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岡田紗佳プロの失言と、問われる「この熱狂を、外へ。」
1月24日、麻雀プロリーグである「Mリーグ」の24-25レギュラーシーズンにて、KADOKAWAサクラナイツ所属の岡田紗佳プロに、失言があった。
正確には、該当日の試合には出場選手としてはなかったのだが、選手控室にいる中でのインタビュアーに向けたと思われる発言であり、現在(27日18:00)時点では俗にいう「炎上」の状態となっている。
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既にニュースサイトやまとめサイト等でも取り上げられている事案なので、何があってどうなったという流れを記述するのは控えておくが、Mリーグの公式放送を行うABEMAではなく、チームがファンに向けて自チームの控室のようすを配信する動画サービス内での様子だったことからも、岡田プロが極めて無防備に、警戒心無く口にした「本心」だったことは明白であろう。
人間誰しも、心の中で何かを思うこと、それ自体に罪は無いし、それは自由だ。
例えば、極論だが「人を殺したい」と思う人がいてもいいし、「男女は平等ではない」という考えも、「あいつは不細工だ」「気持ち悪い」「貧乏人は黙っていろ」と思う人がいてもいい。
言動、行動に移さなければ、それらは自己の中で完結する。
芸能人も、政治家も、そして麻雀プロも。
だが、その胸の内を公の場で何かを口にしてしまった途端に、それは「自意識」のもとから離れてしまう。
筆者は、決してこの炎上に乗じて岡田プロを批判したり、或いは擁護をしたいでも、謝罪を求めたいでもなく、そんなことよりもMリーグの根幹であり、テーマでもある「この熱狂を、外へ。」に対しての大きな危惧を感じている。
ただでさえ「賭け」「賭博」「煙草」「反社」という、それは過去の歴史でもあり、創作物からのイメージでもあり、そういった数々の悪印象で塗り固められてきた「麻雀」という競技を、ある種のスポーツとして、素晴らしいものであるということを普及させるために、Mリーグは誕生した。
事実、それまでは麻雀というゲームを何となくでしか理解できず、稀に麻雀プロが対局するような放送を目にしても、たいして興味の湧かなかった筆者であるが、「チーム戦であること」に興味を持ち、気が付くとMリーグの視聴者となり、いつの間にか魅了されていた。
それまでのプロ同士の対局という「個人戦」ではなく、監督・スタッフ含めチームの控え室の状況もわかる「チーム戦」であることや、2シーズン連続でファイナルシリーズ進出を逃した場合は最低でも1名以上の選手を入れ替えなければならないというレギュレーション(のちに、セミファイナル進出を逃した場合に変更)、自分たちの代表として試合に臨むチームメイトを、時に歓声を上げ、時にその結果に落胆の声を上げながら一喜一憂して応援するチームメイトの姿に、胸を打たれた。
選手、監督、スタッフ、実況、運営…と、Mリーグに携わる方々にとっての共通する大きな目的は「競技人口の普及、麻雀というゲーム(スポーツ)の裾野の拡大」であろう。
そんな中で、岡田紗佳という選手は実にアドバンテージを持っていた選手である。
雑誌モデルとしてキャリアをスタートし、グラビア、TVをはじめとする各メディアに登場し、「好きな麻雀プロが芸能の仕事をする」のでなく「好きな芸能人が実は麻雀プロでもあった」というパターンであり、上記した麻雀について造詣が深くない、知らない人たちをも麻雀に引き込む力があったといえよう。
それまで麻雀プロだった者が、麻雀を知らない人に向けてその魅力を伝えようとすることには、実に大きな労力が必要とされるし、その道のりは極めて厳しい。
同じMリーガーである多井隆晴プロ(Mリーグでは渋谷ABEMAS、麻雀団体としてはRMU所属)も、麻雀の普及を目的とし数々の活動を積極的に行っていることで知られているが、彼のこれまでの経歴、活動を見ると、それがいかに苦しいもので、いかに地道なものであったかが窺い知れる。
