これは、なんだろう。
第1回私立古賀裕人文学賞 応募作品
テーマ「蒐集」
執筆時間:55分
文字数:1,127文字
男子小学生はモノを集める。
蒐集対象はその辺の小石に始まり、木の枝、王冠、トミカを経てトレーディングカードに到達するのが一般的だ。
しかし札幌市清田区の川沿いで生まれ育った石川少年の家庭では、慎ましく健やかに生きることが何よりの信条とされていたため、1箱500円を超える贅沢品のトミカを、親が私に買い与えるなんて!......天地が逆さになってもあり得ないことだった。
7歳という若さにして早くも世間一般のレールから外れ、そのうち人を簡単に傷つけるようになり、きっと少年院だか少年刑務所だかに入って、このまま人生転落も確実か......と思われた私であったが、男子小学生特有の蒐集癖は相変わらず持ち合わせており、トミカに代わる集め甲斐のあるモノを私は見つけていた。
それは、札幌市清田区の路上によく落ちていた、細長い金属片だった。
長さは20cm、幅は5mmほど。厚さはちょうど紙を数枚重ねたくらいのモノで、身近な物体に例えると、割り箸なんかが1番近いかもしれない。「薄く削いだ割り箸」のような形をした金属片だ。細長い金属板とも表現できる。
本来は銀色に輝いているようだが、道に落ちているものはたいてい茶色に錆びていた。先端を持って強く振ると適度にしなり、錆びていないモノであれば、たんぽぽの首を落とせるような切れ味があった。
「これはなんだろう?」と周囲の大人に聞きまくるも、明確な回答は得られなかった。出自は謎だがその辺にたくさん落ちている金属片にどこか魅力を感じ、1年で100本ほど集め、その間友人にも配り歩いた。
しかし、この蒐集は突然終わりを告げる。通っていた小学校で全校集会が開かれ、金属片を拾うことが大々的に禁止となってしまったのだ。私が「たんぽぽの首を落とせる面白グッズ」として友人に紹介したのが悪かったかもしれない。地域の人が整えていた花壇の花が、根こそぎ首チョンパになってしまったのだ。
「その辺の雑草として生えているたんぽぽと、花壇に植えられているチューリップは価値が全然違うだろう」と思ったが、私は友人30人くらいの先頭に立たされ、主犯格としてお叱りを受けることになった。
(述懐:というかお前らは、トミカを集めてたんじゃなかったのかよ。あとどうせ怒られるなら、俺もチューリップの首を刎ねたかった)
あまりにひどく叱られたため、私たちはその後金属片を見ても見ないふりをし、気づけば道に落ちているモノを拾うような年齢でもなくなっていた。
ーー
時は流れ27歳。東京都文京区と台東区の境目。ふと地面に目をやると、それは当然のようにそこに落ちていた。
20年間見えないふりをしていただけで、もしかすると行く先々で、ずっと落ちていたのかもしれない。
これは、なんだろう。