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【長編小説】私がホス狂と呼ばれるまで #6
主な登場人物
福井玲奈:26歳のOL。柔らかい雰囲気と愛嬌で人に好かれる性格だが、どこか流されやすい一面もある。中学時代からの親友・友香を大切にしており、周囲からの評価も良いが、プライベートでは孤独を抱えている。
レン:本名、島崎廉也。ホストクラブの人気ホスト。客の心を巧みに掴み、お金を引き出すプロフェッショナル。表向きは明るく魅力的だが、本心は計算高く、冷静に利益を優先する人物。
田辺友香:玲奈の中学時代からの親友で、数少ない信頼できる存在。明るく気さくで、困っている人を放っておけない性格。社会人になっても玲奈との関係を続けており、彼女を心配している。
6-1 友香の疑念
夜の街はネオンで照らされ、冷たい風が吹いていた。仕事帰りの友香は玲奈のマンションへと向かい、自然な形で会いに行く口実を考えていた。
「会社の近くまで来たから寄ったよ」 という言い訳なら、特に不自然さもないだろうと考えた。
玲奈の自宅マンションが見えてきたそのとき、友香の目に飛び込んできたのは、玄関から出てくる玲奈の姿だった。
玲奈は友香には気づいている様子はなく、一人でどこかへ向かって歩き始めた。
友香は声をかけようとしたが、ふと足を止めた。
――玲奈?その服装…なに…?
玲奈は普段の彼女らしい、控えめで清楚なスタイルではなく、体のラインを強調したセクシーな服を身にまとっていた。まとっている雰囲気そのものが友香の知っている玲奈ではなかった。
――恋人でもできたのかな…まぁそれなら良いんだけど…。
しかし、どこか気持ち悪さを感じた友香は、そのまま玲奈を尾行することにした。
玲奈は街の人混みの中を迷うことなく進んでいく。友香は離れすぎず、近づきすぎず、雑踏に紛れながら慎重に後を追った。
――どこに行くんだろう。こんな時間に…。
――ここって……。
玲奈が足を止めた先は煌びやかなネオンが輝く一角だった。友香の目の前で、玲奈はホストクラブの扉を開け、中に入っていった。
友香はしばらくその場に立ち尽くした。
――ホストクラブ?あの、玲奈が…?
友香の頭の中で、玲奈とホストクラブをすぐに結び付けられなかった。しかし、最近の玲奈に対する違和感、そしてイメージと異なるファッションが、その2つをスーッと結んでしまった。
――もしかして、これが…?
すぐにでも玲奈と直接話したかったが、目の前にあるホストクラブの薄いガラスのドアが友香を足止めしているようだった。
――絶対に玲奈を助けなきゃ。このままだと、きっと良くないことになる。
友香は次に玲奈と会ったときに、どのように話を切り出すべきかを考え始めた。繊細な状態と思われる玲奈を真っ先に問い詰めるのは危険だ。友香は玲奈の心の奥底にある本音をどう引き出すのかを考えていた。
6-2 涙と共に
友香は、玲奈の秘密を知ってしまったことで、以前にも増して彼女のことが気がかりでならなかった。
友香はLINEで食事や遊びの誘いを何度も送ったが、玲奈は「仕事が忙しい」「疲れてるから」という理由で断り続けた。
「そしてとうとう玲奈からの返信自体が来なくなった。友香は、これ以上LINEでやり取りしていても意味がないことを確信し、直接玲奈の家を訪れることにした。
ある日の夜、友香は玲奈のマンションの前に立っていた。
インターホンを押すと、少し間を置いて玲奈が出てきた。
「友香…?どうしたの…?」
玲奈の表情には驚きが浮かんでいたが、どこか焦りのようなものも見え隠れしていた。
「仕事帰りで近くまで来たから、ちょっと寄ってみよっかなってね。」
友香は軽い調子を装いながら微笑んだ。
「ごめんね、急に。でも、少しだけ話せない?」
玲奈は一瞬戸惑う素振りを見せたが、友香を部屋に入れた。
玲奈の部屋に入った友香は、以前訪れたときと雰囲気が変わっていることに気づいた。
「なんか…部屋、変わった?」
「そうかな?別に何も変えてないけど…。」
玲奈は軽く笑いながらそう答えたが、友香にはどこか生活感が薄れたような印象を受けた。テーブルには高級感のあるグラスが置かれており、壁際にはブランドバッグが並んでいる。
――前はこんな感じじゃなかった気がする…。
友香は疑念を抱きながらも、焦らず慎重に話し始めた。
「最近、本当に忙しいんだね。全然会えないから寂しかったよ。」
友香がそう言うと、玲奈は少し気まずそうに視線を逸らした。
「うん…まあ、いろいろあって。仕事とか忙しいし…。」
その言葉の曖昧さに、友香は思い切って切り込むことにした。
「玲奈、正直に言って。何か悩んでることがあるなら話してほしい。私、玲奈の力になりたいの。」
玲奈は一瞬固まった。友香のまっすぐな視線に、何か言い返すことができなかったのだ。
「悩んでることなんて…別にないよ。」
そう言って笑おうとしたが、その表情は異常なほどに硬かった。
友香は核心に踏み込む。
「この前、偶然玲奈を見かけたの。夜、仕事帰りに、街で…。」
玲奈の顔が一瞬で強張る。
「ホストクラブに玲奈が入るところを見ちゃったんだよね…。」
その言葉を聞いた瞬間、玲奈は完全に表情を失った。
「どうして…?」
声にならない声で玲奈が呟いた。
「玲奈が何をしてるのか、全部知りたいわけじゃない。ただ、昔の玲奈と違うって思えて、心配でたまらないの。何があったの?」
友香の真剣な声に、玲奈はついに何も言い返せなくなった。
しばらく沈黙が続いた後、玲奈の目から大粒の涙がこぼれた。
「私…もうどうしたらいいのかわからないの…。」
その瞬間、友香はそっと玲奈の肩に手を置き、何も言わずに寄り添った。
結局この日は、友香もそれ以上何も聞かず、ただただ、玲奈に寄り添い続けた。玲奈が全てを打ち明けるには、まだ時間が必要かもしれない。しかし、友香は確信していた。
――どれだけ時間がかかっても、玲奈を救いたい。
続く
▲ 私がホス狂と呼ばれるまで #5
▼ 私がホス狂と呼ばれるまで #7
(この物語はフィクションです。実在する名前及び団体とは一切関係ありません。)