うたやん〜!」

「ごめんて!」

「ごめんで住むなら海上保安庁要らんねん!」

冗談が言える辺りはまだ、危機感が薄いかまだ大丈夫と思えている。
ただ、触って大丈夫なものではなかった。
そんななか黒い何かがこちらに語りかけてきた。

『世の復活の為に手をよく貸してくれたな!

    褒めてつかわそう!何が欲しい?さあ言え!』

赤い目だけは認識できるし、形も勿論人だ、だが、何か人ではない雰囲気を醸し出していた。

『させるか!!また、蘇ったか!大貫ノ主!』

『そんな古臭い名前は捨てたわ!やれ!言え!』

意味のわからない光景が目の前を覆う、夢かと錯覚せんばかりの状況だった。
もう一人の黒い何かは味方だと視認出来る、がもう一人は敵のように見えている。

『ええーい。ならばこうするまで!』

敵と思しき黒い何かは石を撒いた。
ムクムクと体を成し、ハクセキレイの様な、元寇の鎧ような姿をした怪物が誕生した。

『そこの若いの!身体借りるぞ!』

有無を言わさず身体に侵入してくる黒い何か。
入られた瞬間、鼓動が変動し、身体から羽や鎧が出現する。
姿が変化し、声も野太くなっていき、まるで鳥のような‪姿となっている。

「鷹之!大丈夫?大丈夫!?」

京香の声も届くはずはない。
完全にメタモルフォーゼが終了したかのような、苦悶が響き渡る。
京香にも黒い何かが入り、意識を失う。

(京香!おい!大丈夫か!?く、クソ…、俺…?どうなってんだ!?)

今は自分が自分でないという事、見た目は銅像のようだった。
銅像のような姿に生まれ変わっている。

「アイツを殺せ!我らの敵だ!」

目の前の敵がそう叫ぶ、敵は中華風刀剣を持ってこちらに走り出す。
鷹之が変身したソレは話しかけてきた。

『コレを使え!スカイホーカーだ!』

上空から落ちてきた、万能型の武器・スカイホーカーを手に取る。
スカイホーカーが日本刀に変化し、それを見た瞬間、鷹之は走り出す。

「我が名は疾風!いざ!参る!」

鳥のように高く飛び上がり、敵に向かっていく。
ソレの名は疾風、スカイジェッター疾風だと脳内より語りかけられた。


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