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ブロンディールに一年中恋をしている。(Vol.1)

ブロンディール、それはフランス菓子店。
ブロンディール、それはあの畑の向こう。
ブロンディール、それは甘美の楽園。

いきなり何のことやらという感じなのだが、あの畑の向こう側に存在している甘美の楽園、フランス菓子店ブロンディール。
私が「フランス菓子」というものに触れるキッカケとなった大切なお店であり、今では第二のマイホームの如く相当な頻度で通い詰めているパティスリー(決して近所に住んでいる訳ではない)、まさにマイホームパティスリーと呼びたいお店、それがブロンディールなのである。

ブロンディール史解説
2004年に埼玉県はふじみ野にて開業、オーナーシェフ藤原和彦氏が創り出すフランス菓子の数々は、確かな技術とセンスに裏打ちされた一見して只者ではないオーラを放ち(まるでパリのパティスリーに降り立ったかのような既視感さえ与え)、新興住宅地たる地域へと新しい風を送り込み着実にファンを獲得、一方で百貨店での催事出店・業界誌などにより都内から電車で約30分という場所にも関わらずその味を求めてやってくるほどの存在感を示していった。
そしてオープンよりちょうど10年が経過した2015年、現店舗である東京都は練馬区石神井公園へと移転。新たなる地でも「本場のフランス菓子店さながらの既視感」という変わらぬ魅力はそのままにパンなどのラインナップを一層拡充。さらには本格的に始動した店内カフェスペースによるアシェットデセール(夏季限定)の提供を始めるなど、新たな挑戦を行いつつも一定してブレない拘りの姿勢を追求し続け、地域の若年世帯から年配層にまで幅広く支持されるお店として「日常の中での特別な場所」を確立している。
また、伊勢丹マ・パティスリーでの出店やSNSによるファンの発信を嗅ぎつけ触れた甘味ファンをも次々と魅了、都内からアクセスしやすくなった事もあり、唯一無二の味わいを求めて訪れたいパティスリーとしてさらに勢いは拡大し続けている。

前置きが長くなったが、今回は数あるパティスリーの中でも、なぜ私がブロンディールに最も惹かれ、別格の熱が入るのか?
今回はその秘密を紐解いていきたい。

ブロンディールにハマる3大要素
①センス(美学)
②マインドへの共感
③味

①まずセンス。美学ともいう。
ブロンディールはそのスペックがずば抜けて高い、ある意味「意識高い系」なのかも知れない。オーナーシェフ藤原和彦氏が貫く美学が至るところに徹底している。しかしこれが自分の理想の店を作る上では何より必要な事なのだと思う。
フランス菓子というのはベースが決まっている。古典や伝統といったクラシック、歴史が積み上げて築き上げてきた時間と重みがある。もちろんフランス菓子店を冠する店であれば無視する事はできない。では如何にクラシックをベースにしつつ、そこへ自分だけの持ち味=色を反映してくのか?それこそが美学なのではないか。

藤原シェフはとあるインタビューでこう答えている。「見た目から発想するのではない、味わいを追求した結果が形を作るのだ」
どこかで聞いたことがあるような・・と思ったらAppleのプロダクト作りにおけるプロセスがまさにこの発想。見た目は驚くほどシンプルなのに実際に製品を使ってみると、その造形や配置そしてフィーリング全てに意味を感じる、これをブロンディールのプティガトー(以下ケーキ)に置き換えると、なるほど美学が貫かれているのが手に取るように理解る。世間にはびこる見た目華やかなケーキは確かに素晴らしいかも知れないが、表層を煌びやかになぞっただけのデザインが真実味に欠けるのと同様、食べていて味気ないと感じてしまうことがある。なぜなら必然性が感じられないからだ。
一方、ブロンディールのケーキでは装飾は必然性を伴って行われている。例えば、もし上に乗るフルーツであれば内部の重要パートとして使われている素材を示唆する為に添えるであったり、飾ることが目的なのではないから自然であるし力強く感じられる、何よりも実際に食べてみて腑に落ちるのだ。
これは美学以外の何ものでもないだろう。

