ルシファーをめざして
『ルシファー(Lucifer)』って、パッと聞き「悪魔の名前」と想像する人がほとんどだと思う。実際にとある西洋宗教では堕天使の長に位置づけられて、その界隈の信者たちからとんでもない存在として恐れられているらしい。
今回のタイトルにこの単語を使った理由は至って単純で、「"明星"って言葉をカッコよく文章に入れたい!」というゲスな欲望から、Google先生にお願いして「明星 フランス語」と検索をかけた。実際は(スペルミスしたくないからカタカナで書くけど)「エトワール ドゥ マタン」、つまり「明けの明星」という形で翻訳されたのだが、これじゃカッコ良過ぎるし、それ以前にタイトル名負けして後の文章がちゃち過ぎて読めなくなっては困る…。そう思って2番目の翻訳候補を調べたら、この単語がヒットしたのだ。
ラテン語で「Lux(光)」「ferre(運ぶ)」が合わさって「光をもたらす者」として"Lucifer"という名前は誕生したらしい。それが意訳されて「明けの明星」を示す言葉に発展していったらしい。
後日、別の記事でしっかりとした旅の記録をいつもの切抜シリーズとして投稿しようと思っていますが、今回は一番に、その旅で触れ合って感じたものたちをお話していきたいと思います。
今年のGW初日、弟のぺーちゃんと一緒に日帰り弾丸旅行で新潟まで足を運びました。急な誘いにも応えてくれた弟には未だに頭が上がらないです。しかし、どうして新潟に…?と思う方もいらっしゃるかもしれません。私たちにはそこに向かう目的がちゃんとありました。
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とある場所でネットラジオをやっていた中で、「カフェ明星」という名前をいつぞやか耳にすることが多くなりました。私はその存在自体は当時なんとなく知っていたのですが、詳しい実態についてはそのラジオのリスナーでいる弟の方が把握していました。実際にカフェ明星の店長の「あかるい」さんがご自身でカフェ明星についてのZINEを制作しており、その内容についてZINEを購入していた弟が嬉々として話してくれたこともありました。弟がこんなに語るということは、余程刺激を受ける存在なんだろうなぁと、その時はぼんやり思ってました。
また、私がこのカフェ明星さんと近くなったきっかけは、そのラジオに登場するバイトの「タカオカ」さんとたまたま一緒にゲームをすることになったことからでした。本人には失礼かもしれないんですが、正直その時は一緒にゲームをやる仲になるとは全く思ってませんでした。なんならこうなったことはむしろ光栄なことだな〜と思ってました。彼は今では私の大切な友人の1人です。共通の趣味としてネットラジオで繋がっていたので、仲良くなってからこれはいっちょ聴いてやるかと最新回と最初の回とを端から攻めていくようにして聴いていきました。
いつかは「カフェ明星」を作りたいという夢を持つあかるいさんと、それを元気いっぱいに全方向から応援するタカオカさんの、温かくてやさしい二人三脚のようなラジオがそこにはありました。
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その「カフェ明星」さんは現在、新潟駅から徒歩10〜15分ほどの所に位置する、沼垂(ぬったり)のゲストハウスの中にあります。そうそう、ラジオ内では「ラジオの形をした架空のカフェ『ラジオカフェ明星』」と言ってますが、実在してます。(これ、「めい見たもん、トトロいたもん!」のあのテンションです)
それで私たちは、ツイッターで事前に呟かれていた営業日のカレンダーを確認して、予定を合わせて5月1日に新潟へ行こうと決めました。
