
毎日ナナしゃん ~After Story~ (126)
※この記事は重大なネタバレを含みません
次にコハルと一緒に向かったのは、アイスクリームの店だった。
私でも聞いたことのある有名チェーン。小さい子供を連れた人や若いカップルで、そこそこの列になっている。
「……これ、並ぶのか?」
「ええ」
先ほどの服屋の列より長い。しかも、購買意欲を煽るためかなんだか知らないが、何故かここだけ屋根はなく、日差しが差し込んでくるのだ。
だが……それもこれも、コハルの条件に含まれると言うなら仕方ないという話だ。私が悪態を口にしながら列に並ぶと、一歩遅れてコハルも私の後ろに並ぶ。その手にはいつの間にかチラシが握られており、あれやこれやとアイスクリームのフレーバーを吟味している。
「……おい、私の財布があるのをいいことに高い物を注文するつもりじゃないだろうな」
「あら、ケチな女の子はモテないわよ?」
結局、私もコハルもシングルサイズを注文した。
私はシンプルなバニラ味、コハルはストロベリー味のアイスクリームを手に、空いているベンチに腰掛けた。
「そう言えばこのアイス、柊の髪色に似ているわね」
「は?」
そうまで言っておいて、何事も無かったかのようにアイスクリームを口にするコハル。
正直なところ、こういった食べ物は苦手だ。
いや――苦手、というと語弊がある。昔、両親に甘い菓子を与えてもらったことはある。だがそれ以来、私は一度として口にしていない。
だが、折角買った物を一口も手を付けないわけにもいかない……と一口、スプーンで口に運ぶ。
「……」
「あら、とってもいい顔。そんなに美味しいなら、私にも一口くれないかしら」
「……あげないぞ」
「これも“要求”のうちだと言ったら?」
「…………一口だけだぞ」
私はアイスクリームのカップを差し出す。コハルはそれを受け取ることなく、手で制した。
「あーん」
「……は?」
「あーん」
「…………」
これも“要求”だとでも言うのか。
やむを得ない。私はスプーンでアイスクリームをすくい、コハルの口に――
「あら、あそこにいるのはミチルちゃんかしら」
「!?」
私は咄嗟にコハルの指差した方向を見る。
……誰もいない。いちゃつくカップルが何組かいるばかりだ。
私は振り返る。コハルは、にやにやと笑みを浮かべながらアイスクリームを頬張っていた。
「嘘よ」
つづく
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