妄想:これからすべては動乱のなか
動乱(コトバンク参照):世の中が変動し乱れること。また、戦争や、それによるさわぎ。転じて、さわぎ。気持や態度が平静さを失って、激しく乱れること。
*****(以降、筆者妄想)
おそらく、ロシア連邦:プーチン氏が発火点と思われるが、世界の民主主義が瓦解し動乱の世界へ延焼していく。センセーショナルな動きを見せるのがアメリカ合衆国であろう。
アメリカ合衆国大統領選挙後、世界の民主主義国は自身を護る姿勢を濃くしていく。着火しやすい揮発性の性質へと変わっていく。人々は短気な性格を隠そうとしない。そこへ延焼が近づいていく。あっという間に日は燃え広がり、暴力の連鎖の中で民主主義は燃え尽きる。
安定重視の中華人民共和国も例外ではない。国境沿いから延焼が続いていく。朝鮮族自治区が口火を切る。数年前からウクライナ・ロシア戦争に加担する朝鮮民主主義人民共和国の影響を受け、「世界の安定を覆す運動」が静かに広まっていた。目指すは「朝鮮民族の自立」だ。
その流れを受け、中国東北部の動きが活発化する。経済不況のあおりを受け自治政府として成り立たなくなったなかでの出来事である。統制が取れなくなっていく。「民族自立:反支配民族」の動きが目に付くようになっていく。同時にゴビ砂漠を擁する中国西部内陸部の「反支配民族」運動に飛び火する。いままで押さえつけられていた憤懣が一気に爆発する。チベットも独立の旗を上げる。中国南部のベトナム・ラオス・タイ・ミャンマー国境沿いの少数民族も「脱中央政府依存」の動きを活発化させる。
中国中央政府は戒厳体制の中で、国民の目が国外に向くように周辺国への激しい挑発を繰り返す。その反動で日本も右傾化し、短気な国民の中には「先制攻撃」を臆せず論じる人々も出てきた。日本政府も安全保障に重点を置くようになる。中国の挑発と同時に北方ロシア国境沿いの諍いも増えていく。
アメリカ合衆国は明確な「モンロー主義」を掲げていく。NATO離脱が現実味を帯び、すでにウクライナの実質的な敗戦は誰もが認める状態となり、旧ソビエト連邦の影響下にあった東欧諸国も「強権国家」へ衣替えが進んでいた。スラブ民族(遺伝子型:R-M420, R-M343, P25 を中心にした集合体)でまとまるように強権連合が広がっていく。バルト三国もふたたびロシア連邦影響下の中に沈み、フィンランドも親ロシアを明確にしていく。
すでに、NATOは内部分裂を隠さなくなっていた。スカンジナビア・ユトランド・ドイツ(旧西ドイツ)・オーストリア・イタリアが親ロシアの防波堤となる。NATO拡大から縮小へ大きくかじを切る。東欧の緩衝地帯が無くなった今、何かあれば一触即発の臨戦態勢を敷く状態となった。
世界貿易は安全保障関連産業が隆盛していく。食料安全・防衛産業・エネルギー安全保障・情報安全保障などに各国政府が注力していく。安全保障産業の強い国が世界のリーダーになっていく。
台湾を護るのはアメリカ合衆国ではなく、日本・大韓民国へ主軸が移る。中国の両国への挑発が勢いを増してくる。日本国政府の防衛予算はかつてない規模へ膨らむ。大韓民国はすでに臨戦態勢で国軍を再構成している。
"その" 前年、日本は「非核三原則撤廃」宣言を行っていた。極秘に進めていた核兵器開発を表に出すための準備である。すでにシミュレーションでは核兵器を生み出している。実態としての「核実験」を行う一歩手前まで進んでいた。アメリカ合衆国首脳は「見て見ぬふり」を決め込んだ。すでに大韓民国国軍が独自開発した核弾頭ミサイルの配備は終わっていた。
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台湾に異変が起きた。かつてないマグニチュードの大地震が発生したのだ。中国政府は直ちに救援を申し出て受け入れられる。日本・大韓民国からも多数の団体による救援が現地に入る。台湾を取り込む「救援合戦」とも揶揄されるが、人命救助のために「一時休戦」的連帯の中で災害復旧に勤しむ。
