3ヶ月で5キロ痩せて今リバウンド中

前の職場は怖かった。
何が怖かったって、職場の雰囲気がいちばん怖かった。
勿論始業2時間くらい前に事務所に行って、1時間あるお昼休みは55分潰して、帰りは終電1本前の電車に乗って帰る。
帰りが遅くなるのは嫌だから、朝早く来ても無駄だった。
とかく残業させるのが好きな職場だった。

そしてここが重要。
なによりかによりある女性がすこぶる怖かった。
何十年とその事務所で働く女性。
何故か女性社員は食堂に集まってご飯食べるのがその事務所のルールで、私も例に漏れず、お弁当の並んだ長机の隅っこで縮こまって座った。

ごはんは、ほとんど喉を通らない。

その女性はお昼休みには家族の話を楽しそうに、時に辛そうに話してくれて、他の女性社員の中心だった。
華やかで努力家で負けず嫌いで、とても責任感の強い彼女は自分のキャリアに相当な自信を持っていたように見えた。
そして他の人と、自分との区別が付いていないようだった。
公私を区別しない。
それが、事務所に愛着を持って何十年も腰をかけて働いている彼女であると、私の目には心には体には、映り感じのしかかった。

こぢんまりとした長命な事務所。
限られた人数。
悪く言えば閉鎖的で古臭い職場だった。
中心的な彼女が強い影響力と支配力を振りかざし、気に入らない人間には辛く当たり、周りの人間は嵐が去るのをジッと耐える石ころのようだった。
私は彼女の世間話を聞くのも人の悪口を聞くのも嫌になっていた。
それでも無理に笑わなければならないのが、本当に嫌だった。

勉強したCADソフトが使えるという理由だけで、全く興味のない分野に足を突っ込んだ私は5ヶ月で根を上げた。
5ヶ月。
あと1ヶ月頑張っていれば特急電車に突っ込んでいただろう。
それくらい頑張った。
もはやCADソフトなんて使わなくていいから楽になりたかったのだ。

結局年を跨ぐ前に退職した。
事務所を逃げる当日、私は誰の顔も見ず、ただただデスクトップを見つめた。
何度か中心的存在の誰かが私の方を窺う気配を感じたけれど、意地でも顔を上げなかった。
目を合わせなかった。
徹底的に自分の中に逃げ込んだ。

わたし無事に逃げ果せたのは、夜の8時を過ぎてからだった。
残業は2時間半。
最後のお給料にその2時間半は反映されていなかった。
それでも逃げ果せた結果、事実の方が、わたしには大きく、そしてこれから先への不安が大きかった。

それでも、今からはもう怯えなくて済む。
特急電車に突っ込もうかと幾度となくタイミングを見計らっては動けずじまいだった駅のホームで、わたしはやっと、硬直していたその膝を折って蹲ることができたのだ。

逃げきれた記念で買ったファミリーマートのシュークリームがめっちゃくちゃ美味しくて、舌の上でとろけるカスタードクリームに感動した。

生きてたらこれ食べれるんやで、これから先。
生産終了しなきゃな。

と、陰湿で劣悪な(言っちゃった)職場から逃げ果せた高揚の中で冷静な自分がいてちょっと笑えた。

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