ゾンビランドナナ #006
派遣先はいくつかあるが、このコンビニはそれなりに気に入っている。
賞味期限切れで廃棄になった弁当がもらえる。店舗によっては本部からの指導で本当に廃棄するところもあるらしいが、店長はどうやら本部が嫌いらしい。
「こんなに休みも取れない奴隷労働だと知っていたら、コンビニの店長なんてしなかったさ」
そう言って、この店の店長――兼オーナーは、二本目のタバコに火を付けながらそう言った。
「はあ」
柊ナナは相槌を打つ。レジを開けっ放しにしているが、やはり店内には誰もいない。
「終業時間なのでそろそろ失礼します」
「お疲れ」
タイムカードの代わりに報告書にサインを促す。店長は携帯灰皿のボタンをいじりながら、側にあったボールペンで無造作にサインをする。
「廃棄のお弁当頂きますね」
「……そう言えば君、誰かと一緒に住んでるのかい?」
「え?」
「弁当、いつも二つ持って帰るから。別にいいんだけどね」
店長が指差す。袋の中にはざる蕎麦とカツ丼弁当が入っている。
先程バイトの話なんかをしたからだろう。きっと扶養家族控除だとかそういう類の算段をしてくれているのだろう。とはいえ柊ナナにとってミチルが扶養家族だとするには無理があるし、正直に申告する意味も必要もない。
だって、ゾンビだから。
柊ナナは制服の上から薄いジャンパーを羽織る。
笑顔は得意だった。訓練したからだ。今更それが役に立つことも無いが、嘘をついた時に不審感を与えないのには十分である。
「これでも昔、クラスメイトから大食いの超能力者って言われてたんですよ」
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ちゃんとしたキーボードが欲しいのですがコロナで収入が吹っ飛びました