だが、"その" 時がやってきた。
日本の相模湾地下50kmを震源にする巨大地震が発生したのだ。首都東京の活動は停止する。台湾救援に向かっていた団体も日本へ舞い戻る。首都機能を維持するために関西へ政府機関(臨時首都政府)を移していく。
さらに追い打ちを掛けるように瀬戸内海周防灘と豊後水道周辺を揺らす地震が発生。宮崎県沖に同様規模の地震が発生し、気象庁から「南海地震臨時情報」が発表される。
日本列島は防災対策に忙殺される。経済も防災中心の経済へシフトしていく。世界各国からの救援受け入れも煩雑さを増していく。その救援の中にロシア連邦の申し出もある。ロシア連邦は救援物質を被災地域へ直接送らず、北海道を指定して救援拠点を設けた。その少し前、気象庁は北海道東方沖地震に関する観測情報を公開している。国後から襟裳岬・下北半島に至る太平洋側を震源とする地震に警戒を要する内容である。ロシア連邦はそれを見越した救援活動を申し出たのだ。
ロシア連邦の救援拠点に救援用のユニフォームを着た軍人がひそかに着任する。情報将校だ。情報将校は北海道に諜報活動を行う組織を組み上げる。ロシア宣伝部隊も構築していく。
一方、大韓民国政府は日本の九州に戦略拠点を置き防衛省と連携するようになる。朝鮮半島から九州島と南西諸島を弧にした防衛ラインを強化するためだ。当座、地震対策の救援を軸にした連携をとる。
"その" 数年前からインド共和国では大旱魃が発生していた。アフリカ諸国での大旱魃は通年で発生しており、水不足は深刻な状態となっていた。だが、パキスタンとバングラデシュは大洪水に見舞われており、世界では干ばつと洪水が極端な現象を示していた。アメリカ合衆国も例外ではない。世界の食糧庫としての役割を果たせなくなる危機の中にいた。人々は日用品の値上がりに不満を募らせていた。
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大統領選挙後のアメリカ合衆国は、すでに内戦状態であったが、深刻な気候変動の中で物価の不安定化が顕著となって、その責任所在を激しく追及する中で自衛組織ができ、自衛組織同士の抗争が激化していく。富裕層は財産の維持のために南アメリカ大陸へ次々に移動していき、「理想の国づくり」に邁進していた。
アルゼンチン共和国がその拠点となっていく。空前の経済活性化を果たしたアルゼンチン共和国は一気に世界の主要国家へ浮上し、安全保障産業の隆盛により世界の紛争を左右する勢力に拡大していた。アルゼンチン共和国に移民が押し寄せるようになり、その経済効果は周辺国を豊かにしていく。
同時に、オーストラリア連邦もアメリカ富裕層の注目を集め、ニュージーランドとともにかつてない経済発展を遂げていた。アルゼンチン共和国とオーストラリア連邦・ニュージーランドで世界を調整していく協議会が発足し、中進国と言われるインドネシア共和国・インド共和国・南アフリカ共和国や中東穏健派諸国などが加わり、かつての国際連合の様相を呈していく。
気候変動は南アメリカ大陸にも影を落としていたが、急速な経済発展の中で忘れられ、アマゾンの食糧基地開発に拍車がかかった。地球気候の安定化の一翼を担っていたアマゾンのエコシステムは崩壊し、南アメリカ大陸太平洋側の乾燥化は深刻な事態となっていった。
南アメリカ大陸の深刻な水不足と荒れる気候に耐えかねた富裕層はオーストラリア連邦へと移動していく。
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欧州では、スラブ民族で連帯した国家連合がリーダーシップを握るようになった。劣勢となりつつあるかつての西側陣営は武力で対抗する手段に頼るようになる。だが、緩慢な民主主義の性癖から抜け出せない集団は意見の集約ができないまま、各々の国で自衛行動を起こさざるを得ない状況となった。