東京から2時間くらいの移動の中で、カフェ明星さんの良さについて話し合ったり、弟からZINEを借りて移動時間の間にさらっと目を通してみたり、これからお手製のスパイスカレーやコーヒー、店主のあかるいさんに会えることに、「やっぱり緊張するね」と2人でソワソワしたりしてました。そのソワソワは新潟駅に着いてから現地に着くまでの間も幾分か割増で続いてました。お店の近くに着いてから電柱の影からあのあたたかい古民家のお店を覗いてみたり、カフェ明星さんの立て看板を心ゆくまでスマホでパシャパシャ撮ったり、店に入ろうとするも一旦引いて、また進んでの繰り返しをしてました。傍から見たら完全に不審者のそれだったと思います。でも、たじたじしていては何も始まらないと意を決して、弟の背中を押しながらカフェ明星さんへ入店しました。
「いらっしゃいませ」の一言がまさしくラジオで聴いていたあの声で、まずそれにドキドキしてしまいました。中学生くらいの時に、憧れの先輩が廊下を通った時のあの感じくらいドキドキしてました。私たちはその気持ちを隠したまま素知らぬ顔をしてカウンターへ向かい、季節のカレーとコーヒー、ケーキも付いてるセットメニューを注文。でもやっぱり隠せない緊張感が足に伝わってしまって、そのまま足早に畳の席まで移動して腰を下ろしました。弟と顔を見合せる度に「カレー楽しみやね」とニコニコしたりして。
座ってから二人でソワソワしているのも束の間、あっという間にカレーが運ばれてきました。スリッパを脱いでカレーを持ってくるあかるいさんを見上げた瞬間、
「あの、ロベルタさんですよね?」
第一声に本気でビビり散らかしました。
「声と目元で分かりました!」
と、にこやかに話すあかるいさん、恐るべし…。目元はまだしも、こっちから名乗る前に声で判断されたのは初めての出来事で終始驚いてました。どうやら私が投稿している声日記を聴いていて、それで分かったとのことでした。(ありがたや…。)また、隣にいる弟を紹介すると、「わあ!あの!」と驚いてくださったり。本当はお忍びで来たつもりだったけど、見つかってしまったからには喋らない訳には行かないと思い、それからカレーを食べてから3,4時間くらいカフェ明星さんに入り浸りました。
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(4.29〜5.1の間限定の「きのこのバターチキンカレー」を頂きました)
ずっと食べたいと夢見ていたカレーを目の前にまずカメラを構えて、次に心の中で国歌を口ずさむようにスプーンを握りながらカレーを黙って見つめて、一呼吸置いたところで一口。目が合った弟と無言で頷きあったくらいの納得の美味しさでした。私はスパイスを混ぜ合わせて作るカレーというものを作ったことがないので、実際にどのスパイスとスパイスがどうなってこんな美味しいのが出来たのかは分からないけど、カレーとご飯、漬物を一口ずつ食べるごとにやさしく口の中で美味しさが広がっていくこのカレーはスゴいということだけは確かに分かりました。しっかりとその味を噛みしめながらスプーンを進めて居たものの、しばらくしてから「食べてしまったらこのカレーは無くなってしまうんだ」と、ごく当たり前のそれがとてつもなく嫌に思えて、弟も同じ気持ちだったことが分かったあと残り1,2口ぐらいの量になったところで、突然お通夜モードになってしまいました。食後のコーヒーとケーキが既に同じテーブルに並ぶ中、私たちのテーブルにやってきたあかるいさんがそっと、
「食べ物はそういうものなので食べてください」
とド正論を入れてくださいました。有無を言わずすぐ食べ切りました。
食後、「夜明け前」という名前の深煎りのコーヒーを頂きながら、あかるいさんと弟と3人でじっくりお話をしました。カフェ明星のこと、これからのこと、そして創作について。
私は彼女との会話で、一つの作品への向き合い方について色々と考えさせられました。私は役者、あかるいさんは美術、弟もイラスト関係と、各々が表現者として抱えているものがある中で、彼女の話すことに何度も同意の意味でヘドバンをする勢いで頷きまくりました。特にこのカフェ明星がスタートするきっかけの一因にもなった、あかるいさんの失恋話(ZINEにも書いてありましたね)。何かを失うといった負のエネルギーって物凄くパワーがあるんですよね、という話にはマッハで首を縦に振りながら聞いてました。本当にその通りなんですよ。実際に私も失恋がきっかけでネットラジオに踏み込みましたし!
