将来性のない相手への恋心を押し殺し、夢を優先しようとしている私は間違っていますか。
頭が混乱している。
自分でも何が正解か、どうすることが最善なのか、わからない。でもひとつだけ揺るがないのは、「将来、結婚や出産を経験し、育児と仕事を両立させて幸せな家庭を築きたい」という気持ちだ。
私は、そんな憧れの気持ちを、ずっと抱えて生きてきた。母子家庭で育ったことや幸せな恋愛経験が乏しいことなどが影響して、仲の良い夫婦像に並並ならぬ憧れがある。今ここで、それを諦めるという決断を下すことができない。結婚に夢見ているだけと言われそうだけれど、私にとっては大切な夢だった。
18歳年上の彼には、離婚した元奥さんとの間に小さい子供が2人いて、週末になると子供たちとの時間を優先させなければならない。私とよりも私の両親とのほうが歳が近く、家族にちらっと彼の話を持ち出したときには「やめておけ」で一蹴された。
一言で言うならば「条件が悪い」。そんなことわかっている。でも、当の私自身でさえ、どうしてこんなに好きになってしまったのか、理由がわからなかった。
ただただ、一緒にいて楽しい。ひとりでいるときに思い出すのはいつも彼の笑顔。身体の相性が合う。思いつく理由は、このくらいしかない。こんな理由なんて、恋に恋している学生時代ならまだしも、将来家庭を築くのにふさわしい相手を探している20代後半の私にとっては、重要性も優先順位も低いことのように思えた。
ここで彼とお付き合いして、結局結婚できないとなって別れたら、また振り出しに戻るのだ。その時、私は今よりさらに婚期を逃し、恋愛市場で取り残される存在になるだろう。私にとってはそれが何よりも怖い。まわりは結婚ラッシュで出産を経験している友達も大勢いる。その最中に、私は。理性ではそう思っている。
ずっと、頭の片隅にあった。彼と身体の関係を持って良いのか。彼はどういうつもりで私と仲良くしているんだろう。彼とこのまま会い続けて、真剣な付き合いに発展して、一体どうなるというのか。きっと子供をもうけることはできないだろう。最初は良くても、私はそれに生涯耐えられるのだろうか。仮に、彼と夫婦になったとして、きっと私より先に彼は死ぬ。彼がいないこの世界で、子供もおらず、果たして私はそんな人生を「よかった」と思えるのだろうか。
▼彼のことを綴った前回のnote
彼との距離が縮まったときから、こんなことを暇さえあればぐるぐる考えていた。結局結論が出ないまま、それを見て見ぬふりをして彼と毎日連絡を取り、会う頻度が増えて、2人でいると楽しい時間が過ぎて、そしてふと1人になるとまた同じことを考える。
そんな中、例の「嗜好が合致しすぎる彼」から、会おうという連絡があった。そもそも彼と会う約束は以前していたのだが、それが流れて、結局会えずじまいでいた。もう会うこともなくフェードアウトしていくかと思っていたのだが、彼はまだ私を気にしていてくれたらしい。
▼その彼とのことを綴ったnote
2人が付き合ったり結婚したら、どうなるんだろうね。彼が言った。初回の電話でそんな話題をされても何も本気ではないことは明らかだし、こちらも真に受けないけど、少しドキッとする。今度、一緒にどこかに行こうな。優しい響きでそんなことを言われたら、嫌でも気になってしまう。本当は、1人目の人と会える日を楽しみにしていたし、会ったらきっと好きになるんだろうなと思っていたのに、より近くで、興味を惹かれる人に出会ってしまった。彼とは来週半ば、平日夜に会う約束をしている。まだあまり顔もよくわからないし、実際に会ってみてどうなるかは予想ができない。けど、恋は本当にタイミングなのかもしれない。どちらに転ぶか、私自身もまだわからない。
18歳年上の彼(以後、Aさん)とのことを考え過ぎて息が詰まりそうになっていた私は、軽い気持ちで、嗜好が合致しすぎる彼(Bくん)の誘いに乗った。1人で悶々と考える時間が減るなら、誰でもよかったのかもしれない。Aさんとどうなるかわからないから、保険の意味もあった。Bくんには悪いけど、「誰も私に見向きもしてくれない」という恐怖から逃れられる、ひとつの安心材料だったかもしれない。
