PILのディス・イズ・ノット・ア・ラブソング:コマーシャルの向こう側
音楽人生が100倍豊かになる80年代の100曲 <その3>
Public Image Ltd "This Is Not a Love Song"(1983)
ジョン・ライドン(John Lydon)があのパンクのオリジネーターであるセックス・ピストルズ(Sex Pistols)を抜けてつくったバンドがパブリック・イメージ・リミテッド(Public Image Ltd)。通称PIL(ピル)。
ピストルズがやんちゃなパンクだったので、その続編をみんなが期待してたら、ノイズと不協和音の洪水でせせら笑うという性格の悪さ全開の音を聴かせてくれたのがPILというかジョン・ライドンでした。
特に初期の3作品「Public Image(パブリック・イメージ)」「Metal Box(メタル・ボックス)」「The Flowers of Romance(フラワーズ・オブ・ロマンス)」はどれも秀逸。
インパクトが音楽になるとこうなるのか、という感じ。
万人受けはしませんが、アンダーグランウンドな表現に少しでも興味のある人はぜひ聴いてもらいたい世界が待ってます。
で、そんなノイズと不協和音のPILの音にコマーシャルな風味というかダンスのリズムを加えるという試みにチャレンジしたのが「ディス・イズ・ノット・ア・ラブソング(This Is Not a Love Song)」です。
タイトルが示す通り、ラブソングじゃありません。
甘くないし、むしろヒリヒリするかも。
これがめちゃくちゃかっこいい。実際にヒットしたし、PILはさらに一段上の表現世界へ到達したと思って聴いた当初は大興奮したものでした。
ところが、この名曲を出したとたんキース・レヴィン(Keith Levene)とにケンカして彼が抜けてしまい、PILが機能不全に。なにしろキース・レヴィンのギターがPILの緊張感を支えていたようなもんでしたから。
一応「ジス・イズ・ホワット・ユー・ウォント(This Is What You Want... This Is What You Get)」というアルバムにはしたけど、ホーンなんか加えて凡庸な感じになって「なんだかなぁ」という感じに。その後もそれなりのクオリティのアルバムを発表していくのですが、個人的には興味が失せてしまいました。
ちなみに作りかけをアルバムをキース・レヴィンが完成させたのが「コマーシャル・ゾーン(Commercial Zone)」で、私はこっちのほうが100倍好き。
クリエイティブって本来は他人のことなんか気にしないものすごいエゴイスティックなものだと思うんですが、そのエゴにも振れ幅があって、ポップな方向に振れたちょうどいいポイントにこの曲はいるんだと思います。
「デス・ディスコ(Death Disco)」みたいな「どこがディスコやねん」という曲と違って、ちゃんとノレます。