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プレーそのものが美しいと思ってもらえる選手の育成が女子サッカーの魅力になる!【優勝インタビュー・最終回/山口隆文監督】
■テクニックの質をもっと追い求めることが必要
――指導者がプレーに関わることの意味を丁寧に指導していくことは非常に大切なことです。
山口監督「あくまで個人的な思いですが、西野さんのもとでは副技術委員長、それ以前はJFAの育成部門の技術委員長を務めた経験があります。ずっとジャパンズ・ウェイを追ってきた者の一人として、そういう経験の中で女子とか男子とか関係なく、サッカー選手として同じように基本をもっと追求すべきだと感じていました。
『日本人は全然うまくないんだ』と。
そういう認識を持たないと上には行けない。アジリティはいいとか、通用することだけを見たら良い風に語ることはできます。しかし、『ある程度』のテクニックはうまいけど、それがゲームで通用するものかどうかは、すでに足らないことが示されています。
引退会見で、内田篤人さんが『ヨーロッパのサッカーと日本のサッカーは別物くらい違いました』というニュアンスのことを発言していましたが、私たちはそういう認識をもって、もっとテクニックの質を上げることに目を向けなければいけないと私自身は思っているので、それをこのアカデミーに落とし込んでいる最中です。
私はここをやらなければいけないと思っています」
――テクニックの意味を考えることは大事です。局面の中でちょこちょことボールを扱うテクニックではなく、何十mも走って走ってのテクニックであったり、試合開始1分と90分のテクニックが同じであったり、そういう質の追求です。
山口監督「私もテクニカルレポートを作成していた一人ですが、強豪国と比べるとゴール前の質が圧倒的に違うんです。現代サッカーはペナルティエリアとその近辺に10人が引いて守る中で、それをかいくぐってゴールを決めなければいけません。
時間とスペースがない中で頼れるのはテクニック!
その中でスピードの中で動きながら『止める蹴る』の精度が高くなければゴールが決められません。見て、判断して、実行するまでのスピードが早くできなければいけないわけです。それが的確に実行でき、さらに二人三人が絡まないと崩せない。現代サッカーの試合環境下では、ベストとベストのテクニックが結合してゴールが生まれることをもっと認識してトレーニングに取り組まなければらないと思います。
相手がプレッシャーをかけない中ではいくらでもボールを回せるけど、いざ本気でプレッシャーをかけられたら跳ね返されてしまうテクニックだと、私たち日本人はいつまで経ってもゴールを取ることができません。勝つためにはゴールを取ることが必要ですから、その点を集約していくと、もっと質を追い求めたテクニックを身につけなければいけないんだろうなと実感しています。
今大会、あれくらいのプレッシャーの中ではあのくらいのプレーができることは確認できました。もっと質の高いプレッシャーの中で力を発揮するためには、もっと上の環境の中で私たちはプレーしなければいけないんだろうな、と。
来年度からは『なでしこリーグ二部』を戦います。その環境の中で、今大会くらいボールを早く動かし、強く長く走り続けられたら本物の実力が備わっていくと考えています」
■プレーそのものが美しい選手の育成が女子の魅力に
――少し女子サッカー界全体のことをうかがいたいと思います。秋からは『.WEリーグ』がスタートしますが、現状の女子の育成カテゴリーはU-18の大会の開催に止まっているのが現状です。クラブユースでは、まだU-15が大会を開催できない環境ですが、少しずつ普及が進んで整えていくことを目指すのだと思います。
そこで、アカデミーとしてはどういう道を歩むのか?
