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【長編小説】底辺JK vs 新米教師 #12

#12 波に押されて

=主な登場人物=========
〇金村 乃々華:
高校1年生。真面目な性格が、底辺女子高では逆に浮いている。
〇林 かれん:
高校3年生。低学力と素行の悪さで底辺女子高に入学するも、優れた容姿と強気な性格、ずる賢さにより悪い意味で”高校の顔”とも呼ばれる存在になる。新しく担任となる新米教師田中を振り回すことに楽しみを見出す。
〇田中 拓海:新米教師。初の赴任先が地元で有名の底辺女子高となり、ハードな教師生活のスタートとなる。生徒に翻弄されながらも、理想の教師を目指し奮闘する。
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12-1 揺れる心

翌朝、金村はいつも通りの真面目な制服姿で学校に向かった。だが、胸の中には小さな違和感が残っていた。

(あれでよかったのかな……。)

林先輩に強引に連れられて行ったカラオケは、最初はただ戸惑うばかりだった。しかし、終わる頃には少しだけ楽しいと感じてしまった自分がいた。

教室に着いても、その思いは頭を離れない。

(高校生って、みんなこうやって遊んでるのかな? それとも私が堅すぎるだけ……?)

授業中もペンを握る手が少し重く感じられた。真面目でいることが自分の唯一の道だと思っていたが、ふと別の可能性が頭をよぎる。

(高校生活って、勉強だけしていればいいわけじゃないのかな。もっと自由に、自分らしく生きていいのかも……。)

けれど、同時に思う。

(でも、林先輩みたいな生き方が正しいわけじゃない。流されるのは違う。だけど、じゃあ私はどうやって過ごすのが本当に正しいの?)

その日の放課後、金村は1人で帰るつもりだったが、校門の前で待ち伏せしていたかれんに声をかけられた。

「よっ、金村ちゃん!」

「あ、林先輩……。」

「なんか元気なさそうじゃん。昨日のカラオケ、そんなに疲れちゃった?」

かれんは軽い冗談めいた口調で言ったが、金村は曖昧に笑うだけだった。

「別に、そんなことは……。」

「そっか。じゃあ、ちょっとだけ付き合ってよ。今日はカラオケじゃなくて、喫茶店でお茶でもしない?」

突然の誘いに金村は戸惑った。断るべきだと思ったが、かれんの明るい笑顔を見ていると、何となく流されてしまう。

「……少しだけなら。」


2人は駅前の小さな喫茶店に入り、窓際の席に座った。かれんはカフェモカ、金村はホットミルクを頼む。

「ねえ、金村ちゃんってさ、なんでそんなに真面目なの?」

突然の質問に、金村は一瞬言葉に詰まった。

「……どうして、って言われても。勉強が大事だし、将来のために……。」

「ふーん。でも、それだけじゃ高校生活つまんないと思わない?」

かれんの言葉に、金村の心が少し揺れた。

「つまらなくても、それが正しいことなら……。」

「正しいって何さ?」

かれんは身を乗り出して金村を見つめた。

「別に遊べって言ってるわけじゃないけどさ。たまには自分が楽しいことやりたいとか、そういう気持ちないの?」

金村はカップを見つめたまま、何も言えなかった。

(私が本当にやりたいこと……そんなの考えたことなかった。)


その帰り道、金村は1人で考え込んでいた。

(林先輩の言うことには一理あるのかもしれない。でも、何かが失われる気がして怖い。)

けれど、心の奥底では、少しだけかれんの言葉に惹かれている自分がいることに気づいていた。

(私ももっと、自分の好きなことを見つけてもいいのかな……。)

その小さな揺らぎが、金村のこれからの高校生活を大きく変えるきっかけとなることを、まだ彼女自身は知らなかった。

12-2    かれんの揺さぶり

それから数日、かれんは金村に一切声をかけなくなった。校内でかれんと目が合っても、ただ笑みを浮かべるだけで通り過ぎていく。

金村はその変化に戸惑っていた。

(どうして急に来なくなったんだろう。私、何かしたのかな……。)

かれんに絡まれるたびに迷惑だと感じていたはずなのに、今はそれがなくなったことにより、胸の中にぽっかりと穴が空いたような気がしている。

(あれが、私にとって迷惑だったなら、気にする必要なんてないはずなのに……。)

授業中も、帰り道も、何故か頭の片隅にはかれんの笑顔が浮かんでいた。


かれんはというと、金村を遠目で観察しながら日々を過ごしていた。

「……やっぱり気になってるみたいね、金村ちゃん。」

かれんは金村が時折こちらを気にするような視線を送ってくるのに気づいていた。

(こうして距離を置けば、あの子が自分でどうしたいか考えるはず。さて、どう動くかしら。)

かれんにとって、金村の変化を見ることはちょっとしたゲームのようだった。

(このまま私の存在を無視できるような子じゃないでしょ。)

かれんはわざとクラスメイトたちと派手に笑い合いながら、金村の視線を感じるたびに軽く流していた。

数日後、金村はついに自分の中のモヤモヤを振り払うために動き出した。放課後の廊下で、偶然かれんと目が合った瞬間、勇気を振り絞って声をかけた。

「林先輩……!」

かれんは少し意外そうな顔をしながら振り返る。

「お、金村ちゃんじゃん。どうしたの?」

「その……最近、声をかけてくれなくなったので……。私、何か失礼なことをしてしまいましたか?」

金村の真剣な表情に、かれんはふっと笑みを浮かべた。

「へぇ、そんな風に思ってくれるんだ?」

「……はい。なんだか、嫌われてしまったのかと……。」

かれんは軽く肩をすくめた。

「別に嫌いになったとかじゃないよ。ただ、ちょっと様子を見てただけ。」

「様子……?」

「そう。金村ちゃんがどうするのかなーって思ってさ。」

その言葉に、金村は戸惑いを隠せなかった。

「……どうする、って?」

「簡単だよ。自分がどうしたいか、そろそろ決める時じゃない?」

かれんは意味深な笑みを浮かべながら言い残し、再び教室の方へ歩き出した。金村はその後ろ姿を見つめながら、自分の中で小さな決意を抱き始めていた。

(私がどうしたいか……。そんなこと…)

