小学校で使用される体操服の形状の変化についての研究

1 緒言

 日本の小学校・中学校・高校における体育の授業や体育祭・運動会などの行事の際、生徒はほとんどの場合、一般に体操服(体操着・体育服といった呼び名もあるが、本論文では体操服で統一する)と呼ばれる衣類を使用する。また、かつては女子の体操服としてブルマーと呼ばれる衣類が使われることが多かった。1960年代以前には、体に密着しないズボンの裾部分にゴム等を通したもの(いわゆる提灯ブルマーなど)がブルマーと呼ばれていたこともあったが、1970年代以降、体に密着するタイプのブルマー(密着型ブルマー)が一般的となった。本論文でも特に断りない場合は、この密着型ブルマーのことを単にブルマーと呼称する。ブルマーがどのように普及し衰退していったかについては、山本雄二著『ブルマーの謎』(青弓社)などで既に調査が行われている。この著書の中では、新聞記事での記載等をもとにして、1992年から1993年ごろにブルマーからハーフパンツへの移行が始まり、2000年ごろまでにはブルマーがほぼ消滅した、と書かれている(42~43ページ)。しかし、ブルマーの使用率の減少について定量的な調査は行われていない。
 また、体操服の形状はブルマーの他に、短パン型(丈の短い体操服)とハーフパンツ型(太ももの大半が隠れるタイプの体操服)が考えられるが、それらの使用状況についても、未調査のままである。
 さらに、男子の体操服についても、かつては短パン型が多かったものがハーフパンツ型へと変化していったことが推測されるが、定量的な調査は行われていない。
 本論文は、先行研究では不明だった各種の体操服の使用率を明らかにすることを目的とする。具体的には、1980年から2023年までの各年で、男女両方について、小学校における体操服としてブルマー・短パン・ハーフパンツがどの程度使われているかを定量的に調査し、体操服の形状がどのように変化していったかを明らかにすることを目的とする。

2 調査方法

2-1 体操服の種類

 研究を進めるにあたって、最初に、今回調査する体操服の形状について定義しておく必要がある。
 上半身に着る体操服については、時代が違ってもほとんど形状の変化が見られないため、本論文では研究対象外とし、下半身に着る体操服の形状のみに着目する。
 本研究において、下半身に着る体操服は、ブルマー短パンハーフパンツ、の3種類に大別する。ブルマーとは「伸縮性があり体に密着するタイプの衣服で、太もも全体が露出するような形状のもの」と定義する。短パンとは「体に密着しないズボン型の衣服で、おおよそ太ももの半分以上が露出するくらい丈が短いもの」と定義する。ハーフパンツとは「体に密着しないズボン型の衣服で、おおよそ太ももの半分以上を覆うくらい丈が長いもの」と定義する(図1)。

図1 体操服の形状の種類。

 上記3種類とは異なる種類の体操服については、本論文では調査対象外とする。例えば、長ズボン型の体操服などを使っている学校や、そもそも体操服を設定せずに私服で体育の授業等を行っている学校などもあるかもしれない。しかし、ほとんどの学校で体操服は上記3種のいずれかを使用していると考えられるため、それ以外の形状は例外として無視してよいと見なす。

2-2 調査範囲

 本論文では体操服の形状を調査する期間を1980年から2023年とした。本論文は、体操服がブルマーから短パンやハーフパンツに変わっていった一連の流れを見ることを目的としているため、1979年以前については特に調査の必要はないと考えた。また、古い時代の画像は数が少なく、画質も悪いため、調査の正確性を維持するためにも1979年以前については調査対象から外すこととした。
 また、当初は中学校や高等学校における体操服の形状についても調査しようと考えていたが、これらについてはインターネット上で見ることのできる画像が少なく、正確な調査結果を出せないと考えられるため、今回は小学校のみを調査することとした。

