MOT「サエボーグ」「津田道子」TCAA受賞記念展を見てきた
東京都現代美術館で開催中のもう1つの展示も見た。
サエボーグ「I WAS MADE FOR LOVING YOU」
小屋の向こうには鏡があった。
私と目が合った。
この英語を調べて知ったが、『ピーナッツ』に登場するルーシーが開いている精神科ブースのオマージュのようだった。
奥に進むと薄暗い中に、スケールの狂った輪郭の曖昧なわりに配色がはっきりしたなにかがある。風邪を引いたときに見る夢の中にいるみたいだった。
茶色のなにかには大きいハエのようなものがたかっていた。
赤い屋根の小屋の向こうは明るくて、なにか音も鳴っていた気がする。
小屋を抜けると、犬がいた。
ラテックスの空気で膨らませたような質感の、動く犬。
後ろに写っているのは、案内のお姉さんと交代の犬。
私が行ったときは、ちょうどお子様がこわごわ触れ合っているタイミングで、ベロを触ったり、手や顔をなでたりしていた。
犬の顔がずっと悲壮感漂っていて、光る台の上でちょこちょこ動いていて、なんとも言えない空間だった。
犬の体には空気用入れ用と思しきバルブが複数個所にあって、それもまた”作られたもの”感が増していて、なんだか痛々しかった。
ずっと夢に紛れ込んでいるような心地だった。
他にも人はいたし、監視員もいたけど、それも含めて非現実的な空間だった。
あの犬にちっとも触れなかったのを、すこし後悔してる。
津田道子「Life is Delaying 人生はちょっと遅れてくる」
振り子時計が揺れるみたいに画面に映る様がどんどん変わって、鏡があるからモザイクみたいに複数のシーンが同時に現れる。似たような服装をした様々な年齢の女性3名が、親子三代のような成長の過程のようにも思える。揺れながらモザイクのように、女性たちが映っては消える。
作品の映像を見てからタイトルを確認して、すごく納得した。
揺れる画面に酔いそうになりながら、入るときと出るときの2回見た。
映像でこんなことができるのかと思った。
普段の展示でも映像作品はあるけど、ドキュメンタリーのように内容に意味があるものだったり、記録映像としてでないと展示できないものだったり、長すぎたり、ちょっとだけ見てあまり鑑賞しないことがほとんどだった。
でもこの作品は、映像だからこそできることをやっているように感じた。現実でやっても種明かしみたいになって映像で見るほどの驚きはないように思う。
廊下部分にあったこの作品もよかった。
まんまと振り返った。
廊下の奥にカメラが設置されていて、数十秒ほど遅れてディスプレイに流れている。それに気づいて振り返ると、ディスプレイ裏には鏡があって自分がいる。
帰りには、今度はカメラに背を向けて鏡に向かって歩く。
ディスプレイを回って振り返ると、そこには少し前の私が歩いている。
もう2つの作品が展示されていて、それらもただの映像ではなくて不思議な体験ができる作品だった。
映像という形態でいろいろやってて、おもしろかった。
おわりに
どちらの展示でも、私は私と目が合うという体験をしたのだと気づいた。
やっぱり現代アートでは、普段得られない体験ができて楽しい。
正直なことを言うと、この展示はフライヤー見た時点では関心を持たなかった。知り合いが見に行っていたことでちょっと興味は持って、他の展示を見るために美術館に来たことで、ついでに見ることになった。
思いがけずおもしろい展示を体験できてよかった。
※TCAA サイトには会場風景や紹介動画もある。