リアル・ジョージアにて〜街編その1〜
首都トビリシは揺れていた。
ジョージアは、国際エージェント法案(通称ロシア法案。外国から資金を受けている団体の活動を規制するもので、これにより政府の意に沿わない活動を締め出せることになる)を巡って大きな局面にあった。渡航時(5月初旬)はまさにロシア寄りの与党が議会でそれを強引に可決しようとしているところだった。
反発する国民があちこちでデモをしシュプレヒコールを叫んでいた。外務省から要注意メールが来ていたりニュースでもさかんにポリスとの衝突が報じられていたが、私が目にした限り、みんなで平和的に連帯して反対の意思を伝えようとしている感じだった。
ほんの30余年前まで旧ソ連の支配下にあったこの国ではウクライナのことも全然人ごとではない。デモへと向かう人々の真剣な表情から自分たちの国を守ろうとする切実な気持ちが伝わってきた。
目抜通りにある国会議事堂周辺は連日多くの人が集結して声を上げていた。私はそのすぐ近くの美術館にピロスマニを見に行った。館内までプロテストの笛やパトカーの音が漏れ聞こえてくる中、ピロスマニの絵はどれもしんと圧倒的な静けさで、その大きな落差が印象的だった。
後日、法案は二度目の議会も通り本可決となってしまった。「ジョージアの民主主義における暗黒の日」のニュースを家で見て胸が痛んだ。そして平穏な日常が実はとても脆いものであることを目の当たりにし自分の国やその周辺についてもいろいろ考えさせられた。
このような状態でもトビリシの店や施設はほぼ普通に開いていて市民生活や観光客に特に不都合はなかった。
念願の人形劇も二つ見ることができた。
一つ目はガブリアゼ・シアター。外国のフェスでも活躍する有名なカンパニーの本拠地である。こじんまりとした劇場ながらテーマパークのような建物でロビーやトイレの装飾まで凝っている。その日の演目は「アルフレッドとビオレッタ」という1991年独立前後のジョージアを舞台にした恋愛ものマリオネットで、なんとベッドシーンがあってちょっとたまげた。照明や音楽の演出も細やかだし英語の字幕もあって、さすがと思った。
もう一つはノダル・ドンバゼシアター(国立青少年劇場)でオペラ「セビリアの理髪師」のパペット劇。これは地元の小学生の団体と一緒に見る。ちょっとでも単調な場面が続くと客席は容赦なくザワつき始め、それを制する引率の先生たちの「シッ!」という鋭い声が飛ぶ。リズミカルな音楽のシーンではノリノリで指揮の仕草を真似る子もいれば、全然笑う所じゃない所でゲラゲラ笑う子もいる。ガブリアゼが大人の外国人観光客ばかりだったのに対し、にぎやかな客席のライブ感も含めてこちらのほうが私には楽しかった。
ジョージア銀行ビル外壁の絵「翼のある画家」を見て、初めてペトレ・オツケリのことを知った。まあ、なんちゅうカッコよさでしょう、1930年代に主に舞台美術や衣装の分野で活躍したがスターリンの大粛正で早世した作家だそうだ。原画や資料を見れる所もあったのにうっかり見逃していたことにあとから気づく。これはまた行かねばならぬ。
次回最終回「リアル・ジョージアにて〜街編その2〜」へ続く
もう少しお付き合いください