妄想:変数03 州兵国境を跨ぐ
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「大統領は州兵がお好き」という映画は・・・まだない。だが、後年映画化されるかもしれない事象が発生する。
米国に混乱が起きる時、大統領は国内治安維持に連邦民兵(各州の州兵・予備役混成部隊)を活用することにご執心である。忠誠があるなしにかかわらず動かしやすいのだ。
「チカラによる統治」でも正規軍を簡単には動かせない。統合参謀本部の助言がなければ兵隊が動かないからだ。統合参謀本部の動きは鈍い。大統領の人事権行使によって「忠誠」が絶対条件となって「能力」が後回しになってしまい軍の活動能力が低下したため、連なって「統合参謀本部の活性化」が課題となっていた。
そこで大統領は統合参謀本部のメンバーでもある「アメリカ州兵総局長」の権限を引き上げることを画策する。国防総省における軍人(制服組)の地位であり、州兵総局及び州兵における最高位の士官であるこの職と連邦民兵を強力に結び付け、正規軍として格上げを行ったのだ。
州兵は州の民兵である。だが、この格上げで「大統領の民兵」となっていった。大統領は統合軍を正規軍と民兵の混成(新統合軍)にするように再構築した。
作戦命令は、軍の最高司令官たる大統領から国防長官を経て、直接各統合軍司令官を通じて発動されるが、新統合軍ができてからは大統領の指令を直接受ける流れができあがる。これにより、統合参謀本部の助言を待たずに軍を動かせるのだ。実質上の「統合参謀本部の解体」である。
州の民兵であった州兵は正規軍となってあらゆるところに影響を及ぼしていく。アメリカ州兵総局長の指令が優先され始めたのだ。そのアメリカ州兵総局長にあたらしい人事が下る。
その人物(以降、新総局長と呼称)はサモアからハワイに移り住んで最年少の州下院議員となり同時に佐官級でイラク・クウェートに派兵された経歴の持ち主だ。その後、合衆国下院議員から政党の有力メンバーから構成される非公式会議に参加しつつアジア・太平洋とその軍事知見を深めていった。
新統合軍は旧統合軍の流れを引き、管轄地域別と機能別に組織化されている。管轄地域はアフリカ・アメリカ中央・欧州・インド太平洋・アメリカ北方・アメリカ南方・宇宙で、機能別ではサイバー・特殊作戦・戦略・輸送となっている。新総局長は特にインド太平洋に重きを置く考察に驚くべき能力を発揮した。
新総局長は、大統領から「α特別作戦」プロジェクトの具現化と実行を任されていた。ロシア・中国・インドの連携解体とアメリカ合衆国への従属化がメインテーマである。
新局長が目を付けたのが「日本の軍事強化」という現象だ。それに対して「パールハーバー」を持ち出したのだ。大統領は常々米軍に対する日本の負担を増やすように要求していたが、何時まで経っても大統領の希望する水準に達していない。それにくらべて日本独自の防衛力強化の方が実績を積み上げていることに腹立たしさを覚えていた。
「日本の帝国化」というまったく事実と反するフェイクニュースが巷に流れ始めた。中国の強硬派市民がそれに乗る。日本の右傾化した市民が挑発に乗ってしまう。その現象を新総局長は利用したのだ。「このまま日本が独自の防衛網を整備していくのであれば、やがて『パールハーバー』に繋がっていく。わたしの故郷であるハワイが侵略される可能性を否定できない」と強く日本政府に抗議していく。
テニアン島で構築された日本の自衛隊訓練基地が慌ただしくなる。グアムに派遣されている日本の武官からの電信が入る。「ボウギョ カタメラレタシ」。
新統合軍インド太平洋軍は小笠原諸島と伊豆諸島の間に巡視船数隻を走らせた。同時に沖縄周辺の海域へ軍船を貼り付かせる。中国も緊張状態を察し南西諸島と台湾の間に中国海警局巡視船を置いた。
日本政府も米国政府に様々に働きかけるが「なしのつぶて」である。その間に沖縄県知事から連絡が入る。「米軍基地から『州兵の旗』を持った私服の軍人と思われる集団が小火器をもって市内を占拠し始めた。」、陸上自衛隊沖縄駐屯地からも私服を着た旭日旗を掲げた集団が勢いよく市内に雪崩れ込む。
那覇市内はバリケードが各所に貼られ、一触即発の状態となった。そこで、思わぬ事態が発生する。日章旗を掲げた集団の中から紅星に「八一」の字があしらわれた旗が上がったのだ。中国人民解放軍の旗である。旭日旗と八一旗が並んで風にはためいている。対するバリケードの奥には幾重にも星条旗がはためく。
新総局長は事態の急変に慄く。
更に事態は様相を変えていく。旭日旗・八一旗と並んで韓国軍旗と青天白日旗までもはためき始める。やがてインターネットでは「連合反米団」なる組織から声明が流される。「これより沖縄を発端とする反米活動を開始する」。
この運動の根底には大統領による度重なる「チカラによる(世界)統治」の不平等ディールがある。東アジアは互いに反目しあいながら「米国の言いなりにならない」という共通点で団結したのだ。ただし、正規軍が動くわけにはいかない。私闘の形で抗議することになったのだ。
実はこの動きは新統合軍の内部で共有されていた。新総局長には知らせれていない。日ごろから大統領の指令に不満を持っていた下士官らの連携で、この騒動がまとめられていった。こちらも私闘というかたちでの抗議である。
那覇市内を舞台にした「私闘演劇」のはじまりだ。小火器は偽物である。空砲で銃先から火花が出る仕掛けがあるので臨場感はある。
その弾薬箱の中には "兵士" が持ち込んだ様々な酒や肴が盛り込まれている。「連合反米団」の「打ち方止め!」の指令に応じて弾薬箱の中身をバリケードとバリケードの空いた空間にほうりなげる。開いた箱からさまざまな "飲み食い" が躍り出る。おもちゃの小火器を放り投げた兵士たちが "空間" へ躍り出る。州兵の旗も星条旗も旭日旗も八一旗も韓国軍旗も青天白日旗もサーチライトに照らし出されて誇らしく風にはためく。突き抜ける晴天の夜空の下、兵士たちは盛り上がる。そして、一斉に叫ぶのだ。「大統領のくそったれ!」と。
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参考:米軍関係-Wikipedia
イメージ:沖縄県庁交差点