時間

○月×日
朝から雨、ホームセンターへ女と食料品や日用品の買い出しに行くマクドナルドで休憩をしながら外の景色を眺めていた雨のせいか冬なのに寒くはない霧のような静かな雨が空気のなかを浮遊するように落ちていくマクドのコーヒーを持ち喫煙所で一服していると煙は雨に溶け込むように同化して消えてゆく俺と女は何も言わず、ただ黙って眺めていた

○月×日
運転免許証の書き換えで警察に行くのが億劫だが百円ローソンに証明写真を撮りに行く最近S村から麻雀のお誘いが来ないどうやら長男が引きこもりに成ってしまい自粛しているようだ案外家庭想いなんだなと少し意外に感じる俺の子供達はどうなのか離婚してから音信不通なのでまるで解らない、昼過ぎに友だちと公園で待ち合わせをする相変わらず妹と親父が出来ているんじゃないかと悩んでいるので影を掘ると妹が出て来た

○月×日
冬の大気は澄み切っていて煙草の煙はたまの晴れ間の空に吸い込まれてゆく俺は最近スマホに入れた断酒アプリを見ていた、断酒してからの時間が秒刻みにカウントされてゆく気が付くと日が暮れている・・・何時間見ていたんだろう・・酒を止めてから物忘れを酷く感じたり時間の観念が無くなるような時がある何か大切な物を無くしてしまったような気持ちが膨らんで不安の海に溺れそうだ少し離れたところから大きな黒い猫が黙って見ている

○月×日
免許の書き換えに早起きをして自転車で警察に行く、念のために朝晩に飲んでいる抑うつ剤のセルシンは飲まずに出かける飲むと強烈に怠く眠く成るからだ更新が終わると昼を回っていた萩ノ茶屋界隈は昼から酒を飲ませる店が所狭しと並んでいるのでとても危ない俺は見ない振りを決め込んでいたが、とうとう立ち飲み屋に吸い込まれてしまい気が付くと日本酒を２合飲み干していた免許の更新で手持ちの金が少なかった事がストッパーに成ったが収まりがつかず酒をもう２合一気飲みして店を後にした胃の中にぽっと灯がともる感じがして気持ちが良かった不思議と後悔や罪悪感は感じない２６号線に出ると段ボールのリヤカー引きのおっさんがリヤカーの前でゲージツ系の人のような妙な踊りをしていたしスーパーの前ではおっさんどうしが怒鳴り合っていた

○月×日
昼に女から「あたしも一緒に行くから○○断酒会に行ってみない」と誘われる俺は以前に断酒会と繫がっていた事があるので断酒会とかAAとかの、あの独特な雰囲気がどうも苦手だ適当にお茶を濁していると女が俺の背中に顔を押し付けてきた、どうやら泣いているようだ女の温もりが背中から伝わり俺は心から女を愛おしいと思った

○月×日
セルシンの服用を勝手に止めてから少し頭がスッキリしたような感じがするので久し振りに開店前のパチンコ屋に並んだ午前中から順調にまわり続けて夕方には結構な金に成ったそろそろ引き際だと思ったので店員を呼んで席を立ったらこの街に引っ越した頃に初めて付き合った女とバッタリ鉢合わせをした簡単な挨拶の後に「久し振りだから飲ませてよ」といわれ俺たちは赤提灯に入った元カノの今の彼氏はシャブの売人でパクられてしまい２年半の実刑が決まったと喋りながら生ビールで睡眠導入剤のデパスを流し込むように飲んでいる俺は今の女に悪いのでウーロン茶にした以前の女はタバコをくわえて火を点けようとするがラリッているので手元の焦点が合わず火を付けられないこの女と別れたのは薬中だったからだ目の前の女を見ているとこの女は後、何年生きられるだろうか？と思ったそれと同時に俺も飲みたくてウズウズして来たが今の女の背中の温もりが俺を引き留めさせた、この女と別れてから６年という時間が流れている俺にもこの女にも時の流れは平等だったはずだ平等な時間と言う流れの中でそれぞれの時間を俺たちはどう生きて来たのだろ目の前の女が子供の頃の顔になり小さな女の子が淋しそうに笑っていた

○月×日
大家が焚き火をして消防車やパトカーが押し寄せて又ひと騒動に成っている俺はリセットし直した断酒アプリのカウントを確かめ味噌汁に火を入れて「今度、断酒会に行ってみるわ」と言った、女が「うん、一緒に行こな」と笑った外はまた雨が降り始めたようだ。