次に、商品ラインナップ。徹底的に本場にそのまま持っていけるフランス菓子店をという事に拘ってる。プティガトー(生菓子)の他、焼き菓子、コンフィズリー(砂糖菓子)、ショコラ、トゥレトゥール(惣菜)、そしてパン。これに加え昨年より夏季はグラス(冷菓)を組み込んだアシェットデセールを提供(2017年にいきなり5種でスタートしたかと思えば、大いなる期待とともに始まった2018年はさらに3種増やしてきた)。
これこそがフランス菓子店、もう店内に一歩踏み込んだら、360度見渡す限り煌めく宝石箱状態、フランス菓子が好きな人でも馴染みのない人でも一瞬で虜になるであろう驚くべき全方位型の布陣(全部をこの手にコンプリートしたいという人間の探究心を全力で刺激してくる)、これが大型店ならまだしも個人店の範疇でやってしまっているのだから、拘りが半端ないのだ。なのにそこで感じるのは鬼気迫るものというよりは、こうありたいという美学なのでいかにも自然体でやっているように感じる(実際そうなのであろう)、なので菓子や雰囲気からはシェフの美学という大海原に浮かんだようなリラックスした心地良さを感じるのだ。ひとつ変態的ラインナップを象徴しているものが「スミレの砂糖漬け」である、常時である、そんなお店ほかにあるだろうか?(いやない)
逆にショートケーキは置かない。誕生日ケーキのアントルメ依頼が来れば作るが普段はスポンジを焼かない為、事前予約が必須、あとはクリスマスの時だけ特別に出現する。あれば売れるのは分かっていても普段は絶対に置かない、それは洋菓子店の守備範囲であり本場のフランス菓子店には存在しない存在だからだ、徹底している。
美学は飲み物にも反映されている。ミシェラドーロのエスプレッソ、マリアージュフレールのマルコポーロ、ワイン、シャンパン、ヴァンショーなど、やはりここでも拘りが徹底している。
特に注目すべきは紅茶、ブロンディールの美学とマリアージュするのはまさにこれだという、華やかに凛とした中にも温かみのある香りが特徴のマルコポーロ、いわゆる高級である。ブロンディールの美学が貫かれたケーキに美学を感じる紅茶、その交わりが互いを引き立て愉しむ時間を一層有意義なものにしてくれるだろう。素晴らしい。

②商売気のなさ、マイペースなマインド
「素材の質を落とす事は考えていない「美味しい素材を仕入れとことん美味しさを追求する」とインタビューである。最高級タヒチバニラやシシリー産アーモンド、そして国内ではブロンディールにしか取引がないという特別な皮付きピスタチオ、など一級品を用いているにも関わらず、良心的な価格を維持し続けている。都心から少し離れた郊外という立地も、「落ち着いて菓子づくりに専念出来る場所」として、良質素材と良心価格とのバランスに寄与しているだろう。
また、前述のショートケーキを置かないというのも、自身の理想とする店を築き上げる為に必要な選択であり、それでも分かってくれるお客が付いて来てくれるという自信の裏返しでもある。(もちろんショートケーキ以上に魅力的な品々によって心を掴むのだが、ふじみ野時代のオープン当初は厳しかったらしい)商売より先に職人としての維持とプライドが魅力的な店作りの骨幹を支えているのは間違いない。
ひとつの拘りを徹底し地道に維持継続する事で、商売は後からついてくるをブレずにやり続け、結果として商売に結びついているタイプ。無作為に規模を広げたりはしない。だから信頼できるし応援したくなる。

最近の世間一般の情報の取り方というのは、Webがメインでホームページ、さらにはSNS(フェイスブックやインスタグラム、ツイッター)などであるが、ブロンディールは一貫してホームページのみで運用している。実に潔く漢らしい。
菓子のような嗜好品であり、かつ季節の移ろいとともに歩む商売において、情報発信とその鮮度が集客に重要な役割を担う時代、無論ブロンディールにも求めたいところなのだが、必要最低限の情報しか更新されない。一部の季節の菓子以外の情報は店に行かないと分からないのだ。これは戦略ではなく、ただ淡々と菓子づくりに専念したいという意思表示だと思っている。
今の時代、情報に溢れかえっている。本当に大切なことは何なのか?実際にその足で店を訪れ、ショーケースに眩く煌めくNouveau!(新作)やいつでも変わらず魅力を放ち続ける定番品に触れる歓びこそが、実は一番大切なのかも知れない。なのでファンはマイペースを受け入れ、季節ごとはもちろん季節の変わり目そして毎週のように足繁く通い続ける。そうやって得た情報は、ファン自身が発信しシェアすることで素敵を広めようとする。店は魅力的な菓子作りに専念しファンは美味しさを味わい現場の空気感を味わいシェアする自然なリレーションシップ、何よりも他では味わえない「素敵」があってこそのことだと思う。私もそんなマイペースのブロンディールのファンであり続けたい。

