時代を先駆けるのは常にベンチャー企業だ
本書のタイトルである「Shaper」とは、「何か新しいものを形作る人」という意味があるらしい。
この本は、若者向けに書かれている。
特に新卒を控えた大学生など、就職を控えた意欲ある学生が読むべき本ではないだろうか、と感じた。
もちろん、社会人の人でも事業のこととか、働き方とか、クリエイティビティの面で参考になることは多い。
しかし、読み手が若ければ若いほど、特に学生であるほど良いだろうと思うのだ。
なぜかというと、新卒で入社するには、大企業よりもベンチャーの方が将来性がある、だから入社するならベンチャーを視野に入れてみてはどうか、と促しているからだ。
世の中の大人たちは、入社するならベンチャーよりも大企業の方がいい、と勧めてくる人が多いという。
大企業を経験した後でもベンチャーには入れる。
でも、ベンチャーから大企業に転職するのは難しいからだと。
しかし、その考え方は今では古く、ベンチャーで若くしていろんなことを経験した優秀な人材を大企業は求めているようだ。
実際、世界では Google、Amazonを含む大企業では、ベンチャー経験者を積極的に採用しているという。
逆にベンチャーでは、大企業にいた人物を中途採用で迎えるのは慎重になっている。
大企業でのやり方に慣れた人は、ベンチャーのカルチャーにフィットするか、さまざまな業務を横断的に進められるかなど、仕事やり方が違うので、変化についていけるか見極めが大事だという。
その点、新卒であれば、若という武器があるし、ベンチャーに入社すれば、カルチャーに染まりやすく、変化のスピードにもついていける。
未経験でも、打席に立つ回数は多くなるので、失敗も成功もたくさん経験することができ、若いうちから裁量のある仕事を任される割合も多くなってくる。
実際にこの本で紹介されている多くのベンチャー企業も、新卒 3〜 4年でプロジェクトのリーダーを任されている人が多いようで、20代で要職に抜擢されている人もいるという。
ベンチャーでは人数が少ない分、やることは多く、業務量は大企業で働く以上の忙しさにあるだろう。
でも、その分経験値を積むことができ、裁量の大きい仕事ができるので、リターンは大きいだろう。
そもそも、今大企業と言われている会社だって、最初はベンチャー企業だった。
戦後に生まれ、日本の復興とともに規模が大きくなり、今では名の知れる企業となったのだ。
いつの時代だって、ベンチャーは怪しい、大企業が安定しているという考えは変わらないだろう。
でも、その時代の潮流とともに興した会社が、次の大企業へとなっていく。
今で言えば、黎明期に当たると企業・分野・産業はどこか、時間軸を補正して考えることが必要だと著者は語る。
そして、黎明期や成長のフェーズに飛び込み、会社を大きくする経験をした人の多くが、のちに起業家・経営者として独立しているという事実もある。
誰もが知る大企業を目指すよりも、まだ誰も知らないような勢いのあるベンチャーの方が、将来性としては高いと勧めている。
社会に変革を起こすような新規性のある発想は、その道に詳しい専門家よりも、経験のない素人が集まり、若者が中心となって取り組む方が、イノベーションが生まれやすいという。
その業界の伝統、決まり、慣習などを知らない方が柔軟な考え方ができるし、枠にとらわれない発想をすることができる。
素人だからこそ不便な点に気付きやすく、どの業界にも染まっていないからこそ、お客様視点に立って前提をひっくり返すことができる。
業界を変えるものは業界の中からではなく、外からの刺激で変化が促されると『ニュー・エリートの時代』という本にも書いてあった。
ベンチャー論の点では、『ニュー・エリートの時代』と同じ視点だと感じる。
デジタル世紀の現代は、プロダクトを通してどのような世界を作りたいか、が重要な視点となってくる。
そして、プロダクトを作るには、一つの価値に特化し、目標へのフォーカスが明確であればあるほど、市場に食い込んで行きやすい。
時代の流れを読み取り、顧客が何を望んでいるのかを探り、迅速に変化・行動できるのは、ベンチャーの方が有利だからこそできること。
終身雇用もなくなっていく日本では、今までのように大企業に就職できれば安定できる保証がない。
安定は外に求めるのではなく、自分で常に価値を創り出し、その道を歩むこと、安定は自分で生み出さなければいけない、という。
そのためには、好きなことよりも「得意なこと」を見つけること。
得意な領域で能力を発揮した方が、成果は上がっていく。
自分の問題を解決することで、社会問題の解決につながることを探す。
組織や顧客のために動くことで自分に信頼が集まり、自分の存在によって売上と利益の差分を生み出すような働き方をすること。
会社を構成する何パーセントを担っているのかを考えれば、大企業よりもベンチャーの方が割合は大きくなるだろう。
割合が大きくなればなるほど、会社に貢献している気持ちが高まり、自分の存在にも自信を持つことができる。
迷ったら多くの人が選ばない方を選ぶこと。
それが自分の可能性を拓くチャンスへとつながる。
そのチャンスはベンチャーにこそ転がっている。