毎日ナナしゃん ~After Story~ (87)
※この記事は重大なネタバレを含みません
鍵がかかっていた。
ジンがコハルの能力を使って人払いは済ませていたものの、人間ではない物理的な鍵はどうしようもない。
いや――あるいは、ジンがもし念動力か何かの能力を持ってさえいれば易々と突破できるのだろうが、そう都合の良いものでもない。むしろ、電子錠でなかったことを幸運だと思うべきだろう。
「モエちゃん、ワイヤーを貸してもらえますか?」
「? いいですよ! でも、何に使うです?」
私はモエから受け取ったワイヤーを、鍵穴にそっと差し込む――しかし、上手くいかない。簡単な鍵開けは、暗殺手段の一つとして知識はあった。しかし、いざワイヤーのような使い慣れない道具を使うとなると、なかなかどうして上手くいかない。細い針金か、物理的にドアをこじ開けられるものがあれば――
……私はポケットに手をやる。あるではないか。鍵をこじ開ける道具が。
それに気がついた私に、ジンがにやりと笑った。もしや、ジンはここまで想定して、私に拳銃を渡したと言うのか。
「ナナ、予行演習だ。暗殺者としての使命を忘れたのと同時に、銃の撃ち方も忘れたなんてことはないだろう?」
「まさか」
訓練で、何度も触った拳銃。
得意ではなかった。だが、それ以上に、殺人鬼である私の体に染みついていた。
安全装置を解除し、引き金に人差し指を添える。
――発砲。
破裂音。金属が擦れる音。
ドアノブが、だらしなく扉から剥がれ、ぶら下がった。
「行こうか、ナナ」
「ええ」
扉を開け、中に踏み込む。
その時、私の頭を、怪しげな予感が過ぎった。
――ジンが人払いをしたとはいえ、簡単すぎやしないか?
こんなちっぽけな拳銃一つで突破できるようなものなのか?
しかし。それを考えたところで、答えは出ない。
恐らく、ジンも気がついているだろう。
それでも何も言わないのは――罠だと分かっていたとして、私たちには前に進む以外の選択肢がないからだ。
つづく