2-3 調査で用いた方法

 体操服の形状の調査には3つの方法を用いた。
 一つ目は、Google検索を用いた方法である。Googleの画像検索の画面で「小学校 運動会 XXXX年」と入力し、出てきた画像や動画の中で使われている体操服の形状およびその小学校名と使用年(その画像や動画が撮られた年)を記録した。「XXXX」の箇所には、実際には1980から2023までの数字が入る。検索ワードに「運動会」を入れたのは、そうすることによって体操服の画像が出やすいようにするためである。
 二つ目は、各自治体が発行している広報誌を用いた方法である。市町村の中には発行している広報誌を過去数十年分全てホームページ上で公開しているところがある。そのような市町村の広報誌を1980年から2023年のものまで見て、出てきた画像での体操服の形状およびその小学校名と使用年(その広報誌の発行年)を記録した。
 三つ目は、小学校が開設しているブログを用いた方法である。市町村の中には各小学校の児童の写真を積極的にブログ等に掲載しているところがある。そのような市町村の各小学校のブログ内で「運動会」と検索し、出てきた画像での体操服の形状およびその小学校名と使用年(そのブログ記事が作成された年)を記録した。

2-4 体操服形状が分からない期間について

 ある学校において調査を行い、ある年の体操服の形状と別の年の形状が同じだったならば、その間の期間についても形状は同じであったと見なす。
 例えば、ある学校の2000年の体操服が短パン型であり、2005年についても同様であり、それ以外の年については情報が無くて形状が分からなかったとする。その場合、2000年と2005年の間の期間(2001年、2002年、2003年、2004年)については、体操服が短パン型であったと見なす。
 例えば、ある学校の2000年の体操服の形状が短パン型であり、2005年の形状がハーフパンツ型、それ以外の年については情報が無くて分からなかったとする。その場合、2001年から2004年のどこかで体操服が短パンからハーフパンツに切り替わったことになるが、いつ切り替わったのかは不明であるため、その期間の体操服形状は不明であるとする。

3 結果と考察

3-1 調査した学校数

 上記の調査方法に従って1980年から2023年までの体操服の形状を調査した結果が、下の図2および図3である。

図2 男子小学生についての1980年から2023年までの体操服の形状。
図3 女子小学生についての1980年から2023年までの体操服の形状。

各表の一番左には調査年、その隣には体操服形状を調査できた小学校数を記載した。なお、調査した小学校数が男女で異なるのは、調査した小学校の中に男子校・女子校が含まれていたり、男子か女子のいずれかの形状しか分からなかったケースがあったりして、調査数にズレが出るためである。また、表中にある①~⑩の項目については、以下の通りの意味である。

  • ①男子生徒の体操服としてハーフパンツのみが使われている小学校の数

  • ②男子生徒の体操服として短パンのみが使われている小学校の数

  • ③男子生徒の体操服としてハーフパンツと短パンの両方が使われている小学校の数

  • ④女子生徒の体操服としてハーフパンツのみが使われている小学校の数

  • ⑤女子生徒の体操服として短パンのみが使われている小学校の数

  • ⑥女子生徒の体操服としてブルマーのみが使われている小学校の数

  • ⑦女子生徒の体操服としてハーフパンツと短パンの両方が使われていて、ブルマーは使われていない小学校の数

  • ⑧女子生徒の体操服としてハーフパンツとブルマーの両方が使われていて、短パンは使われていない小学校の数

  • ⑨女子生徒の体操服として短パンとブルマーの両方が使われていて、ハーフパンツは使われていない小学校の数

  • ⑩女子生徒の体操服としてハーフパンツ、短パン、ブルマーの全てが使われている小学校の数

 ここでは、図2および図3から言えることを簡単にまとめ、詳細は次項以降で考察することとしたい。
 第一に、1980年代から1990年代前半においては、男子は短パン、女子は短パンまたはブルマーが全ての小学校において使用されていたことが分かる。その後、1990年代後半からハーフパンツを使用する学校が増えて、短パンとブルマーの使用が減少している。特に、ブルマーを使用する学校については、2000年代前半以降は0となっている。これらの結果は、先行研究や我々の実感とも合致していると言えるだろう。
 第二に、形状の異なる体操服が混在している小学校(図でいうところの③、⑦~⑩にあたる学校)は非常に少ないことが分かる。すなわち、ほとんどの小学校において、子どもや保護者が体操服を選択することはできず、学校が定める特定の体操服を使用するよう強制されていることが示唆される。上図における形状の異なる体操服が混在している小学校は、学校指定の体操服の形状が変化している過渡期の学校であると考えられる。そうした過渡期のごく一部の学校を除けば、ほぼ全ての小学校において体操服の形状が一種類に統一されている、という実態が見て取れるだろう。