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芸能人、麻雀プロといえば真っ先にその名が挙がるであろう萩原聖人プロ(MリーグではTEAM雷電、麻雀団体としては日本プロ麻雀連盟所属)も、俳優として、ドラマや映画、舞台への出演の傍ら、Mリーグでも選手として出場を続け、またその普及のために、敢えてメディアの場で「麻雀プロの萩原聖人です」と自己紹介を行うのも有名である。
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彼らに限らず、先人たちのそうした地道な活動により、麻雀は少しずつ広がってきた。
近年では小学生の麻雀大会なども開催され、高校では麻雀同好会や麻雀部などが創設され、少しずつ、少しずつだが確実に広がっている。
「麻雀プロ」に憧れ、将来はプロになりたいと感じている子供も、珍しくないのであろう。
仮に、プロのサッカー選手や野球選手、オリンピックに出場するような選手が、インタビュアーに対して「公の場で」、その競技も知らないくせに、と口にするだろうか。
今回の件、岡田プロには2つの重大な失敗があると感じる。
1つは、上記した子供たちからの信頼を失うかもしれないということ。
例えば同じ女性として、将来岡田プロのように男性プロをなぎ倒してしまうような強いプロになりたいと思っている子、男女関係なく「あんな選手になりたい」と思い、岡田紗佳という存在がきっかけとなって麻雀をしている子。
そんな夢を持つ子供たちに、今回の件は深く刻まれてしまうだろう。
今はSNS等で触れていなくとも、すべてがアーカイブされるこの時代、やがて彼ら、彼女らが今回の件を目にしてしまう時は必ずといっていいほど訪れる。
そして2つめは、「麻雀がまた限定的になってしまう」ということ。
麻雀というゲームは、万人がプレーできるものである。
体の強さも、足の速さも、大きな体躯も必要ない。
性別年齢を問わず、ルールさえ分かれば誰もが楽しんで参加できる。
その一方、せっかく自ら興味を持って麻雀に歩み寄ろうとしても、どこか「怖さ」や「不安」というものが生じてしまう。
麻雀はやってみたいけれど、1人で雀荘に赴くのは少し怖い。
点数計算が複雑で、覚えきれていないから不安。
確かにゲームの特性上、点数計算や符計算、オーラスでの各家の振る舞いやそもそものマナーなどが多岐にわたるため、初心者が参加したくてもできない、というケースは往々にして存在する。
それでも、Mリーグ(というより麻雀にまつわる各団体の総意かもしれないが)は終始、「楽しいもの」「素晴らしいもの」「誰もがプレーできるもの」としてきた。
裾野の拡大の一要素として、対局中に実況、および解説から発せられる麻雀用語の解説が画面にリアルタイムで表示される機能がまさにそれといえる。
そんな中で、岡田プロは「インタビュアーが麻雀にあまり精通していないこと」を、ほんの一瞬ではあるが呟いてしまった。
実際にSNSで上がった声などに目を通しても、
「やっぱりそう思われていたんだ…」
「麻雀知らないとやっぱりそう思われる」
「だからリアル麻雀は打てない」
といった声が並ぶ。
今回の件は、成績が上だとか下だとか、そんなことではなく、仮にMリーグで個人ランキング1位の選手が同じことを口にしたからといって、避けられたものでは決してないだろう。
前記した多井プロがよく口にする言葉で、「麻雀に恩返しがしたい」というものがある。
自分を育ててくれた麻雀に、恩返しがしたい、と。
今回の件で、岡田プロが背負わざるを得なくなったものは多い。
彼女がもし「恩返し」をしたいと少しでも考えているのならば、その道のりは途方も無く長いものとなった。
そして、Mリーグにとっても「この熱狂を、外へ。」というテーマ・言葉に対して、もう一度深く考えるべきフェーズに来ているのではないだろうか。