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〜だけ
私は大食い動画が好きだ。単に量を食べたり、時間内に食べ切ったりというアスリート寄りのものよりも「たくさん美味しく食べる」というテイストの投稿を好んでいる。
最近視聴したのは大食い界では有名なアイドルの動画で、白米の上にホタテの貝柱とイクラ、そしてビッグなサーモンがサクのまま3枚程重なっており、こうなっては申し訳程度に見えてしまう卵黄が2つか3つ程落とされた特大の海鮮丼を食べるといったものだった。
画面の彼女は始終にこやかで、規定外れの海鮮丼を飲む様に食べていく。サクのサーモンはスライスされることなく端から彼女の口に吸い込まれていった。
動画のコメント欄にはサーモンを大きなサクの状態のまま食べることへの憧れが多くあった。が、私は思うのだ。刺身は包丁を入れた方が美味しいと。
なぜそう思うのか。私もまた過去にサク食いをした者であるからだ。マグロ・タイ・サーモン、メジャーどころは全てサクった。サクッて感じたのは「??」
そう、言い様のないコレジャナイ感。格段に味が違うということはないが、普段刺身を食べて感じる美味しさがサクることでぼやけてしまう、そんな気がした。
その後に漁業に携わる方に話をしてみると「サクで食ったって上手くねーよ」と一蹴されてしまう。何でも魚の種類によって切り方にもコツがあるらしい。「赤身は大胆に分厚く食った方が美味いぞ〜」「逆に白身は分厚く切り過ぎたらあんま美味くねえぞ〜」とのこと。
刺身というのは物凄くシンプルな料理だ。良い素材であればそれを切っただけで美味い。そう思われることも多いだろう。しかし、その「切っただけ」に職人の技術がある。本当に切る「だけ」であるのなら◯◯切りや◯◯包丁など名前のつく技が生まれるはずないんだな。
切るだけ、焼くだけ、煮るだけ。料理だけではなく「〜だけ」というシンプルな言葉の裏側にはそこに辿り着くまでの過程が隠されていることも多そうだ。お湯を注ぐだけのカップラーメンがそこに行き着くまで、開発者が苦労をしたことを朝ドラが教えてくれた様に。
と、こんなことを言いつつも料理に関しては「食べるだけ」になりたい、私である。
りあくえ水曜担当
ミラクルファンタジスタKeroco