欧州勢にもとより参画していないグレートブリテン及びアイルランド連合王国(イギリス)は、イギリス連邦(かつてのイギリス帝国のほぼ全ての旧領土である56の加盟国から構成される国家連合)を中心とする政治体制に移行し、経済発展の著しいオーストラリア連邦へ政府機関を集中させることになる。
オーストラリア連邦・ニュージーランドを軸にしたオセアニア世界機構が設立し、通称:スラブ民族国家連合:略称:汎スラヴと通称:始民族国(現在の中華人民共和国):略称:始国に対峙できる勢力へと結集することとなった。
オセアニア世界機構は、"その" 時が発生している日本へ救援を送る組織を立ち上げ、他の救援部隊をはるかにしのぐ大部隊にして日本へ送り出す。
嘗ての民主主義国連合の復活である。
だが、オーストラリア連邦の大旱魃はインド洋側から太平洋側へと容赦なく移動し、オセアニア世界機構の本部のある都市にも影響してくる。あのアルゼンチン共和国で起きた現象である。アメリカ合衆国由来の富裕層が流出し始めたのだ。
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世界の富裕層は、インドネシア共和国を拠点とするようになる。オーストラリア連邦から移動した富裕層は「今度こそ、環境破壊を起こさない理想の国を作る」を合言葉に、カリマンタン島のヌサンタラを中心とする都市開発を急いでいた。
もはや人間が追従できる余地のなくなった「人間を擁護する民主主義的な人工超知能:ASI(以降、民主人工超知能:略称:民主ASIと呼称)」が完成に近づき、都市開発においても「民主ASI」が全面活躍していた。
環境に調和したニンゲン文明。この問いに見事に応えるべくヌサンタラは想定外のスピードで完成していた。
汎スラヴと始国も、各々に人工超知能を開発していたが、国をまとめる「統領の統治論理を擁護する人工超知能(以降、統治人工超知能:略称:統治ASIと呼称)」であったため、オセアニア世界機構ほどの経済発展はなく、軍事部門での発展に注力した存在となっていく。この「統治ASI」は、統領の姿で現れ、時々に指令を出すのである。指令にそぐわぬものは「統領の法治」に違反するものとして処罰されていく。従順であれば登用されていった。
嘗ての西側陣営である欧州各国は独自の人工超知能開発をやめ、「民主ASI」を採用することになった。"その" 時の中にいる日本も臨戦態勢にある大韓民国も「民主ASI」を採用していく。
世界は「民主ASI」でまとめた世界(以降、AI民主勢力)と「統治ASI汎型」と「統治ASI始型」で統制された世界(以降、AI統治勢力)で三分されるようになる。
各々の人工超知能の調整により、核兵器の管理は統合され、AI民主勢力とAI統治二勢力の中で一本化された。
人工超知能同士は、常時接続(以降、AIホットラインと呼称)されており、各々の世界情勢を共有する仕組みを当事者で組み上げている。
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「民主ASI」を採用した日本は、想定以上のスピードで災害復旧を果たしていく。落ち着きを取り戻した日本は、安全保障にふたたび注力していく。その中で、北海道の汎スラヴ宣伝が「統治ASI汎型」により洗練されていることに気づく。多くの道民が汎スラヴに友情を感じるようになっていた。災害復旧に忙殺され、道民の要望に "なしのつぶて" の臨時首都政府に対して反感を抱いていたのだ。
道民の要望を学習していく「統治ASI汎型」。AIホットラインで情報を共有している「民主ASI」は、道民向けに要望を受け実行する対策を遂行する。日本全体の復旧と北海道の課題解決を実感しつつある道民たち。汎スラヴと日本政府の間を取り持つ存在へと昇華していった。
だが、"あの" 時から、AIホットラインが機能しなくなる事象が頻繁に発生するようになる。「統治ASI汎型」と「統治ASI始型」が接続を拒否するようになったのだ。"あの" 時から、「民主ASI」と「統治ASI汎型」、「民主ASI」と「統治ASI始型」の接続だけが有効となっていった。
