天使の仕草
最寄の駅内にあるそば屋によく行く。
安くて手軽、それ以上の理由は特にない。
今日も妻が夜遅くまで仕事だったので、1人で立ち寄る事にした。
店内には、テーブル席にサラリーマン2人組みと、カウンター席に僕と同じ年代くらいの女性が一人で座っていた。
食券を買って、その女性より二席離れたカウンター席に腰をかける。チラッと見るとその女性は、冷やしたぬき蕎麦を美味しそうに食べていた。
しばらくして、先に食べ終わった女性は空いた器の前で静かに手を合わせて、“ご馳走さまでした。”と声に出さずに口だけ動かして、帰って行った。
その仕草に僕は、ハッとした。
生きていて当たり前の事なんてない、小さな事でも一つ一つが全て大切な一瞬なんだという事を1発で教えてくれるその仕草に、僕は完全に心を奪われた。
あの仕草が自然に出来る人がこの世にいたなんて。
スマホ片手に惰性で食事していた自分が情けなくなった。
いつかまた、あの天使に会いたい。