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『質問力―話し上手はここがちがう』ある天才キャリアアドバイザーの話

どうも。一般企業で人事の仕事をしているサラリーマンのうみんちゅです。

突然ですが、自分の「質問」の「質」について、考えてみたことはありますか?私がここで指す「質問」とは、「○○って、これでいいですか?」みたいな職場で何気なくする「確認作業」ではなく、商談・面接・インタビューの場における「相手の話を引き出すコミュニケーション」のことです。
今回は、日本を代表する教育学者で、明治大学文学部 齋藤孝 教授の著書『質問力―話し上手はここがちがう』という本の紹介です。

本書は、今までの面接の場における多くの求職者とのコミュニケーションや、自分の「質問」を見直すきっかけをくれた本です。この本を読んで、私は以前一緒に仕事をした「天才キャリアアドバイザー」のことを思い出しました。本記事ではこの本を下敷きに、この天才キャリアアドバイザーとの思い出についてご紹介いたします。
皆様の商談・面接・インタビュー等、幅広い場面でお役に立てると幸いです。

【良い質問とは教育欲を掻き立てるもの】

以前、仕事で人材サービス企業に勤めるCA(キャリアアドバイザー)と面談した際、印象的な出来事がありました。私の当初の目的は、弊社のキャリア採用に関する求人の打ち合わせで、事前にアジェンダを送っており、1時間程度で合意形成を済ませて面談を切り上げる予定でした。

話がひと段落してから、そのCAは、私にこんな質問をしました。

CA「○○さん(私の同僚)に伺いましたが、前にお話ししていたPJT、大成功だったみたいで、流石○○さん(私)ですね。」
私「ありがとうございます。お陰様で。」
CA「全くの素人目線で恐縮なんですが、以前に、現場の業務を可視化したうえで業務フローを再構築することが、スクリプトを組む時に肝になる、とお話しして下さいましたが、やっぱりそこが上手くいったのが今回の成功の鍵ですよね?その後、現場の反応はいかがでしたか?」

本書を読んだ際、私は真っ先にこのCAを思い出しました。後述しますが、この時のやりとりで彼女は3つの高度な質問テクニックを使っていて、本題が片付いたにも関わらず、1時間以上も私がベラベラと喋り倒したことは、今となっては必然だったと納得しました。

表題の通り、良い質問とは相手の教育欲を掻き立てる「質問」です。誰だって自分の専門分野や、情熱を注いでいることについて聞かれると嬉しいものです。そして相手の言葉の節々から「あなたの話す内容に興味がある」ということが読み取れれば、「教えてあげよう」という気持ちが強くなるのです。

【質問力を上げるためには座標軸を意識する】

そのCAの高度なテクニックについて解説する前に、本書に記載されていた上手な質問をする力、即ち「質問力」を上げるために普段から意識すべき座標軸についてご紹介しておきます。

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左の図で、質問力を向上させるために普段から意識すべきは右上の項目、つまり「本質的かつ具体的な質問」を心掛けることです。右の図では、上の項目、つまり「相手も話したく自分も聞きたい」もしくは「自分は聞きたいが相手は話したくない」話を引き出すために、今話している話題が座標軸のどこに位置しているのかを意識し、時間配分を検討しながら話をコントロールするよう心掛ける必要があります。

では、もう一度、先ほどの質問を例に見てみましょう。

CA「全くの素人目線で恐縮なんですが、以前に、現場の業務を可視化したうえで業務フローを再構築することが、スクリプトを組む時に肝になる、とお話しして下さいましたが、やっぱりそこが上手くいったのが今回の成功の鍵ですよね?その後、現場の反応はいかがでしたか?」

まずこの質問は非常に具体的です。以前に私が話した内容を厳密に再現したうえで、本人なりの仮説を立て、それを検証するためにあえて「ですか?」ではなく、「ですよね?」と質問しています。
そしてこの話は私自身、とても話したい内容でした。と言うのも、RPAという業務を自動化できるソフトウェアロボットを導入することで、バックオフィスの業務自動化とタスクシフティングを実現するため、自らPM(プロジェクトマネージャー)として企画段階から現場への浸透支援までを一気通貫して主導した、思い入れのあるPJT(プロジェクト)だったからです。
後で分かったことですが、このPJTは彼女にとっても聞きたい話で、その意味で非常に本質的な質問でした。

【コミュニケーションのコツは沿いつつズラす】

齋藤教授は本書で「コミュニケーションのコツは沿いつつズラす」ことだと述べております。つまり、相手の話に共感しつつ、抽象的な話になりすぎたら「具体的にどうなるのか」を質問し、具体的な話が長すぎたら、本質的なテーマに持っていく。この反復運動を行うことで、座標軸で最も自分が望む位置に、話をコントロールすることが出来るのです。事実、彼女は私との会話で、この「沿いつつズラすコミュニケーション」を忠実に再現していました。

まず共感という部分では、以前に私が会話の中で話したキーワードを覚えておき、今の文脈に持ってくるという「引っ張ってくる技」と、PJT成功指標としては数値化しにくいため、私が最もアンテナを張っていた「現場の反応」について、ビフォー・アフターを聞く「変化について聞く技」の2つを質問に忍び込ませていました。この質問に対して、私はPJTの詳細を熱く語り、専門的な話まで喋りました。

私の具体的な話が長くなりすぎたタイミングで、彼女は「ところで、テスト段階で使用されていたA社のRPAではなくて、B社のRPAを導入した決め手は何だったんですか?」と質問をズラすことで、彼女が聞きたい本質的なテーマへ話の流れをコントロールしていたのです。

さて、それでは最後に、この話の結びです。

この天才キャリアアドバイザーが所属していた人材サービス企業は、私が導入したRPAとは別の種類のRPAパッケージをプロダクトとして扱うマルチベンダーをグループ企業に持っていました。彼女は、このグループ企業への出向が決まっており、出向先での業務を想定して、情報収集に注力していました。そして、たまたまRPA導入のPJTを主導していた私から情報を引き出すことで、このマルチベンダー企業に新たなRPAのパッケージを加え、ソリューションの幅を広げる案を持っていたという訳です。
そして彼女は見事に出向先で、私が導入したRPAパッケージを取り扱う企業とパートナーシップを結ぶことに成功し、新たな販売チャネルの開拓に貢献したそうです。

彼女の類まれなるビジネスセンスやスキルを抜きにしても、「質問力」について肌で感じることの出来た良い例でした。

いかがだったでしょうか。皆様の参考になれば幸いです。

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