最悪の状態でも、倫理観を決して失わなかった者たち
地球に彗星が迫ってきていて、当初は衝突することはないだろうとの見方だったけれども、やっぱり地球に衝突して、隕石となって地上に降り注ぐのは避けられなくなる状況に陥ってしまう。
隕石の衝突は、大昔は地上の覇者だった恐竜を絶滅させたほどの被害をもたらす。
今回の衝突で人類が滅亡するのは避けなければならないため、極秘に選ばれた人たちはシェルターに避難するように誘導させられる。
建築家のギャリティーは、避難民に選出されたため、家族を率いてシェルター行きの飛行機に乗り込むために出発する。
大統領令は選ばれた人たちにしか通知がいかないようで、全ての人が対象ではなかった。
おそらく特殊なスキルを持った人や、高度なスキルを持った人を優先的に選ばれるようになっているらしい。
そんな選出された人たちは、世間が混乱する前にさっさと移動して、シェルターに向かうための飛行機に乗りたいと考えるだろう。
彗星が迫っているのを目視できている状況なら、混乱が広がる前に安全なところへ避難したい。
選出者と一般者をどうやって見分けるのか、その情報が流れてしまえば、その特権を奪ってやろうとする者が出てくる。
選出された人たちには、目印として QRコードやリストバンドが配られているという情報は、できるだけ漏らしてはいけないけれど、この情報化社会の中で隠し続けるのは難しいなと感じた。
隕石が落ちてきてあとは死を待つのみ、ということになれば、秩序や倫理などあったものではない。
ある人たちは、どうせ死ぬなら仲間と楽しみながら死のうと、最後の享楽に耽る者もいる。
ある人たちは、なんとか生き延びようと店から物資を強奪してため込もうとしたり、安全だと思われるところへ避難しようと車を走らせる者もいる。
またある人たちは、避難民に選ばれていないけど、ワンチャンいけるかもしれないと思って飛行場へ群がったりもする。
強引に突破して飛行機に乗せてもらおうと殺到する人の暴動によって、命綱の飛行機を全壊させてしまうという結果を招いてしまい、結果、助かるはずだった人も助からなくなってしまうという、誰も救われない結末を招いてしまう場面は、皮肉さを感じさせる。
有事の際には、誰もが生き残るために必死になる。
生き残るためには、倫理や道徳などあったものじゃない。
選出者が身につけているリストバンドを奪う。
たとえ相手を殺すことになったとしても、自分が生き残るために相手を襲う。
選出者の子供を誘拐して自分の子供だと言い張り、あたかも選ばれている人のように振舞って生き残ろうとする輩もいる。
命の危機の時には人間はただの動物となり、生存本能に従って自分の利益のみを追求する。
そんな動物としての醜い一面がよく描かれていた。
生き残る人を選抜し、自分が選ばれなかったという事実を認めるのは難しいことだろう。
しかし、隕石の衝突によって大地が荒廃したところから、人類の生活を立て直さなければならない。
その時に研究者や技術者が生き残っていなければ、文明や社会を再構築することは難しいだろう。
そういう点を踏まえれば、一般人が生き残っても仕方なく、未来を託せる人が生き残らなければ、「人類」という種族が本当に滅亡してしまう。
物理的な問題として、シェルターには収容できる人数も限られている。
本当は全ての人を避難させることが理想だが、大地が燃え盛る中でシェルターに何ヶ月も引きこもなければならない。
その間の食料や医療品などの備蓄には限りもあるし、物資面から言っても、全人類を避難させることは難しいだろう。
人間のいやらしい描写の中で、ギャリティーはどこまでも人間性を失わなかった。
家族 (妻と子供) を探し出すために車を拝借するも、「必ず返します」と書き置きを残して行ったり、飛来物が飛んできているなかで、車内に取り残された人を救い出したり。
自分さえ助かればそれでいいというマインドが広がっている中で、ギャリティーは道徳とか秩序とかを守ろうとする姿勢を崩さなかったことが、対比として浮かび上がっているように感じる。
また、選出者をきちんと送り届けようとする兵士たちや医療従事者たちが一番大変だなと観ていて感じた。
彼らは自分のな族や仲間と一緒に過ごしたいと思っているだろうけれど、兵士として、医者として、看護師として、ボランティアで選出者を送り届けるために働く。
生き残る希望がある人を目の前に見ながら、自分の運命を感じながら働く彼らが、一番すごい人たちなんじゃないか、なんてふと思ったりもした。