山口監督「アカデミーはもともとサッカーのプレー環境が少ない選手たちに良い環境を与えることを目的にスタートしています。Jリーグがないような街の選手に機会を作ることが始まりです。
特に女子はまだ環境が整備されていないので、まだまだそういう意味合いが必要だと思います。例えば、今回出場した選手の出身地に目を向けると秋田や鹿児島など地方出身の選手がいます。女子の現状はU-12でいい実力があるのに、U-15には受け皿がない。あるいは、天井効果の排除ができないようなクラブしかない。
自分の力を信じた選手たちが挑戦できる場所としてアカデミーが存在していますから、今後もそういう意味合いは保たなければいけないと考えています。
進化という意味では、男子は6年プログラムから3年プログラムになって今年度から福島で活動が再開されます。女子は2024年度から福島に戻ります。女子の場合は6年プログラムという点については変わらないので、現在取り組んでいることを粛々とレベルアップさせることに集中していくことが重要です。
まずはこの3年でやらなければいけないこと。
3年後、福島に戻ったときにU-15のゲーム環境があるのかないのかでどうするのかは現在みんなで話し合っているところです」
――女子は試合環境そのものを構築していく難しさがあります。今大会もある意味でそういうことも含まれていたと思います。偶然にもJFA主催『第24回全日本U-18女子サッカー選手権大会』と重なったこともあり、あまり表現がよくなくて申し訳ありませんが、各地域で上位に進めなかったチームが今大会に出場できました。経験という部分では、男子とは比較できないくらい環境の違いがあります。
山口監督「女子の場合は普及が大事です。チーム数が増えて、競技人口が増えて、リーグ戦が増えないといけません。そして、いつも全国大会を経験できないようなチームも他の地域の強豪と戦うことで得られる経験も必要です。
例えば、男子U-15は夏にタウンカップがあります。あの大会はJクラブと各地域の強豪街クラブがグループリーグで対戦します。そこでは、5点差以上の試合も少なくありません。
ただ成長は知ることから始まることもあります。Jクラブには自分たちの質がどれだけのものなのかを追求する場としてとらえてほしいし、街クラブには思う存分に120%の力をぶつけてほしい。
やはり切磋琢磨する環境が大切です。それはコーチを含めて地域の街クラブが上の実力を知らなければJクラブにとっても下からの突き上げはありませんし、プロクラブなりの役割もあります。
だから、私たちも今大会の5試合は一切手を抜くことなく全力でプレーすることを目標に戦い抜きました。上に立つ者の役目は最大限のリスペクトをして、すべての力を出し尽くして勝利を目指すことです。生半可な態度で試合に臨んではいけないと思っています。手を抜いては対戦相手も本当の実力差が理解できませんから。
今大会は100%の実力を出し切って『同じ年代でこのくらいのプレーができる選手もいる』ことを示すことが考えるキッカケになる。
どんな差があるのか?
特に他のチームの指導者に伝えたいのは、日々のトレーニングで『何を反復するのか』、『何を身につけさせなければいけないのか』を感じてもらいたかった。過去に指導者養成に関わっていたこともあるので、私なりにそういう思いで今大会を戦っていました。
選手を通じてプレーの中で情報配信するのがアカデミーの役割です。
少し質問からは逸れてしまいましたが、私も女子委員の一人としてどのようにプレー環境を含めた普及を行っていくかが重要だと考えています。いい指導者を増やし、サッカーをしたいと思う選手を増やすことが大切だと思います。
以前、アメリカとカナダで行われたU-19の世界大会を視察にいったとき、ポニーテールの女の子とお父さんお母さんが試合に来ていました。
そういう環境を作るためにも、『見ていて楽しい、おもしろい』と思えるサッカーを実践できる選手を数多く育成していかなければいけないと思います。
ぜひ『.WEリーグ』には、数多くのおもしろい試合が展開されることを願っています。そこからサッカーに憧れる選手が増えていくきっかけになってくれればと思います。
AKBの女性達が踊りや歌で自分の魅力を伝えるのと同じように、『.WEリーグ』にいるトップの選手たちはサッカーのプレーで自分を表現するしかありません。表現者として『サッカーそのものが美しい』と思ってもらえるプレーが必要だと思うんです。
私たちアカデミーはそういう選手を育成することがミッションでもあります。結果、それが普及につながっていきます。秋から始まる『.WEリーグ』に今大会に出場した3名が進むことになっています。
彼女たちがどういう表現をしていくかを楽しみにしていますし、これを一つの基準にしながら次に何をしなければいけないのかを追求していきます」
取材・文=木之下潤
写真=佐藤博之/橋立拓也
協力=JFAアカデミー福島
#XFエグゼフ
#XFCUP
#第2回日本クラブユース女子サッカー大会U18
#JFAアカデミー福島
【全四回】
第一回=序文
XF CUP「日本クラブユース女子サッカー大会(U-18)」の大会意義を考える
第二回=優勝インタビュー01
コロナ禍の中で取り組んだチーム作りで見えたこと。【山口隆文監督】
第三回=優勝インタビュー02
プレーに関わる意味を丁寧に指導することが使命。【山口隆文監督】
第四回=優勝インタビュー03
プレーそのものが美しいと思ってもらえる選手の育成が女子サッカーの魅力になる!【山口隆文監督】
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![木之下潤(Kinoshita Jun)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/73797887/profile_9b32c474f4832f76baf5a18403e0863f.jpeg?width=600&crop=1:1,smart)