12-3    心境の変化

ある日の放課後、金村はかれんを廊下で待ち伏せしていた。かれんがクラスメイトと楽しそうに笑いながら出てくると、金村は少し緊張した面持ちで声をかけた。

「林先輩……少しお時間いいですか?」

「お、金村ちゃん。どうしたの?」

かれんは意外そうな顔をしながらも、金村の様子に興味津々といった様子で立ち止まった。

「その……もう一度、''勉強会''をしませんか?」

金村の言葉に、かれんは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにクスリと笑みを浮かべた。

「へぇ、''勉強会''ねぇ……。」

その言葉に含まれた真意を瞬時に察したかれんは、金村の顔をじっと見つめる。金村は少し顔を赤らめながらも視線を逸らす。

「ふーん、金村ちゃんがそんなこと言うようになるとはね。」

「……や、やっぱり、ダメ……ですか?」

「そんなことないよ。」

かれんは軽く笑いながら肩をすくめた。

「いいじゃん、勉強会。やりましょ。」


その日の放課後、かれんと金村はまたしてもカラオケボックスへと足を運んだ。かれんは軽い足取りで部屋を選び、慣れた様子でソファに座る。一方の金村は少し緊張しているようだったが、前回よりは余裕がある。

「さて、今日は金村ちゃんも最初から歌うんでしょ?」

「そ、そうですね……。でも、その前に……。」

金村はバッグからノートを取り出した。

「え、マジで勉強する気?」

「勉強会ですから!」

金村は少し得意げに言うが、その真剣な様子にかれんは思わず吹き出した。

「金村ちゃんって、ほんと面白いね。でも、いいよ。ちょっとだけ付き合ってあげる。」

最初の30分、2人は実際にノートを開いて勉強した。金村が熱心に解説をする一方で、かれんは適当な相槌を打ちながらペンを動かしていたが、完全に内容は頭に入っていない様子だった。

やがて、かれんが待ちきれなくなったように言う。

「ねぇ、そろそろ歌おうよ。こんな場所でずっと勉強するなんて勿体ないじゃん!」

金村は少し悩んだが、結局はその提案を受け入れ、マイクを手に取った。

金村は前回よりも積極的に歌うようになり、かれんもそれを楽しそうに見守っていた。

「ほら、金村ちゃん、もうちょっと声出して! いい感じじゃん!」

かれんの声に背中を押され、金村は徐々にリズムに乗り始める。歌い終わったときには、自然と笑顔がこぼれていた。

(楽しい……。)

その瞬間、金村は自分の中に新しい感情が芽生えるのを感じていた。

一方で、かれんは金村の表情を見て満足げにうなずく。

「ねえ、金村ちゃん。」

次の曲を選ぶ金村に、かれんがいたずらっぽい笑みを浮かべながら言った。

「かわいー曲歌うなら、やっぱりかわいーカッコがじゃなきゃおかしくない!?」

「えっ?」

金村はキョトンとした表情を浮かべたが、次の瞬間にはかれんの手が自分の制服のスカートに伸びていた。

「ちょっと、なにするんですか!?」

「いいから、いいから! 個室なんだし、誰も見てないって!」

かれんは笑いながら、金村のスカートを少し折り上げて丈を短くしたり、ネクタイを緩めたりしていく。金村は最初こそ抵抗したものの、かれんの手際の良さと勢いに押され、結局はおとなしく従うことにした。

「ほら、これでバッチリ!」

かれんは得意げに言いながら、スマホで写真を撮る。

「どう? 結構イケてない?」

金村は写真に映る自分を見て、戸惑いを隠せなかった。短くなったスカート、緩められたネクタイ――普段とは正反対の派手な格好の自分が、そこに映っている。

「これ……ちょっと派手すぎませんか?」

「そんなことないって! 似合ってるよ、金村ちゃん! てか、普通に可愛いし!」

かれんの言葉に、金村は少しだけ顔を赤らめた。

「そ、そうですか……?」

「うん、間違いない! ほら、このまま可愛い曲歌ってみて!」

少し恥ずかしそうにしながらも、金村はマイクを握り直した。そして、かれんが選んだ有名アイドルの曲を歌い始める。

最初は声が小さかったものの、かれんが手拍子をしながら「もっと元気よく!」と応援すると、次第に金村の声も大きくなり、リズムに乗っていった。

歌い終わる頃には、金村の顔には照れ隠しの笑顔が浮かんでいた。

「どう? 自分で思ったよりイケてるでしょ?」

「……はい、少し楽しいかもです。」

その答えに、かれんは満足げにうなずいた。

「やっぱり、金村ちゃんもこういうのが似合うんだよ。もっと自信持ちなって!」

金村は、いつもとは違う自分を見せられたことで、どこか心が軽くなった気がした。そして同時に、かれんという存在が自分の中で少しずつ大きくなっていることに気づき始めていた。

#11(前話)
#13(次話)

(この物語はフィクションです。実在する名前及び団体とは一切関係ありません。)

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