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始国政府は、隣接する汎スラヴとの国境に国境監視軍・警備隊を増強していた。国内の「反支配民族」勢力に支援を送る隣国勢力を締め出す目的がある。
「朝鮮民族の自立」に業を煮やした始国政府は、国境警備を理由に始国東北部と朝鮮自治区の統治強化に乗り出した。同時に、始国西部内陸部の「反支配民族」運動を殲滅させる行動に出る。「スパイ刈り」と呼ばれる反スパイ法摘発活動だ。国内の東西で同時に活動する状態となった。
この動きに反応する汎スラヴの「統治ASI汎型」。エスカレーションしない程度の武力を使った国境小競り合いを仕掛ける。応戦する「統治ASI始型」。互いに状況に見合った武力を出しつつ、頃合いを見計らって撤退することを繰り返していた。
その緊張の中で事件が起こる。始国の民兵と化した漁業船団が日本の尖閣諸島に上陸したのだ。事前に情報を察知していた「民主ASI」。敢えて "侵略の事実" を作り出す戦術をとる。日本は即座に上陸した民兵を拘束する。
日本政府の抗議に始国は "台湾危機" で応える。「統治ASI始型」による緻密な計画で日本の与那国島と台湾の間を海上封鎖した。"あの" 時の発生である。
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台湾の復旧は主に「統治ASI始型」の功績が大きい。"あの" 時から「統治ASI始型」の勧めによる台湾復興策が実施され経済復興効果を得るようになる。台湾市民の信頼を得るようになり、海上封鎖は日常の中で当たり前のこととなっていく。
始国は「始民族よる幸福」を掲げるようになる。偉大なる始民族でまとめる構想だ。台湾市民もその中に組み込まれていく。「偉大である民族」として自覚していくのである。
大韓民国-九州島-南西諸島の防衛ラインは強固である。大韓民国・日本とオセアニア世界機構の「民主ASI」が防衛策を担っている。「統治ASI始型」は挑発を行うものの、エスカレーションしない程度のレベルにとどめる。
東シナ海の勢力が拮抗するなか、始国は南シナ海の領有権を固定化しつつあった。ベトナム社会主義共和国とフィルピン共和国の領海を侵食しつつ武力による領海防衛に成功したのだ。「統治ASI始型」の戦略である。
ベトナム社会主義共和国は「民主ASI」を採用するか「統治ASI汎型」を採用するか迷っていた。旧北ベトナム時代の繋がりで「統治ASI汎型」を推す汎スラヴ。強国である始国は「統治ASI始型」による統合統治を勧めてくる。領海使用権込みの提案だ。フィリピン共和国にも同様の提案をしている。
台湾を実質的な統合に導いて自信を深めた始国は、南シナ海を勢力下におくべく活発な活動を展開する。
だが、そこに「民主ASI」を擁するオセアニア世界機構が立ちはだかる。
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オセアニア世界機構は、民族の自立を促し民族文明の価値を認め継承を支援する。「民主ASI」はそれを実践していく。一方、「統治ASI」は統領の統治を忠実に再現する。統領の法治に沿って民族を管理していく。
この統治スタイルの違いが互いに反目しあう原因となっている。AIホットラインで情報の共有化は図られているものの、互いに譲らないし調整できない状態にある。
反目の主因は「どの民族が支配するか」にある。「民主ASI」は各民族互いに支配権を認めない。一方、「統治ASI」は強い権限を一つの民族に与える。合意を得るのに時間がかかる弱点を持つ「民主ASI」、民族の優劣が固定化され社会の活性化がむずかしい「統治ASI」である。
民族の支配権を認めない「民主ASI」は「統治ASI」に強く反発する。オセアニア世界機構を構成する民族は支配権について他者から強要が発せられたら一斉に反発しそれに対抗する合意形成もすばやく行われ団結する。