③味わい
他の何よりも最も大切な要素が、唯一無二の「味わい」。
最初にムラングシャンティを食べた時の衝撃は忘れられないし、モンブランの見た目のコンパクトさを遥かに超えた爆発力は尋常ではなかったし、デリスピスターシュにおけるピスタチオ層のふくよかさは全世界のピスタッチャー歓喜な超越具合だったし、キッシュロレーヌの素朴な旨さはもはや美味しいという言語を超え感情を揺さぶりロレーヌ地方への郷愁を誘う味わい(行った事はない)なのだ、果たしてこれらの秘密は何なのか?組み合わせとしては他のお店でも良くあるものなのに、ブロンディール味として刺さり強く印象に残る。藤原シェフによるクリエイションの凄みは、この全編に漂う唯一無二のバランス感覚、クラシックをベースに置きながらもしっかりと印象に残る引っ掛かりがあり且つその世界観へと引き込む力こそが「持ち味」なのだと思う。

ブロンディールのケーキを食べると、至ってシンプルな構成になっていることに気付く。シンプルとは何を感じさせたいかの主張がハッキリとしている事。明確に打ち出された構成は素材の力を感じさせやすいし、主パートを引き立てる副パートとともに素材そのものの味わいを広げてゆく。
シンプルに力強くオリジナルの味わいにする為には、自家製に拘る。例えば、スペシャリテと言われる「デリス・ピスターシュ」は日本ではブロンディールだけしか取引きのない特注の皮付きピスタチオを使用、それを軽くローストしたのちフードプロセッサーで挽いて生まれたぺーストは、美しく自然な色合いと豊かな風味が圧倒的に迫ってくる。まさに主役に相応しいエメラルド色に輝くクリームとなっている。


そしてどの菓子も華やかさで惹きつけるというよりも、もう一歩深いレイヤーで語ってくる。しなやかに鍛え上げらた肉体が美しいように、ケーキも見た目を着飾るよりも、素材そのものを吟味し自ら加工を行うことで自家製に拘り、思い描く味わいに近づける。味を示唆する飾りも含め、意味のある配分配置は力強くあじわい深い世界観を気高く築き上げる、何よりも説得力のある美しさこそが「美味しさ」なのである。
また、力強い美しさがある一方で、どこかリラックスした空気感も纏っている。端正なのに美しいのに力強いのに過剰なものは好かない、味わいが結果として美しい形を作り上げるという媚びない姿勢こそが自由を感じさせてくれるのだ。

フランス菓子には揺らぎがある。メレンゲの造形、キャラメリゼの濃淡、グラサージュの艶感、自然界がそうであるようにひとつひとつ違う表情がなんとも愛おしい。なぜそう思うのか考えてみると、二度と同じ表情は存在しないこと、そして完璧はその瞬間生まれているという儚さに惹きつけられるのだと思う。
いずれもどこかリラックスした雰囲気を纏いながら。ひとつひとつ手仕事ならではの各々個性が滲む。これは伝統菓子になるほど顕著になる。意味合いを重んじて大幅なアレンジは加えないのを美徳としつつ、らしさをそこはかとなく漂わせている。オリジナルのケーキもクラシックに見えてくるという事は見た目の華やかさを追いかけていないという事だ。“キレイに見える菓子ではなくおいしそうと思える菓子を心掛けている”、このような発言にも藤原シェフならではの美学を端的に表した言葉だろう。
改めて「味わいは見た目に表れている」を感じながら、一粒のかけらさえも愛おしく口にしたい。


以上、ブロンディール好きによる、ブロンディール好きのための、ブロンディストな内容(Vol.1)、そろそろ収拾がつかなくなってきたのでこの辺りで一区切り。まずは素晴らしく素敵なパティスリーが在るのだということが少しでも伝われば幸いです。

そしてひとつ困ったことが。

「書いている間に何度ブロンディりそうになったことか…!」

つづく。




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