3-2 各体操服の使用率(男子)

 下の図4は、男子小学生における各年のハーフパンツおよび短パンの使用率を表した表である。ハーフパンツ使用率とは図2における①と③を足し合わせた学校数を調査した学校数で割った値であり、短パン使用率とは②と③を足し合わせた学校数を調査した学校数で割った値である。

図4 小学生男子における1980年から2023年までのハーフパンツ(青線)および短パン(黒線)の使用率。

 男子については、体操服の形状が2種類しかないため、比較的簡単な傾向を示している。1980年から1994年までは、調査した全ての小学校において男子は短パンが使用されていた。1995年に初めてハーフパンツが確認されるようになり、その使用率は急激に増大した。2002年にはハーフパンツ使用率が短パン使用率を上回り、2010年にはハーフパンツ使用率は90%に達している。2020年代にはハーフパンツ使用率は約98%で推移しており、短パンはほとんど使われなくなっている。
 ハーフパンツが初めて確認できた年からハーフパンツ使用率が90%に到達するまではわずか15年であり、短い時間で体操服が短パンからハーフパンツに切り替わっていったことが見て取れる。

3-3 各体操服の使用率(女子)

 下の図5は、女子小学生における各年のハーフパンツ、短パン、ブルマーの使用率を表した表である。それぞれの使用率は、図3の該当する項目を足して、調査した小学校数全体で割った値である。例えば、ハーフパンツ使用率とは、図3の④、⑦、⑧、⑩を足して、調査した学校数で割った値となる。

図5 小学生女子における1980年から2023年までのハーフパンツ(青線)、短パン(黒線)、ブルマー(赤線)の使用率。

 1980年から1994年までの期間は、女子の体操服としてブルマーか短パンが使用されており、ハーフパンツは全く使われていなかった。その期間全体を通して短パンよりもブルマーの方が使用率が高いが、ブルマー使用率は緩やかに減少しているように見える。1990年代後半に入ると、ブルマー使用率は急激に減少していき、2004年にはブルマー使用率が0となった。それと同時期に、ハーフパンツの使用率が急激に増大し、2010年にはハーフパンツ使用率が90%を超え、2020年代では約99%となっている。短パンについては、2000年までは使用率が増大し、それ以降は減少している。すなわち、2000年までは、体操服をブルマーから短パンに切り替える学校が多かったため短パン使用率が上がり、2000年以降は、多くの学校が短パンからハーフパンツに切り替えたため短パン使用率が下がったものと考えられる。

3-4 スクール水着の変化との比較

 以前私は、小中学校の水泳の授業などで使われるスクール水着の形状変化について報告した。その中で、かつてのスクール水着は太ももの大部分が露出するような布面積の小さいタイプが多かったが、現在では布面積の大きいものが増えてきていることを報告した。また、女子のスクール水着については、体のラインが見えないようにスカート状になっているものが増えていることも併せて報告した。

 本論文では、肌露出が少なく子どもが羞恥心を感じにくいよう配慮された水着のことを非露出型スクール水着、あるいは単に非露出型水着と呼ぶこととする(非露出型水着の詳しい定義については上記報告を参照されたい)。
 図4および図5で示したハーフパンツ使用率と、上記報告で明らかにした非露出型スクール水着の使用率とを比較したものが、下の図6である。

図6 小学生の体操服のハーフパンツの使用率および非露出型スクール水着の使用率(ハーフパンツについては1980年から2023年の使用率、非露出型スクール水着については2004年から2022年の使用率)。青実線:男子のハーフパンツ使用率。青点線:男子の非露出型スクール水着使用率。赤実線:女子のハーフパンツ使用率。赤点線:女子の非露出型スクール水着使用率。

