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妄想:夢見る〇ランプ親衛隊
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「いよいよ、俺たちの出番が来た!」雌伏の時が過ぎようとしている。長く苦しかった隠遁から解放されるのだ。
早速、共和党議員たちの「弱み調査」にはいる。そして「隠れ〇ランプ懐疑派」もブラックリストに登録していく。「〇ランプ嫌い」を即摘発できる体制にもっていく。
「〇ランプ大統領(総統と彼らは呼ぶ)絶対主義」である。日本語に値する言葉がないくらい徹底した服従部隊であるのだ。〇ランプ氏が大統領就任までの間、着々と組織化が進んでいく。
何人かの共和党議員がそれに気づいていた。だが「今の時代にナチスのSSが復活しようはずもない」と高をくくっていたのだ。だが、当人の足元に静かに絡みつく「〇ランプ親衛隊」の影があることに気づかない。
共和党だけではない。軍部や警察組織、CIAやFBIなどインテリジェンス組織の要員にも範囲を広げ「反〇ランプ派」を調べ上げ各々の弱みを握っていった。
民主党は誰であろうと「敵」である。どんな些細な動きも見落とさない。徹底した監視・観察を施す。〇ランプ氏の許可が下りればどんな手法を使ってでも「反〇ランプ派」の予定行動の全容を暴き出す。
イラン情報省:VEJAもイスラエル諜報特務庁:MOSSADも一目置いている。そこから〇ランプ信奉者として転移した者もいる。当然ながら二重スパイと同等の機能を持っている。否、三重以上の複雑さを難なくこなす要員である。
ほとんどは入隊して3カ月たたないうちに「粛清」される。生き残るしか道がない。だからあらん限りの忠誠を刻み込む。そして客観的で冷酷さも刻み込む。「人間のあたたかみ」は演技で完璧に表現できるようにする。
〇ランプ氏の大統領就任と同時に親衛隊が一斉に動き出す。「反〇ランプ派」の検挙である。会場にいる人々は何が起こったのかわからない。ただ、両脇を抱えられ引きずられるようにトレーラーの中に押し込まれていく。その周囲を外に体を向けた軍隊が囲む。メディアはその外側にいて中で何が起こっているかわからない。軍隊は据銃の姿勢をとる。
数日後に総統から国民へ語る機会があった。「国民の皆さん、わたしはあの日、三度目の暗殺のなかに置かれていたのです。今回はSPも予測することのできない精緻でプロフェッショナルな暗殺団でした。ですが、わたしの親衛隊が身を賭して救ってくれたのです。」、うっすら涙を浮かべた総統。が、突然、姿勢を直立に変え大きな声で宣う。
「これより、余は絶対指導者となる。歯向かうものは容赦しない。親衛隊諸君の尽力により『力による統治』を具現化する。」
「親〇ランプ派」にはこれ以上ないような人間の温かみを持つ親衛隊員たち。だが、ひとたび「親」が「偽」であれば反動で即座に「偽を殺害」した。殺害される人は何が起こっているのかわからない。痛みも忘れて「冗談でしょ?」とほほ笑んだような顔をする。それを親衛隊員たちは凍るような瞳で静かに覗き込むのだ。
総統は何人も替え玉を用意した。どこか憎めない1号、冷徹な2号、高齢とは思えない切れる3号、そのシチュエーションに応じた替え玉が国民やメディアの前に現れる。影にいる総統の一字一句を忠実に再現する。そして、契約が終わると「粛清」されるのだ。
もう、総統を間近に見ることはない。本物を見ることができるのは親衛隊のエリートだけである。そのエリートの報告を心地よく聞き入る総統。親衛隊が高官や政治家の弱みに付け込んで総統の思い通りに動かす統治は「完璧な治世」を生んでいた。
完全コピーかと思える替え玉16号。親衛隊エリートさえも見分けがつかない精巧さがある。それもそのはずである。総統の遺伝子を99%発現させて当代の総統と同じ年齢に仕上げたクローンなのだ。
3年の短期間で80歳まで成長させた。だが、そこに計算違いが入る。
ある時、総統府のバルコニーから国民に向かって演説をする「記念日」が訪れた。万が一に備えて替え玉16号が演説に向かう。
親衛隊エリートの一部は本人であると錯覚した。絶対忠誠の本能が蠢き始める。そこへ総統の演説が始まる。「余は十数年前を思い出すことがある。それは大統領就任の一週間ほど前のことだ。」、総統の登場以来大歓声に包まれていた会場は静かになる。
「小さな女の子が1本の花を余に渡した。『あなたのために』と渡してくれた。ちいさな花だったがとても美しい。突然、その子はわたしから引きはがされ、どこかへ連れ去られた。直後に銃声が鳴った。」、会場の人々は静かに聞いている。
「わたしは何が起こっているのか理解した。あの花をわたしてくれた子は『親〇ランプ派』の親から生まれてこなかったからだ。わたしは小さなきれいな花を握ったままあの子の跡を追いかけようとした。」
「だが、わたしもその場から追われるように立ち去らざるを得なかった。どうしてもあの子に会いたい。あの子の生きている姿を見たい。『あなたのために』といったあの声をもう一度聞きたい。」
その話に親衛隊エリートが震え始める。慟哭である。絶対忠誠であるがゆえに総統の感情と同期するのだ。この時ばかりは演技ではない人間に戻る。
演説を続けようとした替え玉16号を背後から引きずり降ろそうとする親衛隊員がいた。それをあの慟哭していた親衛隊エリートが防御に入る。親衛隊同士が敵味方となって殺し合いを始めたのだ。
会場の人々は動揺し散り散りに逃げ始める。親衛隊員も二通りに分かれ、人々を安全な場所へ誘導する者もいれば、容赦なく射殺する者もいる。
混乱は続く。人々が唖然としたのは替え玉1号から23号まで一斉に逃げ始めたからだ。メディアで知り尽くされている顔たちだ。その中の一人は親衛隊エリートにしつこく追われている。それこそが本物の総統である。
あの演説に人間性を取り戻した親衛隊エリートは、本物を探し出して罪を償わせようとした。反射的に殺害することを封じたのだ。
反〇ランプ派の反撃が始まった。親衛隊エリートも制服を脱ぎ始めた。反〇ランプ派の旗を振りながら、総統府の中へなだれ込んでいく。親〇ランプ派親衛隊員を片っ端から捕縛していく。罪を償わさせるために。
替え玉16号は、無事、逃げおおせた。ポケットの中から平たくなった茶色く細長いものを取り出した。あの時の花である。触ればちぎれてしまう。あの子の声が途切れる。そっと、見つめる。「ようやく会えた。『きみのために』僕はここにいる」、そう、遺伝子がささやいた。
*****(イラストは、DALL-Eが作成)