一族による生き様の伝承こそが、個人の強みの礎になる
損して、徳、取れ。
これは、父親が経営していた会社の社長室に掲示されていた言葉である。
小さい頃、父親と一緒に入ったお風呂の会話で、記憶に残っているのも、「お客さまの幸せを考え続ければ、利益はあとからついてくる」という言葉。
また、幼少期に父親の事務所に遊びに行くと、必ず見せられていたビデオも「てんびんの詩」だった。親戚に頭を下げても一つも売れなかった鍋蓋が、お客さまのお役に立つことへ純粋に取り組んでいると勝手に売れるようになるという映画である。
私の根本的な生き方や仕事への向き合い方は、幼少期から積み重なった、父親からの伝承で培われてきたと感じている。
東京大学でも学び、大企業でも働きながら多数のビジネス研修を受け、ビジネススクールでも学んでみて感じるのは、誰もが得られる言語化された学びの中には、強烈な優位を構築できるような情報はないということ。
最先端テクノロジーの情報はその最前線の現場にしかないし、マーケットの情報はそのマーケットの現場に行かないと得られないのは当然である。
ただ、それに加えて、経営者としての考え方や生き方の最大の知見は、一族による伝承の中にのみ存在するのではないか。
曽祖父、祖父、父親が、会社経営の中でどんな経営判断をしどんな結果を受け止めてきたのか。そこからどのような意思決定基準を持つに至ったのか。家族、特に血縁関係がある親子関係の中で伝えられることの中にこそ、外部に出ることもない、また言語化されてもいない生き様など、多くの貴重な情報が含まれており、それが秘伝のタレとなって、広い世界で戦っていく上でのオンリー1性を構築するのではないか。
今、そんなことを感じながらも、もはや両祖父とは会話することもできなくなってしまい、父親の話すら全く聞ききれていない自分もある。
また、私も、生まれてきてくれた子どもと、そんな話ができるようになったらいいなと未来を楽しみにしてはいるものの、そんな会話ができるかどうかもわからず、また子どもが大きなるなるまで生きていられる確証もないため、少しずつ言語化し、記録に残していけたらなと思い、このnoteを活用しようと思う。