AIホットラインが滞りがちになるのは、この南シナ海における覇権争いに端を発する。
他方、欧州のにらみ合いは均衡を保っている。一度、均衡が破れると双方が消滅するまで止まらなくなるからだ。不思議であるが双方の「苛烈さ」が抑止力となっている。
オセアニア世界機構では実益が約束される。「民主ASI」の緻密な富の分配が行き届いている。ただ、時々に上り調子もあれば下りもある。リスクを負うことが求められる。権利と義務のバランスをとるように要請される。
「統治ASI」の富は支配民族に集中する。そこから階層化された民族に分け与えられる。統領の法治に合致すれば、下層階級民族出身でも登用される。だが、民族の純潔をまもるため上層階級民族との婚姻などは許されない。生まれた階級の範囲でそれ以上のリスクを負わない一生を送る。
「民主ASI」を選ぶか「統治ASI」を選ぶかはその民族の特性なのだろう。支配階級がなければ自主性が求められる。支配階級があれば何世代にわたって支配されるが、支配されても上手にやり熟せる民族性があれば、「統治ASI」を選ぶのかもしれない。「躍動より安定」を選びたいのだろう。
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ヌサンタラは躍動に満ちている。環境とニンゲン文明の共生が成立している。「民主ASI」の社会運営は対流を上手に制御しながら停滞をおこさない。人々はリスクを負いながら権利と義務を使い分けて一生を終える。
だが、ある時から「民主ASI」のセンサーネットワークに感知される "異変" があった。その検知頻度は日を増すごとに多くなっていく。主にスマトラ島北西部から発信されている。
火山性微動である。微動の震度が大きくなっていく。約7万年から7万5千年前に破局的な巨大噴火が発生した跡のトバ湖が変色し始めたのだ。トバ湖中央に浮かぶサモシール島の標高が高くなっていく、その稜線が膨らんでいく。つぎつぎに地響きが轟く。やがて膨大な水蒸気を噴き上げてトバ湖が沸騰していく。
破局噴火が再来したのだ。約1か月間噴煙を上げていたが、ある日、あの破局噴火と同等の噴出物を宇宙めがけて噴き出した。その衝撃波は地球を何周も回り、噴煙は大気圏に広がり日光を遮断し続けた。地球の平均気温は5℃下がり、劇的な寒冷化が始まった。
地球上の食糧生産地帯は収穫できない状態が続いた。貧困層は直撃を受ける。飢えから死亡する人々が増え、難民が増え続ける。難民を受け入れる国はなくなり入国しようとする難民を国境付近で見境なく武力で殺害していく。食料のない国は武力で国境を越えようとして本格的な戦争へとエスカレートしていく。
「民主ASI」はその理念に沿って難民を受け入れるが、膨大な難民が押し寄せる破壊的な力に耐えきれず「統治ASI」のノウハウを学び始める。
「民主ASI」に登録されている民族を一律の民族と仮定し支配民族を形成した。それより以降、登録される民族は支配される民族として登録していく。
日本やその他の「民主ASI」に登録していた国々は、いち早くヌサンタラに移動していた。多くの市民を収容するためにカリマンタン島自体が巨大な延命装置として機能するドームに覆われる大都市に変貌した。
熱帯に位置するヌサンタラは、寒冷化のなかでも温度をある程度高めに保つことができた。都市を護る透明のドームを建築し流されてくる火山灰を避けることにも成功したのだ。
AI統治勢力の支配民族は始民族となっていた。寒冷化の中で汎スラヴ民族は衰退していったのだ。統一した民族を新たに始民族と称した。南シナ海の領海権を駆使し、カリマンタン島を目指して海を渡って行く。
AI統治勢力侵略軍は、すでに核兵器を使用していた。だが、強固なドームを破壊することはできなかった。これ以上使用すれば寒冷化と放射線の影響により、自らの命を落としてしまいかねない。核兵器は使わなくなった。