その日は金曜日だった。Bくんのほうが私よりも仕事が早く終わるため、私の最寄駅近くのお店までBくんが来てくれ、飲むことになった。
レストランの個室でコース料理を予約してくれていたBくんとは、駅で待ち合わせをしていた。男性がリードするというのはある人々にとっては当たり前のことなのかもしれないけれど、今までそういうことをしてもらった経験が少なかった私は、お店の選択や予約をスムーズに知らぬ間にしていてくれる、それだけで新鮮で、頼り甲斐を感じてしまっていた(むしろ今までどんだけダメンズとしか付き合ってなかったんだろうと思う)。
仕事が終わり駅に向かおうと外に出たら、雪が舞っていた。この街に来て、はじめての雪だった。吐く息は白く、本当の冬のはじまりを感じた。私の恋愛も、何かのはじまりなのかもしれない。終着駅は、自分でもよくわからない。
駅まで来るとBくんはすぐに見つかった。本当に趣味嗜好が同じらしい。私たちはほぼ同じ色味で同じシルエットの出立ちだった。
「はじめまして」
一応そう挨拶をしたけれど、そんな気がしなかった。もう電話でも何回か話しているし、2人の歩幅は一緒で、歩きながらたまに肩がぶつかるくらいの距離感。もう昔から知り合っていた2人のようだった。会話もスムーズだし、ぎこちないと感じることがひとつもない。不思議だった。そもそも最初の電話からこんな感じだった。Bくんとの息の合い具合に、Aさんに感じていた相性の良さはAさんだからこそのものでもないのかも、そのときはそんなふうにも思った。
Bくんは大手企業に勤めていて、年も2歳差。将来設計もしっかりしていて、私と同じく母子家庭で育って、価値観が似ている。結婚したら、子供が生まれたら、初対面なのにそんな話ができた。海外志向で、仕事でいずれ海外に行きたいと言っていた。こんなに考えがしっかりしていて、目標も高く、プライベートの趣味も同じような人が他にいるのか。私は、Bくんにも徐々に惹かれつつあった。まだ好きにまではなっていないけれど、自分の将来の相手としてふさわしいのは、誰が見てもBくんであると思う。
でも。Aさんのことが頭から離れなかった。Bくんと将来どうなるんだろうと考えながら、もしBくんを選んだとしても、選ばなかったAさんとの人生への後悔を抱きながら生きるんだろうな、そんな妄想さえしてしまった。
Bくんと会った次の日は、Aさんと会う約束をしていた。きっとAさんと会ったら次はクリスマスの話になるだろう。クリスマスに会って、年末年始も会って、そうこうしているうちに、きっと取り返せないほど好きになっている。そうなる前に引き返さなければいけない。引き返すとしたら今しかない、そんなふうに思って、Aさんに「今日会えない。ごめんね」と送った。正直に理由も話した。今は一旦距離を置いて、少し考えたい。そう伝えた。
Aさんはそれでも、会いたいよと言ってくれた。私も会いたかった。好きな気持ちが溢れ過ぎて、会えない時間を辛く感じるくらいになっていた。でも、ここで会ってしまったらまた同じことの繰り返しになってしまう。
私は、Aさんへの好意を心の奥底に閉じ込めることにした。会いたい、ここでお別れは寂しい、というAさんに「会えない」と再度送り、今まで2人で過ごしたささやかな時間を思った。涙が止まらなかった。こんなにAさんのことを好きになっているなんて、自分でもわからなかった。素直に辛かった。どうしてこんなに辛い思いをしなきゃいけないんだろう、Aさんと私が同じくらいの年齢だったら良かったのに。私がもっと早くに生まれて、もっと早くにAさんと出会っていれば良かったのに。こういうのを、運命というのだろうか。私とAさんの間には運命がなかったのかもしれない。普通に暮らしていたら出会うことのなかった2人が、マッチングアプリのせいで出会って、恋に落ちて、どうしようもないことが原因で辛い別れを強いられている。運命という不可抗力で、私たちは終わるかもしれない。こんな辛い思いをするくらいなら、Aさんに出会わなければ良かった。