ただ一方で、作品への向き合い方に於いて彼女と決定的に違ったのが、その作品への想いの強さや密度でした。正直なことを言うと、私はこれまで自分が描いてきたものや発信してきたものたちにはそこまで深さや密度をあまり気にしないでいました。(簡単に言うと私は「超適当にしてきた」ということです。)もちろん、彼女の場合はカフェの経営という現実的なことも絡んでいるため、あまり疎かにできない面もあったと思う。けれど、それ以上に「カフェ明星」という一つの作品を築き上げるまでの思考の詰め方が段違いレベルで完璧でした。創作をしている人こそ必ずぶつかる壁にぶつかっても、立ち止まったところで変に背伸びをしたりするんじゃなくて、置かれた状況をポジティブに置き換えて、人や周りの環境から次々にヒントを見つけてはみるみる前進していく彼女のバイタリティにも脱帽モノでした。
彼女とほぼ年齢は変わらないのですが、同じような創作活動をしている同年代の人がここまで見えない努力をして作品に真剣に取り組んでいるんだという現実を見て、私は思想でぶん殴られたって言っても過言ではないくらい、かなりの衝撃を受けました。
(SPOONラジオより)
・MOBラジオ放送局 [以下リンクです]
カフェ明星#73 カフェを続けること
(この回は割と現実的なことも話している一方で、あかるいさんのカフェを経営していく中でのたいせつな価値観的な話もしてるので結構大事な回だと思います)
カフェ明星のコンセプトである、「あなたがたいせつ」。これから実店舗を持つまでにどのくらいの道のりがあるかは計り知れないですが、現時点でも彼女の表現したいことが伝わる空間をこの日は堪能してきました。上記のリンク先のラジオでもタカオカさんやあかるいさんが話しているように、このカフェ明星さんがこれからどんな風になっていくのか、今でも楽しみでワクワクが止まりません!
今回は旅の時間も限られていたこともあったり、あかるいさんがお店をやっていたということもあり、積もる話はまた今度ということで、日が暮れる前にこの会話に栞を挟むことにしました。
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店を出て、戸のガラスの向こうからあかるいさんが手を振るのが見えて、私と弟でそれに全力で手を振り返した。後ろ髪を引かれる思いを背中に、鳥の子色の空からぽつりぽつりと雨粒が落ちる沼垂を歩いて回りました。よく目や耳にしていた「沼垂テラス商店街」、あかるいさんがオススメしてくださった「BOOKS f3」を訪れて、カフェ明星が生まれるキッカケになったかけらを見つける度に心の中で小躍りしながら喜んでました。もしかしてカフェ明星を一等星と考えた時に、この沼垂やあかるいさんのゆかりの地等をなぞったら、ひとつの星座みたくなるんじゃないか…?名付けるなら「あかるい座」かな。という妄想なんかもして、緩やかな景色が広がる沼垂をのんびり冒険しました。
最後に、あかるいさんのカフェ明星ZINEに書かれていた「カフェとは「プチ国家」で「風」だ」というページがとても印象に残っていて、実際にカフェ明星さんの扉をくぐる時に目に見えない国境線を跨いだような感覚がありました。そのくらい、彼女の描いているカフェ明星は既に確立されたものなんだと肌で感じました。これを読んでくださってる方にも、この凄さを直接感じて欲しいと思いました!
わーまたこの国に帰りたい!帰るぞ!
P.S
BOOKS f3さんでなんと、ラスト1冊だけ残っていたカフェ明星ZINEを手に入れてしまいました。実はこのZINE、もう次に発行されることがないのでここで出会えたのが本当に奇跡でひたすら感動しました。あとであかるいさんに報告したら、「ロベルタさんのところに行くための一冊だったんですね!」と頂いて、多分今年の運をここで使ってしまったなと思いました。
有難いことにコーヒーチケットも同封されているものだったので、またカフェ明星さんに帰る理由が出来ました。やったね!