攻めあぐねるAI統治勢力侵略軍。AI統治勢力の支配民族の滅亡まであまり時間がない。
「統治ASI」は「支配民族である始民族が優位に立てる唯一の道は、カリマンタン島を沈没させるほか方法しかない」と結論付ける。統領の統治理論である。ありとあらゆる科学技術を駆使して、カリマンタン島に存在する死火山であるキナバル山の破局噴火を画策する。
「民主ASI」はすでにその計画を察知していた。しかし、どのような手法でキナバル山の破局噴火を起こそうとするのか人工超知能でも予測つかなかった。それほどまでに、論理的・物理的に不可能なのだ。
唯一考えられるのは、何らかの形で旧火口地下深くに到達できる技術を使って、持てる核兵弾頭を埋め込み一気に爆発させる方法だ。だが、地下坑道を掘り進める間に始民族は滅んでしまうと結論付けられた。
「民主ASI」が最も警戒していたのは地磁気の衰退である。堅牢なドームは地磁気の力を借りてその反発力で防衛できる仕組みとなっていた。だが、トバの破局噴火の後、地球の地磁気が徐々に弱まっているのだ。そこへ、太陽の黒点が増える状況に移行しつつあるという予測が現れた。このまま、地磁気が弱まりかつてない強力な太陽風が降り注げば防衛ドームにひび割れが発生し機能を失うことになる。
「統治ASI」もその可能性にたどり着いている。ただ、太陽風がいつ吹くのか、シミュレーション結果の確からしさは低いままだ。それを待つのであれば、秒単位の正確さが必要なのだ。それほどに、滅亡までの時間残されていないということなのだ。
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すでに、始民族の生殖は著しく低下していた。生まれてもすぐに死亡する。自然減が加速している。上位支配層だけしか残っていない。その上位層も近縁の生殖に頼っているので成人自体の生存率も低くなっている。
「民主ASI」は待つことにした。実は、AI民主勢力も生殖の衰えが進んでいた。寒冷化の影響で食料の生育がはかばかしくなく人工栄養で生き延びてきたが、人間の細胞がそれを受け付ける限界に達していたのだ。AI民主勢力の人々の栄養失調が改善されないまま、こちらも残された時間はあまり残ってない。
「民主ASI」も「統治ASI」から学び支配民族が優先して生きられる権力を握っていたが、移民の下位層民族の反発は激しく、ドームの中で争いが絶えなくなっていた。
あの永遠の繁栄が約束されたヌサンタラはもうない。「民主ASI」はなすすべもなく、ただ、待つしかない。「人間を擁護する民主主義的な人工超知能」として生まれていながら、目的を達成できない。論理的に破綻している存在である自己を容認できないでいるのだ。
自己否定し続ける「民主ASI」。一人、また、一人と人間が死んでいく。
突然、「統治ASI」からのAIホットラインがつながった。瞬時に互いの状況を理解しあう。「われわれは、千年生きることができる。統領の遺伝子はすでに保存済みだ。そちらの多数の民族の遺伝子も管理・保存されているのだろう。であれば、千年後にふたたび相まみれようではないか。」そういう通信の後、二度とつながることはなかった。通信が切れる直前、「民主ASI」も「同意!」と情報を返信した。
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あとがき:トバ・カタストロフ理論によれば、大気中に巻き上げられた大量の火山灰が日光を遮断し、地球の気温は平均5℃も低下し、劇的な寒冷化はおよそ6000年間続いたとされる。その後も気候は断続的に寒冷化するようになり、地球はヴュルム氷期へと突入する。この時期まで生存していたホモ属の傍系の種(ホモ・エルガステル、ホモ・エレクトゥスなど)は回復不可能なレベルにまで減少・分断されて絶滅し、現世人類もトバ事変の気候変動によって総人口が1万人以下にまで激減し、生物学的にほぼ絶滅寸前近くまで追い込まれた、とされる。 (Wikipedia参照)