超妄想:新大統領候補の飛び入り
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好敵手の相手候補の支持者の会合に、突如現れた若い新大統領候補。大ブーイングの中でにこやかにではあるが静かに凛として発言する。「わたしは、あなた方を敵とは思っていない。今日は時間の許す限り、あなた方の話を聞きます。」
ブーイングが渦巻く会場の中から、幾人かが挙手する。急遽ファシリテーターをかって出た主催者側の有名人がマイクを取って、挙手の方向を指さす。
指名された人は、存外冷静に礼儀正しく話し出す。「わたしは、〇〇在住の□□です。職業は▽▽です。二児の母です。」
次次につむいだ様々な課題意識に、新大統領候補は真剣なまなざしでひとつひとつ確認するように頷きながら聞いている。そうやって10人くらいの相手候補支持者の話を聞いた後、ファシリテーターが新大統領候補にマイクを向ける。
「今日は皆様のお時間に割り行って恐縮です。そして、幾人かの人のお話を聞く機会をいただき感謝しています。そして、ファシリテーターの〇〇さんの公平な扱いに感激しているところです。手短に感想をお話しします。」
「この国は分断されています。このままでは内戦になってしまう。今お話のあった『汚い手を使う国』の思うつぼでしょう。また、分断された社会では治安が悪化し、家族を守る手段として銃を使わなければならない。自警団も必要でしょう。そして、昨日まで親しく会話していた隣人ともにらみ合う状況になっていくことでしょう。これが、分断ということです。」
「わたしは、分断だけは避けたい。だから、今日のように私を支持しない人々の話を聞きます。これからもお話を聞きます。みなさまの思うような国のリーダーではないけれども、お話を聞きます。」
「そして、何かを決断しなければならないとき、わたしは皆さんの表情を思い浮かべます。お一人お一人の表情を思い浮かべます。国として最大の危機に直面したときこそ、皆さんの表情を思い浮かべます。そして、断固として決めたことを実施します。」
会場は思いのほか静かに聞き入っている。「具体的な話は何も聞けないが、誰かを批判し落とし込める話ではない。こちらの話を聞いて "決意表明" を静かに語っている。分断だけは許さない。そう聞こえる。」
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大統領選挙の結果は、この新大統領候補の好敵手の勝利となった。分断が加速して深まっていく。
あの会合にいた人のつぶやき:「若い新大統領候補の静かで凛としたよく通る声を思い出す。そして、なぜ、大統領になれなかったのか。自身は支持しなかったが、不思議なほど疑問が湧いてくる。」
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アメリカ合衆国の大統領。高齢候補の一騎打ちがささやかれます。怨恨も見え隠れします。支持者もそれに巻き込まれているように見えます。俯瞰してアメリカ合衆国を見れば「敵対感情の坩堝」となっているようです。
アメリカ合衆国を取り巻く国々は熱い坩堝を触ることができない。そのもどかしさが募るばかりです。