 この結果からも明らかなように、近年は教育現場において子どもが恥ずかしさを覚えるような服装(体のラインが見える服装や露出が多い服装)が避けられる傾向が強まっており、そうした傾向が体操服やスクール水着形状の変化として可視化されていると考えられる。

3-5 体操服形状の男女差について

 上の図6における男子のハーフパンツ使用率と女子のハーフパンツ使用率は傾向がほぼ同じであり、2つの線は非常によく重なっている。このことより、ハーフパンツ型の体操服が普及する過程において男女差はほとんど無かったものと考えられる。
 かつての学校では、男子は普通の短パンなのに、女子だけが体に密着したブルマーの着用を強制されるという男女差が普通に見られていた。しかし、少なくともハーフパンツの普及状況については男女差はほとんど無かったと考えられる。ブルマーが使われなくなって以降については、例えば、男子はハーフパンツを使用し女子は短パンを使用する、あるいはその逆、といった学校はほとんどなく、男女とも共通の体操服を使っている学校がほとんどであることが見て取れる。

3-6 考察

 本章の最後に、体操服の形状変化の過程を、第一期(短パンとブルマーが支配的だった時代)第二期(ハーフパンツが登場し短パンとブルマーが衰退した時代)第三期(ハーフパンツが支配的になった時代)に分けて考えてみよう。
 第一期では、体操服としてハーフパンツは一切使われておらず、男子は短パン、女子は短パンまたはブルマーを使用していた。本研究では1990年代前半までが該当する。昔の女子の体操服と言えばブルマーというイメージが強いが、実際には、この第一期においても女子の体操服として短パンを使用していた学校も少なからずあったことが本研究により明らかになった。それでも、ブルマーを使用していた学校の方が多く、女子で短パンを使用している学校は少数派であった。
 第二期は、ハーフパンツが急速に普及していった時代で、本研究では1990年代後半から2000年代後半までの期間にあたる。ハーフパンツの普及と同時に、ブルマーは急速に衰退し2000年代前半にはほぼ使われなくなった。また、男子の短パン使用率も急減した。女子の短パン使用率は、ブルマーからの置き換わりにより一時的に増大したが、ハーフパンツの普及に伴って減少に転じた。
 先に紹介した先行研究では、1992年から1993年ごろにブルマーからハーフパンツへの移行が始まったと述べられており、本研究のハーフパンツ登場時期(1995年)とは少しずれている。これは、先行研究が小学校だけでなく中学校や高校で使われるブルマーも含めた話であるのに対して、本研究では小学校のみに着目しているからだと考えられる。そのため、中学校・高校について本研究と同様の調査を行えば、第二期の開始時期は少し早まるかもしれない。
 第三期は、ほとんどの学校においてハーフパンツが使われるようになった時代で、本研究においては2010年代前半から現在までにあたる。この第三期では、短パンはほとんど見られなくなっているが、ブルマーのように完全に消滅したわけではなく、ごく一部の学校ではまだ短パンを使用している。

4 結言

 多くの人が「昔は体操服としてブルマーが使われていたが最近は全く見かけなくなった」といった漠然とした認識はあるものの、具体的にいつどのように変化が生じたのかについてはこれまで明らかではなかった。また、ブルマーだけでなく、短パンやハーフパンツについても、それらがどの程度使われているのかを明らかにした研究は、私が知る限り無かった。本研究によって、それらの疑問がある程度クリアになったと言えるだろう。
 しかし、過去の体操服の形状が分かり、かつ、撮影時期や学校名が明確になっている映像や画像は数が少なく、特に1980年代、1990年代については各年で100校程度しか調査できていない。また、得られたデータには地域の偏りも見られる。そのため、本研究で得られたブルマー使用率、短パン使用率、ハーフパンツ使用率は正確でない可能性がある。
 今後は、より多くの学校で調査を行えるよう、調査方法を改良する必要があるだろう。そうすることによって、例えば、体操服の変遷の地域差を調べたり、中学校や高校の体操服変化を調べたりすることが可能となるだろう。

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