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接戦となった韓国大統領選挙、カギを握るのは20代女性?

※イメージは、2月3日に行われたテレビ討論会での李在明(左)と尹錫悦(右)(MBCNEWS・Youtubeチャンネルより)

○史上最も好感度の低い候補者たち

 いま韓国で最も話題となっているのは、当然のことながら3月9日に行われる大統領選挙だ。新聞やテレビは各世論調査の結果を引用しながら、連日大統領選の行方について報じている。もちろん世論調査ごとに調査方法や実施期間が異なるため、結果には当然ばらつきが出る。しかし多くに共通しているのは、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補と野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソギョル)候補が大接戦を演じているという点だ。

 4つの世論調査機関が合同で実施する全国指標調査(NBS)によると、主要大統領候補の支持率の推移は以下のとおりである。

各大統領候補の支持率の推移(全国指標調査【NBS】をもとに作成)

 グラフからも分かる通り、選挙戦は李在明と尹錫悦による一騎打ちの様相を呈している。ところがこの接戦の要因は、二人がそれぞれ甲乙つけがたいほどの人気を維持しているからというわけではなく、むしろその逆だ。韓国ギャラップ調査研究所の世論調査「デイリー・オピニオン」480号(1月3週)では、大統領候補の中に特定の支持者がいる人に対し、その候補者を選択した理由はについて尋ねている。それによると、「その候補が好きだから」と答えた人が48%なのに対し、「他の候補が嫌いだから」と答えた人は46%と拮抗している。ほぼ半数の人が「他の候補が嫌いだから」という理由から特定の候補を支持していることがわかる。「他の候補が嫌いだから」と答えた割合は低年齢層ほど高く、18歳~29歳では59%、30代では61%に上る。今回の大統領選挙が「史上最も非好感度の高い大統領選挙」と呼ばれるゆえんである。

○好感度の低い二人の有力候補

 与党「共に民主党」の候補である李在明は、貧しい家庭に生まれ日本でいうところの高卒認定試験を経て大学に入学した苦労人である。大学卒業後は人権弁護士として活動し、城南(ソンナム)市長、京畿道(キョンギド)知事を歴任するなど、政治家として申し分ない経歴を持つ。一方でダーティなイメージが付きまとうことも確かだ。組織暴力団とのつながりがささやかれたり、利権がらみのスキャンダルを噂されることも。現在もっとも注目されているのは、かつて市長を務めた城南市の大規模開発事業を巡る疑惑だ(地名から、テジャンドン疑惑と呼ばれる)。この半官半民で行われた開発事業で、民間の投資家が巨額の利益を得たことが発覚。民間投資家への配当が常識外の高額になった経緯に李在明が関わっていたのではないかと疑いの目が向けられているのだ。また義姉に対する暴言が録音されたファイルが公開されるなど、女性に対するイメージもかんばしくない。

 一方、野党「国民の力」の候補・尹錫悦は、検事総長として曺国(チョ・グック)元法務長官の不正を追及した。曺国を巡る一連の騒動は、クリーンなイメージを売りとしてきた文在寅大統領にとって大きなダメージとなった。その後「国民の力」の大統領候補となった尹錫悦は「公正と常識」を掲げ、文在寅政権は腐敗していると厳しく批判してきた。ところが、そんな尹錫悦も妻であるキム・ゴニが数々の経歴詐称を行ってきたことが発覚し、彼の掲げる「公正と常識」が疑われる事態となった。また検事総長在職中に彼の側近が野党政治家に対して与党政治家を告発するよう唆したという疑惑もある。先述のテジャンドン疑惑においてもその捜査の過程で尹錫悦の名前が出るなど、李在明同様スキャンダルが後を絶たない。政治経験のなさからか失言・暴言が多い事も尹錫悦にとってネックとなっている。

 このように2人の有力候補はそれぞれネガティブなイメージを抱えながら選挙戦を戦っており、それぞれの陣営も自分たちの政策を売り込むことより、相手側にネガティブ攻勢をかけることに必死だ。

○鍵を握るのは20代女性?

 終盤戦になっても接戦が続く今回の韓国大統領選挙。この接戦の要因についてはいろいろな分析が可能だと思うが、本稿では二つの点を指摘しておきたい。

 一つは、政権交代を望む声が高いという点だ。NBSは大統領選挙について「安定的な国政運営のために与党候補に投票しなければならない」(国政安定論)と考えるのか、それとも「国政運営に対する審判のために野党候補に投票しなければならない」(政権審判論)と考えるのか、について調査を行っている。これによると、常に政権審判論が国政安定論を上回っていることがわかる。また尹錫悦を支持する理由として「政権交代」を掲げる人は常に70%を超える。このように、尹錫悦は「政権交代」を求める声に支えられていることがわかる。

「国政安定」か、「政権審判」か(全国指標調査【NBS】を基に作成)

 一方で、各政策についてどの候補がもっとも期待できそうかについて問うた調査を以下のようにまとめてみた。

政策別期待度(全国表調査【NBS】を基に作成)


政策別期待度(全国表調査【NBS】を基に作成)

 これを見ると、3つの政策分野全てにおいて李在明が最も高い数値を記録している。李在明支持者の40%以上が支持する理由について「個人の資質と能力が優れているため」と答えていることからも、彼の手腕が期待されていることがわかる。それにも関わらず大統領選挙が接戦となっているのには、とにかく「政権審判」「政権交代」を求める意見が強いためとみることができる。

 接戦となっているもう一つの要因は、李在明が20代女性から支持を受けられていないことだ。韓国日報の1月26日付記事「李在明がいくら努力しても20代女性は『びくともしない』、いったいなぜ?」がその理由について分析している。

https://www.hankookilbo.com/News/Read/A2022012517400004096

 この記事によると、元々20代女性は文在寅大統領に対する支持率が高い層だ。しかし、リアルメーターとオーマイニュースが実施した世論調査によると、文大統領と同じ「共に民主党」の李在明に対する20代女性の支持率は12月4週から1月3週にかけて、31.9%→28.4%→29.2%→29.6%→28.2%と低調で、文大統領の支持率と比べると10%~15%ほどの開きがある。ちなみに、前回の記事で触れたように「反フェミニズム」を前面に出す尹錫悦に対する20代女性の支持率(29.2%→31.3%→27.1%→28.2%→28.6%)であり、李在明とほぼ変わらないことがわかる。

 李在明はなぜこれほどまでに20代女性からの支持を受けられずにいるのか。先にも触れたように、李在明が義姉にたいして暴言を浴びせた録音ファイルはことあるごとにニュースでとりあげられる。女性を汚い言葉で罵るような男に投票したくないという意識が、20代女性の間に広まっているとみることができる。また、ソウル市長だった朴元淳(パク・ウォンスン)がセクハラ問題が原因で自ら命を絶ったように、女性層の「共に民主党」に対するイメージも低下している。こうした劣勢を覆そうと李在明も共に民主党も躍起になっているが、支持率回復のきっかけをつかめないままでいる(こうした背景があるからこそ、尹錫悦は反フェミニズムを公然と掲げることができるのかもしれない)。

 かつてないほど結果予測が難しいと言われる今回の大統領選挙。両陣営は選挙当日まで世論調査の結果を注視し続けるだろうが、それは有権者も同じだ。今回用いたグラフを見ればわかるように、いまだに支持する候補を決めかねている有権者が多いのも今回の特徴と言えるだろう。好感度が低い2人の勝負は、候補者選びに特に苦慮しているとみられる20代女性にかかっていると言えるのかもしれない。


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